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6.
駅前の繁華街、午後7時。
花蓮はみんなを待っている。
サークルの先輩の美奈から幹事を頼まれて、店のセッティングをし、連絡した。
だが、時間になっても誰も来ない。花蓮は美奈に連絡をした。美奈からの返信は無かった。
花蓮のケータイが鳴った。今日来る予定の一人、花蓮の友達の瑞希だった。
「花蓮、どうしたの? みんな花蓮がドタキャンしたってひんしゅく買ってるよ。」
「え? 何の話? 私は予約した店の前でずっとみんなを待ってるよ!」
「何言ってんの? 花蓮が突然今日になって店の予約できなかったって美奈先輩に言うから、先輩が急遽他の店予約してくれたんだよ。6時待ち合わせなのに花蓮来ないし連絡もないから、もうみんな始めてるよ!」
…やられた…。
「花蓮ちゃん、責任感強いよね。」
バイト仲間で、花蓮と同じ大学の一年先輩の浅野が声をかけた。
花蓮は大学近くのカフェでバイトをしていた。
「そうですか?」
「そうだよ。だって、急に欠員出たときなんか、絶対出てくれるだろ。」
「まあ、けっこう暇してますから。それにバイト代増えると助かるし。」
「いや、それだけで出来ないよ。他のやつらなんかテキトーだもん。」
客が手をあげて店員を呼んだ。浅野はそれにすぐ気づいて客の方へ行こうとした。
その時、
「今度の休みさ、どっか行こうよ。」
浅野は去り際に花蓮の耳元で囁いた。
花蓮はそれから浅野と時々会うようになり、付き合っているのかいないのか、微妙な関係になっていった。
「花蓮、こんどの打ち上げ、幹事してくれない? ほんとは私がする予定だったんだけど、ちょっと用事がたてこんじゃって、できそうにないんだ。」
美奈が花蓮に尋ねた。
「…幹事ですか…。わかりました。がんばってみます。」
「それから…悪いんだけど、花蓮が幹事してくれるの、みんなには黙っててもらえないかな? いろいろ面倒だから…。お店決めて予約してくれたら私が連絡回すから教えて。」
「了解です。」
花蓮がそういうと、美奈は花蓮に微笑んだ。
花蓮が全てセッティングし終えた頃、瑞希が花蓮の元に息を切らせて駆け寄ってきた。
「花蓮! もしかして浅野さんって人と付き合ってない?」
「え?」
「最近、時々一緒にいる人、浅野さんじゃないの?」
「うん、そうだけど…。でも…付き合ってるって言っていいのか…。バイト先の人なんだけど…。」
「やばいよ、花蓮! その人美奈先輩の彼氏だよ!」
「えっ?」
「浅野さん、そんなこと一言も言ってなかった。」
「美奈さん、わかってるよ…。何も言ってきたりしてない?」
「…うん。」
絶対に嫌がらせだ…。
どうしよう。
キャンセル料が発生しちゃう…。
これからどう対処したらいいのかパニックになった。
花蓮は悔しくて震えた。
悔しくて涙が溢れてきた。
「斎藤!」
後ろから花蓮を呼ぶ声が聞こえた。
弘人が立っていた。
「おまえ、泣いてんの?」
花蓮は泣き顔を見られなくて顔を背けた。
「どうしたんだよ?」
「…何でもない。」
「何でもないはず無いだろ!」
「…。」
弘人は困ったような顔をして、震えながら泣いている花蓮を抱き寄せた。
「何があったんだよ? 話してみて。」
弘人は困ったように花蓮の頭をポンポンと叩いた。
「…タキャン…れた…。」
「ん? 何? 聞こえない。」
「サークルの飲み会、ドタキャンされたの! 当日だからキャンセル料発生しちゃう。」
花蓮の目から大粒の涙がポロポロ溢れ出た。
「なんだそれ!」
「サークルの先輩の…彼氏が…私と同じバイト先で、時々二人で会ってたんだけど…、その人、その先輩の彼氏だったらしくて、多分それで頭きて嫌がらせされたんだと思う。」
「ハァ? 何それ! 直接言えばいいじゃんか! 陰湿だな! で、何人なの? 予約入れたの。」
「…20人。」
「…マジか…。」
弘人はため息をついた。
「そこの店だよな。ちょっとここで待ってて。」
弘人は店の中へ入っていった。
数分後に出てきた。
「やっぱ無理だって。まあ、店側にとっちゃ当然だよな…。」
当然だったが花蓮は肩を落とした。