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第三章 同化

51. この章に含まれる事柄は、もしかすると「連声」の章の中に入れるべきかもしれません。 というのは、同化もまた、音便によって起こることにすぎないからです。


前章で説明した連声規則は若い学生でも簡単に理解して使うことができるのですが、 同化の規則は少なからず彼らを困惑させ、必要以上に読むのを遅らせてしまうということに 私は気づきました。このつまづきは、サンスクリットを知らないからです。 サンスクリットの知識を少しは持っていないと、パーリ語の勉強は 明らかに難しくなります。


以下に続く段落の中で、できるだけ簡潔に、明確に、同化規則を説明しようと思います。 この章は徹底的に勉強してください。そしてこの先の勉強中にも絶えずここを見返すことを強く強くお勧めします。


52. 同化とは、二つの子音が一つに交じることをいいます。 同化に際して、ある子音は、同じグループ ((§6)の最後の表で横の行のこと) の 別の音に変わります。 しかし全く別の音に変わることもあります。


53. 同化には二種類あります。


(i) 後ろの語の最初の子音が、前の語の末尾の子音に同化します。 これを、前進同化といいます。


(ii) 前の語の末尾の子音が、後ろの語の最初の子音に同化します。 これを、後退同化といいます。

I. 前進同化

(a) √lag (しがみつく) + na → lagna → lagga (しがみつかれた)

(b) √budh (知る) + ta → budhta → buddha (知られた)


(a) の例では、n (歯音) が g (喉音) という別の行の音に同化しています。 (b) の例では、t が 先行する dh に同化して d となっています。 どちらも同じ行の音 (歯音) です。

II. 後退同化

(a) √lip (塗る) + ta → lipta → litta (塗られた)

(b) √dam (制圧する) + ta → damta → danta (制圧された)


(a) の例では、p が次の語の始めの t と同化して、別の行の音になっています。 (b) の例では、同様に m が t に同化して n となり、別の行の音になっています。

一般的な同化規則


54. 同化が起きるのは、たいてい以下のものを作るときです: 受動動詞、受動完了分詞、第三活用動詞の語基、 不定詞、動名詞、可能受動分詞、願望動詞、 その他、派生語を作るときにいくつかの接尾辞に影響されて。


55. パーリ語では、後退同化のほうが多いです。


56. 黙音の後ろに黙音 (鼻音を除く) で始まる語が続いたとき、 一般的に後退同化が起きます。つまり、一つめの子音が二つめに同化します。

(i) sak + ta → sakta → satta

(ii) sak + thi → sakthi → satthi


57. 喉音は、後ろに続く歯音を同化します。

(i) lag + na → lagna → lagga

(ii) sak + no → sakno → sakko + ti → sakkoti


58. 喉音は、先行する語の末尾の歯音を同化します。

(i) ud + kamāpeti → ukkamāpeti

(ii) tad + karo → takkaro

(iii) ud + gacchati → uggacchati


59. 末尾の口蓋音は、後ろに歯音 (無声・有声問わず) が続くとき、 それを同化して舌音になります。*

(i) √maj + ta → maṭṭha または maṭṭa

(ii) √pucch+ ta → puṭṭha

(iii) √icch + ta → iṭṭha


(a) ただし、j の後ろに t が続くときは、t に同化することが時々あります。

(iv) √bhuj + ta → bhutta


(b) c の後ろに t が続くときも、時々 t に同化します。

(iv) √muc + ta → mutta


*これをよりよく理解するには、 単語は口蓋音や h で終われないということを頭に留めなけれはいけません。 なぜならこれらの文字は原始的なものではないのです。 口蓋音は喉音がいくつかの母音と接触して生じたものです。 h は昔の gh を表しているので、 (喉音 g が口蓋化した) j の帯気音です。 ですから、その元々の喉音が、単語の末尾で復活するのです。 このとき、喉音がそのままの形で復活することもありますし、 舌音に変化した形で復活することもあります。 そしてこれが、後続の歯音を同化したり、されたりするのです。 例えば、√pucch → puṭh + ta → puṭṭha ⇔ √muc → muk + ta → mukta → mutta。 √bhuj → bhuk + ta → bhukta → bhutta。 同じく、√maj → maṭ (ṭ = Sansk. s) + ta → maṭṭa。 サンスクリットでは、√mṛj + ta → mṛṣṭa = パーリ: maṭṭa。


60. しかし、歯音で終わる語の後ろに口蓋音で始まる語が続くときは、 口蓋音へと同化します。

(i) ud + cināti → uccināti

(ii) ud + chedī → ucchedī

(iii) ud + jala → ujjala

(iv) ud + jhāyati → ujjhāyati


61. 末尾の舌音は、後ろに続く無声歯音 (t) を同化します。

√kuṭṭ + ta → kuṭṭha


62. 末尾の歯音は、後ろに以下のような子音が続くとき、 それに同化します。

(i) ud + gaṇhāti → uggaṇhāti

(ii) ud + khipati → ukkhipati

(iii) ud + chindati → ucchindati

(iv) ud + jhāyati → ujjhāyati

(v) ud + sāha → ussāha

(vi) ud + tiṇṇa → uttiṇṇa

(vii) ud + loketi → ulloketi


63. 有声帯気音に、t で始まる語が続くとき、 前進同化が起きます。有声帯気音は帯気を失い、 後続の t が有声化して、かつ 前の子音が失った帯気をもらって dh となります。

