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青秋  ~奪われる視線~

作者: 宮野徹

これは、二人の高校生の恋愛模様のほんの一部を切り取った、日常の物語である。


彼女の名前は、出雲いづも秋。

容姿端麗、成績優秀。そんな漫画の登場人物にいそうな一人の女子高生。そんな彼女が一人の男子と交際関係になって早一か月。

彼の名は、水野青斗。出雲に比べて、パッとした特徴もなく、勉学も平凡である。強いて言えば多少運動神経がいいくらいで、それ以外は一般的な男子高生である。

プロフィールだけを見れば似通った点はあまりない二人であるが、それは、実際には全く意味のないものである。

好きになった女性が、多くの人から好かれる人気者だろうと、自身に思いを寄せる男性が、どれだけ臆病であろうと、それは決して不釣り合いなものとは呼ばない。

しかし、若さゆえに人は、そういった外見や弱い部分のみを見ようとしてしまうものだ。

二人が本当の意味で、自分の気持ちに素直になるのは、もう少し先のことだ。


「ねぇー、イズモン。先輩たちから、サビのバックダンスの併せやっておきなさいって言われたんだけど。ちょっと見てくれない?」

「いいけど。私、今日用事あるから、少しだけね。」

「何?用事って?」

「それは、・・・秘密。」

「ふーん。イズモン、・・・最近付き合い悪いよねぇ?」

心の中では申し訳ないと思っている。部の仲間たちと一緒に練習こそすれど、放課後コンビニ寄ったり、休日にカラオケに行ったりはしなくなった。していないわけではないけれど、その数は、以前と比べるとかなり少なくなっただろう。

「ごめんて。ちゃんと埋め合わせはしてるでしょ?」

一応、コンビニで買ったお菓子を御裾分けしたりして機嫌を取っているのだが、あまり許してはもらえていないみたいだ。かといって、素直に彼氏がいると言うのも、まだ、・・・まだ言いたくない気分だった。

「まぁいいいけど。じゃあみんなー?併せやるよー?」

しばらくして、部活仲間たちの併せ練習が始まった。


「ツー、トントン、ツートン、パっ。ん~♪」

そこは、いつも放課後に寄っている公園。彼女とよく、デートと呼んでいいかはわからないが、それっぽいことをしている場所。すぐ隣にコンビニもあるから、学生らしいことをするにはうってつけの場所なのだ。今日は別にデートと言うわけではないが、一緒に帰ろうと約束をしていたため、ここで待ち合わせをしていた。いつもは彼女が部活をしているから、ベンチに座って待っているのだが、今日はなぜか彼女の方が先に来ていて、そしてなぜか、彼女はベンチの上で華麗にステップを踏んでいた。

「何やってるんだ・・・。」

それは、なぜベンチの上で踊っているのかではない。なぜわざわざベンチの上で、スカートの中身を見せつけるかのように踊っているのか、ということだ。いや、実際彼女にはそんなつもりはないのだろうが、全然隠す素振りもないし、恥ずかしげもないのが不思議なくらいだ。一応、いわゆる見せパンというものは穿いているみたいだが、問題はそこではないのだ。

「出雲。」

「あ、遅かったね、アオ。」

「あぁ、うん、お待たせ。」

出雲はこちらに気づくと、すぐにステップの足を止め、ベンチから降りてローファを穿き始めた。彼女の様子はいかにも普通だが、それだとかなり不安になってくる。

「ダンス部の練習?」

「うん。秋の学祭のステージでやるやつ。」

学園祭は、まだ数か月先の話だが、こんなに早く準備するなんて。部にもよるだろうが、それにかける熱量が青斗にとっては驚くべきものだ。一応、県では進学校を謳っている高校だが文武両道が求められ、大会成績などではなく、その取り組み方などに評価が与えられるのだ。もちろん表彰されるような実績を残せば、それはそれで評価されるが、勉学もできてこそ認められるのだ。つまり、

「アオは何かやらないの?」

「いいよ、俺は。クラスの出し物やるだけで。」

帰宅部の自分は、勉学一本で頑張っていかないといけないのだ。もっとも、部活をしていない生徒もそう少なくはない。部活をしていないからといって、評価が下がるなんてことはない。ただやはり、地味に思われることは避けられないが。

「それより、さっきのダンスだけど・・・。」

学園祭の話はいいのだ。今彼女に言いたいことは、スカートを短くしていること、平然とミニスカートのままダンスをすること、見られているかもしれないという危機管理能力がない、ということをしっかり伝えねばならない。

