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コペンハーゲン  作者: まんまるムーン
12/15

8-4





 いつしか母親は、自分の感知しないところで、自分に変化が起こっているのに気づいた。


人との会話の中で、あの時あなたこう言ってたよね、と言われても、言ったことを全く覚えていなかったり、時には行動全ての記憶が丸ごとゴッソリ無くなっていた。


そういうことが度重なり、母親は外に出るのが怖くなった。


引きこもりがちになっていくと、自分の身の回りにも気を配れなくなった。どうせ外に出ないからと、化粧もせず、一日中パジャマのままで、時には風呂に入るのもおっくうになっていった。


そういう妻を見て、夫はますます妻の存在を無視するようになっていった。



そんな彼女を心配していたママ友が、家にじっとしているより、外に出た方がいいと学校のPTA役員に誘って来た。


花蓮の母親も、心の中ではこのままじゃいけないと思っていたので、その誘いを受けることにした。



初めての会合に行くために、久しぶりに美容院に行った。美容院で同世代向けのファッション誌を読んで、学校向けのコーディネートを調べた。


その足で洋服を買いに行った。


母親は、まるで自分が生まれ変わったような気持ちになった。


 外見を変えると心まで生まれ変わるのね。


彼女は、改めて過去の自分を反省して、もっといい方向に変わろうと思った。



そんな時だった。葵の父親と出会ったのは。



彼もまたPTA役員をしていた。


娘同士が仲が良いこともあって、すぐに意気投合した。


いつしか花蓮の母親は、葵の父親に自分の悩みを相談するようになっていた。



葵の父に悩みを相談するようになって、花蓮の母は自分の心がどんどん元気になっていくのを感じた。


酷かった物忘れも、最近ではあまり無くなってきた。


そして、気づいたときには葵の父親への気持ちが抑えられないところまできていた。


そして、顔を合わせるにつれて、お互い好意を持っていることがわかるようになってきた。




花蓮の父親は、母親の変化に気づいていた。


そしてある日、荷物をまとめて家を出て行った。


二人の間にもはや争いも無かった。



「葵ちゃんのお父さんは、家を出ると言ったの。でも、そんな時だった。おばあちゃんが倒れたのは…。」


花蓮が高校三年の夏休みに祖母が倒れ、そのまま寝た切りになってしまった。


それから母は祖母の世話に追われるようになった。



「おばあちゃんのせいでママは家を出なかったの?」


花蓮は目にいっぱい涙を溜めて言った。


「違う! おばあちゃんが私たちを家族として引き留めてくれたのよ!」


母も目にいっぱい涙を溜めて言った。


「私は…本当にバカで…弱くて…本当に大事な物を手放してしまうとこだった。」


「ほんとにそうなの?」


「そうよ。葵ちゃんの家庭を壊して、私と花蓮の関係を壊してまで手に入れる物じゃないって、ほんとにそう思ったの。」


母娘は涙を溜めて向かい合った。



「私は…パパはあんなに横暴で、それに対して何もしないママが…正直嫌だった。ママが私の為に頑張ってくれるほど、それが重荷に感じてた。ママが受けているストレスを私のせいにしないでって…思ってた。そして葵とも理由もわからないまま絶縁状態になってしまって、もうこの家に、この場所に私の居場所なんてないって思ってた。」


花蓮は涙をポロポロ流しながら一生懸命話した。


「でも違うの…。私は本当は…ママが一人で苦しんでいるのを無視してた。目を逸らしてたの。ごめんなさい、冷たい娘で…。」


「私こそ本当にごめんなさい。あなたを守らなけらばならないのに、それどころか辛い重荷をずっと背負わせてた。」



肩を震わせて泣く娘を母は抱きしめた。







「ふーん、小田は元気なのね?」


「うん。小田君ってさ、ほんとにいい人だよね! 葵とすごく合ってると思う。」


葵と花蓮は高校の帰り道によく立ち寄った公園のベンチに座って、昔のように語り合っていた。


「そう? 私がどれだけあいつに悩まされたか? あいつけっこうモテるからさ、ほんと面倒くさいことに巻き込まれるんだ。知らない女にいきなり喧嘩ふっかけられたりとかさ。」


「そなの? それはちょっと面倒くさいね…。」



「花蓮はやっと中島と付き合うことになったんでしょ?」


「…うん。」


「私はそうなると思ってたよ。むしろそうならない事が不思議だったもん。」


「そう? 私は絶対無いかと思ってたよ。何度かそうなるかなってタイミングあったんだけど、全部むこうから断られたし。嫌われてるんだと思ってた。」


「…。あんな見つめ方してて花蓮のこと嫌いだったとしたら、性格異常者だと思うけどな…。ま、でも、よかったじゃん。」


「うん…。」


「中島…、どうなの? 優しい?」


「うん。そだね、優しい。なんと言うか…、一緒にいて楽かな。何考えてるんだろ、何してあげたらいいんだろ、とか…、あんまり察してあげなくても中島君ってわりと平気な人だから。理由がわからなくて不機嫌になったりとかしないし…。」


「そうなの…。中島がそうなのもあるけど、花蓮が大人になったのもあるんじゃない? なんか花蓮、変わったなって思った。昔の花蓮だったら、自分から私に聞いてこなかったと思う。ちょっと悪い言い方だと、蓋しちゃうっていうか、逃げ出しちゃうっていうか…。だから嬉しかったの。いつか私から花蓮に謝らなきゃいけないって思ってんだ。」


「私変わった? 肝っ玉かあちゃんみたい?」


「何それ?」


葵は噴出した。


「小田君に言われた。」


「あはは。確かに…。」



「花蓮は中島と結婚するの?」


「結婚? そんなこと考えたことないよ。」


「だって、私たちもう28だよ。そろそろそんな話でてもおかしくなくない?」


「そっか…もうそんな年代なのか…。まだまだ先だと思ってたけど、私たち、着実に年を取ってるんだ…。」


「そんな話は出てないの?」


「全く…。」


「そろそろ出てくるんじゃない?」


「…あるのかなぁ…。」




 中島君と結婚…



 想像すると…悪くないかもしれない。


 というか…、意外と楽しいかもしれない…。




花蓮には弘人との結婚生活が簡単に思い浮かべられた。








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