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「斎藤さん、突然の飲み会ではあったけど、みんな楽しんだからお金なんて返してもらわなくてもいいんだよ。」
小田は申し訳なさそうに花蓮に言った。
「ううん。迷惑かけたんだから、こういうことはキチンとしておきたいの。それに、これは私が戦って勝ち取ってきたお金だから。」
花蓮は鼻を膨らませて勇ましく言った。
「じゃ俺、みんなに返しとくわ。」
小田は花蓮からお金を受け取った。
「なんか…斎藤さん…、変わった?」
「そう? そっかな…。いや、隠れていた本当の私に近づいてきているのかも。」
「ふーん。」
「私、なんだかすごく気持ちがいい。初めて自分のこと守れたって気がする。」
「そっか。なんだかわからないけど、斎藤さんが元気になってよかった。」
小田はコーヒーを飲みながらニコニコした。
もちろん逃げる方がいい事もあると思う。
だけど…今迄みたいに、相手に振り回されて傷ついて終わりじゃなくて
自分が納得できる落としどころにもっていけるようになりたい。
花蓮は自分で自分の人生を作っていこう、という気持ちになった。
「そういえば…、あれからどうなってんの? あの時一緒に消えたでしょ、弘人と…。」
「…それ聞く?」
「…あんまりいい話ではなさそうだね…。聞かない…。」
「中島君は…よくわからない…。はっきり言えるのは、彼は私とは付き合うつもりはないみたい。」
「…俺、長年あいつと友達やってるけど、そこんとこだけ、いまだに謎…。あいつ絶対斎藤さんの事好きだよ!」
花蓮はそういう小田を訝しげに見た。
「でも…もういいんだ。実をいうと、私も中島君の事、高校時代からずっと気になってた。でもやっぱり縁がなかったんだと思う。もう、中島君の事は忘れることにしたの。」
「…まあ、斎藤さんがそう決めたんなら俺は何も言う資格ないしね…。」
「だけどね、私、中島君のおかげで、今やっと自分のこと守れるようになりつつあるんだ。」
「うん。斎藤さん、なんだか強くなったような気がする。」
「でしょ?」
「肝っ玉母ちゃんみたい!」
「やめて!」
二人は笑いあった。
花蓮は自分の事を、平凡で、何の取り柄のない人間だと、ずっと思っていた。
取り柄が無いんだったら、作ればよくない?
今、私は自由で、時間もあって、バイトを頑張ればお金だってある。
何か私にできそうな事…。
特技は…何もない。
興味あることも、思い浮かばない。
私は何なんだろう?
…女で…日本人で…
そうだ!
一つ一つ手に入れて、未来の私の武器にするんだ!