「うん?」

「えっと、・・・言いにくいんだけど、丸見えだったよ?」

「丸見え?」

「・・・スカートの中。」

「あぁ・・・。」

そう言われて出雲は初めて、ウエストに織り込んでいたスカートを少し下げた。今更そんなことをしてもおそいだろう。なにせ、公園には子連れの親子や、小学生くらいの子供たちが遊んでいる。彼らの目には、女子高生が楽しそうに踊っている、とだけには見えていないだろう。

「もうちょっとさ、人目とか気にしない?まだ明るい時間だけど、変な奴に絡まれるかもしれないし。」

これだけ人がいれば、絡まれることは少ないだろうが、例え小学生のガキンチョ相手でも、青斗はいろいろと嫌だった。

「それでなくたって出雲は人を引き付けやすいんだから、もっと周りの視線とか気にしたほうが・・・。」

こんなことを言うと彼女を束縛しているような感じがして、それすらも嫌になる。自分の気持ちは自分が良く分かっている。どれだけ頼りない男であっても、彼女の想い人であり、彼女を想う人だ。そこにはきっと譲ってはいけないものがあるはずだ。男と女とは、そう言う関係だろうに。

青斗の言い様に、真剣さを感じ取ったのか、出雲は少ししおらしく縮こまって苦笑いを浮かべた。

「・・・ごめん。けど、学祭のステージ。衣装ミニスカートなんだよね。」

「えっ、マジ?」

出雲は困ったように首を傾げると、もう一段階スカートの折り目を戻した。

「下にレギンスは穿くよ?それも含めて衣装だし。そういうポップな感じを演出するから。」

まぁ、本番は全員同じような格好をするのだから、出雲だけに注目が行くというようなことにはならないだろうが。そもそも、それを主目的としての衣装ではないのだろうし、青斗が考えすぎといえば考えすぎなのだ。

「今だって、下着の上にちゃんと穿いてるし、問題ないでしょ?」

「問題は・・・ないけど。」

青斗は拗ねているのだ。出雲は、細身の体だ。背丈も女子の中では高い方だから、彼女がステップを踏む姿は客観的に見てもとてもきれいだ。そんな姿を見て、大半の人々は魅了されるだろう。今まで何度か見せてもらったが、ダンスもなかなか上手で、それに加え彼女の容姿は非の打ちどころのないほど端麗だ。男女問わず人気があり、そんな彼女と恋仲である事すら、青斗にとっては奇跡にも等しい事なのに。きっと彼女を好意的に見ない人などいない。彼女は本当に誰にとっても特別で、輝いて見えているのだ。そんな彼女の姿は、自分だけのものにしたいと。そう言ったら彼女は、ヘンタイ、と軽く笑って流すだろう。

「ごめん。なんか、変なこと言って・・・。」

言えるはずもない。たかだ彼女の服装一つでこんなにもモヤモヤした気持ちになるなんて、本当に変態とさして変わらない。情けないことだ。

「アオって、結構独占欲強いんだね。」

「あ、いや、その・・・。」

「ううん。なんか意外だなって思って。」

「意外?」

「アオは、もっとこう、飄々とした感じの人だと思ってたから、私がちょっと大胆なことしても気づかずにスルーするんじゃないかって思ってたから。」

それは、鈍感ということだろうか。正確が鈍いのは認めるが、そういうものに関しては気づかないことはないと思う。なにせ、青斗も一応の健全な男子なのだから。相手が想い人ならなおさら。気づかないわけにはいかない。

「俺はただ、周りの目を気にしてほしいていうか・・・。」

つまるところ言えばそういうことだ。

「わかった。気を付けます。でも、部活の練習の時と、本番は許してね?」

それは致し方が無い。別にスカートの中を他の男子に見られることが嫌なのではない。もちろん節操のない目で見られるのは不快だが、その気持ちを知っていてくれるだけで、このモヤモヤを自制できると思う。

「じゃあ、スカート折らないで、続きやっていい?」

「え?」

「もう少し、やっていきたいんだけど。いいかな。彼氏の前なら安心だし。見せたいってのもあるけど?」

それは、喜んでもいいのだろうか。ダンスの良し悪しなんてわからない。ましてや音楽もないただのステップだけだと、何をしているかさえわからないし。一緒に帰る約束をしていたはずだが、何だかうやむやになってしまった。有無を言わさず出雲は、青斗の前で鼻歌を歌いながら踊り始めた。彼女の歌声から察するに、かなり独特なテンポと曲調で、それに絡まる彼女の踊りは不思議な動きだった。声も出さずにその姿を眺めていたので、おそらく楽しんでいたのだと思う。何より、始終真剣な顔つきでそれを成す姿はとても美しく見えた。

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