√rudh + ta → rudh + da → rud + dha → ruddha


注意: 末尾の子音が bh のとき、t で始まる語が続くと、 (t が dh になったあと) 後退同化となります。

√labh + ta → labh + da → lab + dha → laddha


64. 無声無気の喉音・唇音に、無声歯音で始まる語が続くとき、 後者へと同化するのが一般的です。

(i) tap + ta → tapta → tatta

(ii) sak + ta → sakta → satta

(iii) sakt + hi → sakthi → satthi

(iv) kam + ta → kamta → kanta


65. 無声・有声で無気の歯音に、唇音が続くとき、 後者へと同化するのが一般的です。

(i) tad + purisa → tappurisa

(ii) ud + bhijjati → ubbhijjati

(iii) ud + pajjati → uppajjati

(iv) ud + majjati → ummajjati


66. 末尾の唇音は、鼻音で始まる語が続くとき、それを同化することがあります。

pāp + no + ti → pāpno + ti → pappoti

鼻音の同化


67. m + t は nt となります。

√gam + tvā → gamtvā → gantvā


68. sm という並びは保存されます。

tasmiṁ, bhasmā, asmā, usmā。


69. 歯音に鼻音で始まる語が続くとき、鼻音に同化します。

ud + magga → un + magga → ummagga


注意: ここでは、末尾の d は、後ろに鼻音が続くので、 まず同じグループの鼻音 (n) に変わります。そしてこの n (歯音) が、 m (唇音) に同化します。(67) の gantvā も同じです。

(i) ud + nadati → unnadati

(ii) √chid + na → chinna

y の同化


70. 一般的に、子音に y が続くと、前進同化が起きます。


71. y の同化が起きるのは、主に、受動動詞を作るとき、第三活用動詞の語基を作るとき、 いくつかの動名詞を作るとき、たくさんの派生名詞を作るとき、です。

(i) √gam + ya → gamya → gamma

(ii) √pac + ya → pacya → pacca

(iii) √mad + ya → madya → majja

(iv) √bhaṇ + ya → bhaṇya → bhañña

(v) √div + ya → divya → dibba

(vi) √khād + ya → khādya → khajja (34)

(vii) √khan + ya → khanya → khañña


72. この規則は、複合語の真ん中でもよく成り立ちます。 前半部の最後の i が y に変わり (27,i,a)、 それが前の子音へと同化し、それに後ろ側の語がくっついて 複合語となります。

(i) pali* + aṅko → paly aṅko → pallaṅko

(ii) vipali* + āso → vipaly āso → vipallāso

(iii) vipali + atthaṁ → vipaly atthaṁ → vipallatthaṁ

(iv) api + ekacce → apy ekacce → appekacce

(v) api + ekadā → apy ekadā → appekadā

(vi) abhi + uggacchati → abhy uggacchati → abbhuggacchati

(vii) abhi + okiraṇaṁ → abhy okiraṇaṁ → abbhokiraṇaṁ

(viii) abhi + añjanaṁ → abhy añjanaṁ → abbhañjanaṁ

(ix) āni + āyo → āny āyo → aññāyo (34, 35)


*前置詞 pari は、しばしば pali に変わります。


73. (71) のように語頭にある y や、(72) のように末尾にある y が、 同化するに際して起きる変化のうち、最も良く起きるのは、 無声無気-歯音 t、有声歯音 d, dh が先行するときのものです。


74. つまり以下のような規則です:

(i) 末尾の ti + (似ていない母音) → cc + (その母音)

(ii) 末尾の dhi + (似ていない母音) → jjh + (その母音)

(iii) 末尾の di + (似ていない母音) → jj + (その母音)

(iv) 末尾の t + y → cc

(v) 末尾の d + y → jj

(vi) 末尾の dh + y → jjh

(i) ati + antaṁ → aty antaṁ → accantaṁ

(ii) pati + ayo → paty ayo → paccayo

(iii) pati + eti → paty eti → pacceti

(iv) iti + assa → ity assa → iccassa

(v) iti + ādi → ity ādi → iccādi

(vi) jāti + andho → jāty andho → jaccandho

(vii) adhi + āgamo → adhy āgamo → ajjhāgamo

(viii) adhi + ogāhitvā → adhy ogāhitvā → ajjhogāhitvā

(ix) adhi + upagato → adhy upagato → ajjhupagato

(x) adhi + eti → adhy eti → ajjheti

(xi) nadī + ā → nady ā → najjā

(xii) yadi + evaṁ → yady evaṁ → yajjevaṁ

(xiii) sat + ya → satya → sacca

(xiv) paṇḍita + ya → paṇḍitya → paṇḍicca

(xv) √mad + ya → madya → majja

(xvi) √vad + ya → vadya → vajja

(xvii) √rudh + ya → rudhya → rujjha


75. 末尾の th + y → cch:

tath + ya → tathya → taccha


76. 末尾の歯擦音は、y が続くと、それを同化することがあります。

(i) √pas + ya → pasya → passa

(ii) √dis + ya → disya → dissa


77. v + y は bb となります。

(i) √div + ya → divya → dibba

(ii) √siv + ya → sivya → sibba


注意: ただし、語頭においては、y (i が半母音化したもの) は 保存され、v は b に変わります。

(i) vi + ākaraṇaṁ → vyākaraṇaṁ → byākaraṇaṁ

(ii) vi + añjanaṁ → vyañjanaṁ → byañjanaṁ


78. h に y が続くとき、文字の交換 (音位転移) が起きます。

(i) √sah + ya → sahya → (音位転移) → sayha

(ii) √guh + ya → guhya → guyha


79. 末尾の歯音 (鼻音を除く) に y で始まる語が続くとき、 後者へと同化することがあります。

(i) ud + yuñjati → uyyuñjati

(ii) ud + yāti → uyyāti

(iii) ud + yāna → uyyāna

r の同化


80. 末尾の r は、後ろに黙音が続くとき、それに同化することが多いです。

(i) √kar + tabba → kattabba

(ii) √kar + tā → kattā

(iii) √kar + ya → kayya

(iv) √dhar + ma → dhamma


81. また、末尾の r が落ちることも非常に多いです。

(i) √mar + ta → mata

(ii) √kar + ta → kata


82. 末尾が ar のとき、r が落ちると、a が長くなることがあります。

(i) √kar + tabba → kātabba

(ii) √kar + tuṁ → kātuṁ


83. r の後ろに n が続くと、n は舌音化し、r はそれに同化します。

√car + na → carṇa → ciṇṇa


ここで i がでてくることは、受動完了分詞の章を読むと理解できます。


84. 末尾の r は、後ろに l が続くとき、それに同化することがあります。

dur (= du) + labho → dullabho

s の同化


85. 子音の後ろに s (または sa) が続くとき、 s はまず喉音か口蓋音に変わり、その後、前の子音に同化します。


86. 末尾の j + sa → kkha

(i) titij + sa → titikkha

(ii) bubhuj + sa → bubhukkha


87. 末尾の p + sa → ccha

jigup + sa → jiguccha


88. 末尾の t + sa → ccha

tikit + sa → tikiccha


89. 末尾の s + sa → ccha

jighas + sa → jighaccha


90. 末尾の s に y が続くとき、s は y を同化します。

√nas + ya → nassa (76)


91. ただし、この組み合わせは変化せずそのままのこともあります。

alasa + ya → ālasya


92. 末尾の s に t で始まる語が続くと、同化して舌音になります。

(i) √kas + ta → kaṭṭha

(ii) √kilis + ta → kiliṭṭha

(iii) √das + ta → daṭṭha


93. 歯音に s で始まる語が続くと、s に同化します。

(i) ud (または ut) + sāha → ussāha

(ii) ud (または ut) + suka → ussuka


94. s + t → tt になることがとてもよくあります。

√jhas + ta → jhatta


95. s + t → tth になることもあります。

√vas + ta → vuttha

h の同化


96. 末尾の子音に、h で始まる語が続くと、h は前の子音に対応する帯気黙音に変わることがあります。

(i) ud + harati → uddharati

(ii) ud + haraṇa → uddharaṇa

(iii) ud + hata (√han) → uddhata


97. 末尾の h に、鼻音が続くと、この組み合わせは音位転移 (78) するのが一般的です。

√gah + ṇa → gahṇa → gaṇha


98. 音位転移は hy, hv の組み合わせでも起きます。

(i) mahyaṁ → mayhaṁ

(ii) oruh + ya → oruyha

(iii) jihvā → jivhā


注意: 非常にまれですが、h に y が続くとき、後者へ同化することがあります: leh + ya → leyya。


99. h は時々 gh になります*。主に語根 han (殺す) においてです。

hanati (殺す) = ghaṭṭeti (殺す)

ghañña (殺すこと) ← √han (han = ghan + ya → ghañña)

ghammati (行く) → hammati (行く)


*h は古い gh の音を表しているので、 h は j の帯気音だということを思い出してください (59)。 ですから音便において h は j とまったく同じ扱いになります。 つまり、末尾の h は、あるいは k に、あるいは t になるということです。 上の規則はでたらめに見えますが、サンスクリットを知る者にとってはよく見知ったものです。


100. 末尾の h + ta は ddha になるのが一般的です。

√duh + ta → duddha


101. 末尾の h + t は ḍh になることもあります。

√lih + tuṁ → leḍhuṁ


(i が e に変わることについては、「強調」をご覧ください)


102. 以前に言いましたが (7)、 ḷ と ḍ が交換可能のことが非常によくあります。 ḍ が帯気音のとき (ḍh) は、それと入れ替わるものも帯気音 (ḷh) となります。


そして、(101) で h + t → ḍh ということを見ましたが、この ḍh は ḷh と 入れ替わることがあります。つまり以下のような形が見られます。

√muh + ta → mūḍha = mūḷha

√ruh + ta → rūḍha = rūḷha

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