誠意のない男性なんて嫌ですわ。公爵令嬢アリアーテは誠意ある方と幸せになりました。
アリアーテ・カレッソナ公爵令嬢は王宮の庭を歩いていた。
王宮の中にはこの国の蔵書を集めた貴重な書物が治めてある王宮図書館があるのだ。
貴族だったら許可を得た上で誰でも利用できる王宮図書館を利用する為である。
そこで、よく出会う背の高い黒髪碧眼の男性がいるのだが、
「今日もいい天気だ。カレッソナ公爵令嬢。」
「そうですわね。」
「王宮図書館へ用事があるのか?よく見かけるが。」
「ええ。あそこには貴重な蔵書があるので。」
この謎の男性。誰だか知らないが、アリアーテが王宮図書館への道を歩いていると待ち受けているかのようによく声をかけてくる。
顔は整っていてイケメンである。
しかしだ。
「貴方はどなたですの?よくお会い致しますわね。」
「私が誰だっていいだろう?君と話がしたいから話しかけているのだ。」
困ったものである。
アリアーテは18歳。まだ婚約者はいないが…好きな人はいた。
幼馴染のトール・シュテリア伯爵令息である。
ただ、彼が伯爵家の次男という事で、身分違いである。
だから、なかなか両親がトールとの婚約を認めてくれないのであった。
何度もトールと結婚したいとアリアーテは言っているのにも関わらずである。
トールはトールで、
「君とは身分違いだから諦めているよ。」
と情けない事を言っているし、
ちょっとどういう事よっーーー。
それに加えて、王宮図書館に行けば、謎の男性に声をかけられる。
貴方、誰よっ?????
誠意ある対応をしてくれる男性はいないのかしら?
アリアーテはイラついていたのだ。
その事を親友のミラージュ・キリソン公爵令嬢に相談した。
そうしたら、ミラージュは、
「良かったら、わたくしの兄と会ってみたら如何かしら?」
「お兄様と?」
「ええ。兄は草花の研究をしていて、今まで婚約者もいなかったの。でも、さすがに両親もわたくしもそろそろ兄には結婚をしてほしいと思っているのよ。歳は20歳。どう?」
「そうね…会ってみてもいいわね…どうせ、トールはわたくしの事、どうでもいいと思っているでしょうし…変な男に王宮図書館近くで付きまとわれてイライラしていたから丁度いいわ。」
キリソン公爵家の庭のテラスで、ミラージュ立ち合いの元、アリアーテはミラージュの兄、イリスに会ったのであった。
金髪碧眼のイリスは驚くほどに整った美貌を持っていた。
今まで誰も彼を狙った令嬢がいなかったのかと思った程である。
イリスはアリアーテに向かって、
「初めまして。アリアーテ。妹から君の事は聞いているよ。私は今まで研究の事しか頭に無くて屋敷に引きこもっている事が多かった。でも…私だって人生の伴侶が欲しい。
君の事を妹から良く聞いている。とても素晴らしい女性のようだ。
どうだろうか?私と婚約を結んでくれないか?」
アリアーテはイリスに向かって、
「わたくしはまだ貴方の事を良く知りませんわ。お付き合いしてからで結論はよろしくて?」
「ああ。それから答えを出しても構わない。」
「よろしくお願いしますわ。」
アリアーテの胸は高まった。
イリスは誠実だった。
街でデートしても、紳士的で、優しくアリアーテをエスコートしてくれる。
イリスに夢中になるのにアリアーテは時間がかからなかった。
アリアーテはイリスに頼んだ。
「卒業パーティでわたくしのエスコートをして下さらない?わたくし、貴方との婚約、受け入れたいと存じます。両親にもお話しますわ。」
イリスはアリアーテの手の甲にチュっとキスを落として、
「なんて嬉しい。アリアーテ。大事にするよ。ミラージュも喜ぶだろう。」
幸せだった。だから、まさか卒業パーティであんな騒動が起こるなんて思わなかったのである。
この国の王太子殿下は仮面で顔を隠していた。
何故なら、お忍びで出かけられない事が窮屈でたまらないという理由からだ。
だが、卒業パーティで、その素顔を見せると公言していた。
そんな卒業パーティで、アリアーテがイリスにエスコートされて、美しいブルーのドレスで現れれば、見覚えのある男性に声をかけられた。
「アリアーテ。その男はなんだ?」
「わたくしの婚約者でございます。それが何か?」
「そなたに婚約を申し込もうと思っていたのだ。私の名は、王太子グリスト。王太子命令だ。私の婚約者になれ。」
「申し訳ございませんが、わたくしは既に婚約をした身。お断り致しますわ。」
「それならば、私の力を持って婚約を白紙にしてやる。それで文句は言えまい。」
イリスが叫ぶ。
「あまりです。王太子殿下。我がキリソン公爵家とカレッソナ公爵家を馬鹿にするのですか?」
そこへ、幼馴染のトール・シュテリア伯爵令息が駆け込んできて、
「君は俺と結婚したかったんじゃないのか?ずっと両親に掛け合っているって言ってたじゃないか?」
アリアーテは慌てて、
「それは半年前の事でしょう?ずっと貴方と会っていなかったじゃないの。学園でも他のクラスでしたし、貴方とお会いしていたかしら?トール。」
「俺は君の言葉を信じて待っていたんだぞ。」
混乱が混乱を呼び、騒然となった。
アリアーテは叫ぶ。
「まずはグリスト王太子殿下。わたくしに付きまとうなら、きちっと身分を名乗って何故、公爵家に婚約の申し込みをしなかったのです?謎の男性に付きまとわれて喜ぶのは下賤な女であって、わたくしは公爵令嬢。薄気味悪いだけに決まっているでしょう。わたくしはイリス・キリソン公爵令息の婚約者です。ですからお断りします。」
そして、幼馴染のトールに向かって、
「貴方も貴方よ。わたくしと結婚したいなら、どうしてもっと真剣に考えてくれなかったの?情けないわ。半年前から貴方とはずっと会っていなかったはず、わたくしはもう、イリス様の婚約者なのです。二度と会う事はないでしょう。」
二人の男性はあっけに取られて、
グリスト王太子は、
「私はこの卒業パーティで申し込もうと思っていたのだ。学園にいる間は王太子と解らないように自由に過ごしたかったから。どうか…考え直してくれないか?」
トールも、
「俺だってアリアーテの事、ずっと忘れた事はなかったよ。だけど身分が低いからどうしろっていうんだ?」
アリアーテはイリスに寄り添って、
「わたくしはイリス様の婚約者です。皆様。お騒がせ致しましたわ。どうか卒業パーティを楽しんで下さいませ。」
優雅にカーテシーをするとその場を後にした。
両公爵家から国王陛下に、今回の事の苦情を入れたら、グリスト王太子はしばらく謹慎という事で、王宮に引きこもる事になった。きつい王太子教育をみっちりと1年間やられるそうだ。
トールの家、シュテリア伯爵家へも苦情を言えば、伯爵家ご夫妻が真っ青な顔をして謝りに来た。
トールには別の女性をあてがって、結婚させるそうだ。
アリアーテはそれからしばらくしてイリスと結婚した。
「男性はイリス様のように誠意のある方が一番だわ。」
「それなら、私は幸運だな。周りに誠意ある男性がいなかったから君を射止める事が出来たのだから。」
二人の仲はとてもよく、沢山の子に恵まれ、幸せに過ごしたと言われている。