第一話「出会い」
第一話「出会い」
高校生活が始まって、二ヶ月が経った。
学校にもなれてきた暖かい季節、俺にまさかの出来事が起きた。
みなさんは生霊というものを信じるだろうか?
死んではいないのに、強い未練、怨念が具現化しあたかもそこに人がいるかのように見えている物体。
そう、僕はその生霊の少女に出会いました。
これからその少女の話をしましょう。
「じゃあ、先に行ってからな」
「おう、悪いな。すぐ行くから」
俺は、友達の悠太を部活に先に行かせて教室に忘れ物をとりに行った。
すれ違う生徒はみな下校するか、部活にいくやつばかりだ。
無事に教室までたどり着き、忘れ物であるサッカーシューズを取り部活に行こうというとき、俺はふと隣の部屋に目がいった。
その部屋は昔使われていた教室で、今は生徒の人数が減ったため放置されている。
俺は、興味本位でその教室のドアを開けてみた。そこには普通の教室のように机と椅子が並べてあり、今にも授業を始められそうな雰囲気だった。
「ん?」
教室の隅に俺は目を向けた。そこには、一人の少女がつまらなそうに窓の外を見ながら座っていた。
俺はしばらくその少女を見つめていた。
すると、少女はこちらに気づき声を掛けてきた。
「ねえ、君」
突然話しかけられ驚いたが、俺は冷静に受け答えすることにした。
「何?」
「今暇?暇なら、あたしの話し相手になってよ」
俺は部活に行かねばと一瞬迷ったが、話をすることにした。
なぜならその少女がえらい可愛かったからだ。
「部活があるから、少しならいいよ」
「へえ、部活やってんだ。名前なんていうの?」
「何部かは聞かないんだ(笑)。俺、健史。伊東健史」
「だって部活なんて興味ないもん。あたし、橘由香。由香ってよんでね」
正直ドストライクです。
「あたしは、君のことけんちゃんって呼ぶね」
「けんちゃん?」
「いいでしょ?けんちゃんってかわいいじゃん」
ああ、これはヤバい。完全にホレてしまった。
そんな会話をしてる間に小一時間は経っただろうか。外を見れば夕日が沈みかけている。
「やべえ、部活もそろそろ終わりだな。俺、そろそろ行くわ」
「もう行っちゃうの?」
ああ、まだ話してたい。でも、ここは男らしく帰ることにしょう。
「悪いな。また今度話そうぜ」
「分かった。明日もここにいるね」
「おう、じゃあな」
由香のいた教室を出て二、三歩歩いたところで肝心の学年と組を聞き忘れていたことに気づき踵を返して戻ってみると、そこには由香の姿はなかった。
この数秒の間にどこに消えたのかと疑問に思ったが、そのときはもう帰ったのだろうと解釈し自分もさっさと帰ることにした。
俺は、家に着いてからずっと由香のことを考えていた。明日はアドレスを聞いて、距離を縮めることにしよう。完全に由香のことが好きになっていた。
由香は小柄で華奢、髪は腰に届くかというくらいのロングヘアだった。まさに、タイプの女の子だ。
今日は、由香のことを考えて寝ることにした。
朝、学校につき俺は友達の悠太に由香のことを聞いてみた。
「橘由香?聞いたことねえな」
「そうか一年じゃないかもしれないからな」
「その子がどうしたんだよ」
「いや、なんでもない」
悠太には由香のことは教えたくなかった。独り占めしたかったからだ。
その日も長い授業を終えて放課後になった。
「悠太、悪いけど先に部行っててくんない?」
「また忘れ物かよっ」
「まあ、そんなとこだ悪いな」
「お前、遅刻すんなよ。顧問キレてたぞ」
「はいよ〜」
教室のとなりの部屋へ急いでいく。
ドアを開けると昨日と同じ場所に由香はいた。
「けんちゃん遅い〜」
「ごめん。そういえば由香って何組なの?」
「え?…内緒」
隠す理由は分からなかったが、気になりもしなかった。
「じゃあさ、アドレス教えて」
「け、携帯もってないんだ」
今の時代に携帯をもってないのか?何か様子がおかしい。まるで自分の情報を隠してるかのようだった。
「いつもここで何してんの?」
「することないからさ」
「家には帰らないの?」
「つまんないし」
今時の女子高生が友達とも遊ばないで、こんな教室でなにをしているのだろう。見た様子だと何もしないで窓の外を見てるだけのような気がする。
「寂しかったんだあ。ずっと一人で」
「友達は?どこか遊びに行けばいいじゃん」
「友達いないんだ」
「じゃあ、俺が連れてってやるよ」
「無理だよ。どこにも行けない…」
「どうしてだよ」
「あたし、ここから出れないんだ」
一瞬、言葉が理解できなかった。ここから出れない?
「どういうこと?」
「あたし、本当はここにいないんだ。ここにいるのはあたしの心だけ。肉体はここにはいないの」
まてまてまて、何を言い出すこの子は
「手、触ってみて」
「手?」
俺は差し出した由香の手を握ろうとしてみた。
「…!?」
握ろうとした俺の手はただ由香の手を貫通した。
「お、お前…」
驚く俺に由香は悲しい顔で微笑むのだった。