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7.
“今晩、会える? 話したい事があるんだ。”
弘人からメッセージが入った。
弘人と付き合い始めてから二年が経とうとしていた。
花蓮が就職して五年が過ぎた頃、通っていたスポーツジムで二人は再会した。
花蓮は弘人と付き合うことなどないと思っていたが、何度か顔を合わせるうちに、弘人の方から付き合ってほしいと言ってきた。
「あれだけ私と付き合う気は無いと言ってたのに?」
「…それは…ちょっと事情があって…。」
「事情って?」
「…今はまだ言えない。」
「…。」
「嫌?」
「…いいよ。」
「やった!」
まるで子供みたいに弘人は喜びを露わにした。
8.
前に進むために、明らかにしておかなければならない事
嬉しいことがあっても、楽しいことがあっても、何故か冷めた自分に引き戻されてしまう。
その原因となっているのは、葵との決別だった。
あの一件は、花蓮を自分で全否定させてしまった。
葵に会おう。
会って理由を聞くんだ。
久しぶりの故郷。
花蓮の手の平のスマホには、いまだに消していなかった葵の電話番号が表示されている。
葵は電話に出てくれるだろうか?
自分の電話番号を消されている可能性もある。
会ってなんて言おう…
考えれば考えるほど胸が痛くなってきた。
それでも花蓮は勇気を振り絞って発信のマークを押した。
長いコール
やはり葵は出ない、そう思い始めたとき、葵が応答した。
「…はい…。」
「久しぶり。」
「…そだね…。」
「ちょっと…話したい事があって…、少しで構わないから時間作ってもらえないかな?」
「…わかった。」
花蓮は待ち合わせ場所のカフェで葵を待った。
窓の外には、向かいの公園の桜がきれいに咲いていた。
そんなうららかな春の陽気とは裏腹に、花蓮の心は重く沈みかえっていた。
そして葵がやってきた。
花蓮は恐々葵の顔を見た。思いのほか、葵は最後にあったときのように冷たい表情ではなかった。
「ごめんね、急に呼び出して。」
「ううん、大丈夫。」
「今日来てもらったのは…」
「あの時の事でしょ? 私が一方的に葵を拒絶した…。」
「うん…。」
花蓮の心の古傷が痛んだ。
「あれは…花蓮のせいじゃない…。私が耐えられなかっただけ…。」
「何だったのか、言ってもらえない? そうじゃないと私、前に進めない。」
「言いたくない。」
「お願い!」
「私は花蓮のためを思って言わないのもあるんだよ!」
「私の事、思ってくれてるんだったらなおさら言ってほしい! どんなことでも受け入れるから!」
花蓮は真剣に葵の目を見た。
「…わかった。」
葵はため息をついて話し始めた。