第四章 強調
(a) 強調
103. 強調とは、ある母音を別の母音に変える行為のことです。
104. 強調を受ける母音は、a, i, ī, u, ū です。
105. 以下のようになります:
a が強調されると ā になります。
i が強調されると e になります。
ī が強調されると e になります。
u が強調されると o になります。
ū が強調されると o になります。
106. こうして得られた結果を、guṇa (=質) とも呼びます。
107. つまり、a の guṇa は ā で、i,ī の guṇa は e で、u,ū の guṇa は o です。
108. さらに、すでに学んだように (27,i,a; 27,ii,b)、末尾の e, o の後ろに母音が 続くときは、半母音 + (その母音) に変わることがあります。
109. これらとてもよく使う変化を表にすると以下のようになります。 よく憶えてください。
単母音 //// 強調形(guṇa) //// 母音+半母音
a //// ā //// なし
i,ī //// e //// ay
u,ū //// o //// av
110. 動詞語基や準動詞を作るとき (「動詞」の章を参照) や、 派生語を作るとき、いくつかの接尾辞の影響下で、しばしば強調が起こります。
注意: 一次的・二次的名詞の派生を考えるとき (「派生」の章を参照) は、 一気に以下のように考えると物事が簡単になります。
(i,ī) + a → aya
(u,ū) + a → ava
e + a → aya
o + a → ava
(b) 音位転移
111. 音位転移の例はすでに (78) で挙げました。
112. 音位転移とは、単語の中で文字や音節が並び変わることです。 以下に音位転移の例をもっと挙げます。
(i) pariyudāhāsi → payirudāhāsi
(ii) ariya → ayira
(iii) kariyā → kayirā
(iv) masaka → makasa
(v) rasmi → raṁsi
(vi) na abhineyya → anabhineyya
(vii) cilimikā → cimilikā
(c) 語中音添加
113. 語中音添加とは、単語の途中に余分な文字を挿入することです。
114. 語中音添加が起きるのは、たいてい、 発音器官の違う子音同士が隣り合ったときに、 その間に空隙が空くのを防ぐためです。
例
(i) klesa → kilesa
(ii) ācārya → ācariya
(iii) tiaṅgula → tivaṅgula
(iv) hyo → hīyo, hiyyo
(v) barhisa → barihisa
(vi) hrada → harada
(vii) arhati → arahati
(viii) srī → sirī
(ix) hrī → hirī
(x) plavati → pilavati
(d) 音節の脱落
115. 韻律のため、もしくは発音を楽にするために、音節全体が脱落することがあります。
(i) abhiññāya sacchikatvā → abhiññā sacchikatvā
(ii) jambudīpaṁ avekkhanto addasa → jambudīpaṁ avekkhanto adda
(iii) dasasahassī → dasahassi
(iv) chadaṅgula → chaṅgula