2話 ルシル・メア・グッドナイト
待ち合わせのカフェに着くと、ルシルさんはソファーに優雅な姿勢で座り、コーヒーを飲んでいました。
彼曰くアメリカンブラックコーヒーが一番美味しいらしいのですが、私は眠れなくなるのであまり好きじゃありません。
「もう1人女の子……?」
ルシルさんはにこやかに笑います。
「あはは、よく間違われますが、俺は男です」
「男!? まさか……オヤジ狩り!?」
オヤジ狩りの意味は分かりませんが、 おじさまはルシルさんが男性である事に酷く驚いていました。
確かにおじさまが驚くのも無理はありません。ルシルさんは長い黒髪、切れ長の瞳。艶のある唇、スラリとした細い指と……女の私でも綺麗な女性にしか見えません。彼が男だと知ったら、世の女性はきっと嫉妬に狂うのでしょうね。
ルシルさんは私を見ると、ニコりと笑いました。「ご苦労様、いちごちゃん」良かった……、上手く出来たのですね。私は胸を撫で下ろしていると、ルシルさんは笑顔のままで、「君、また誘惑しただろ?」
ルシルさんはにこやかなまま、だけど少し強い口調で言います。私は少しびくりとして、首を振ります。
「してません!」
「お客さん、この娘は貴方になんて言ったの?」
「えっ……私と2人で楽しい夢を見ようとかなんとか……」
はぁー……と、ルシルさんは大きくため息をつきます。
「あのさ、いちごちゃん。この街でその言葉は夜伽の誘いにしか思われないよ?」
「えぇ!? ……そうなのですか?」
「そうだよ。全く、知識が無いくせに妙に艶のある言葉ばっかり言う、天然エロガールなんだから」
「て……エロ!?」
今まで言われた事無い類のいじわる言葉に私はまた胸が熱くなり、同時になんだか凄く腹が立ちます。
「ルシルさん酷いです!」
私の批判に彼は嬉しそうに笑います。「酷いよー。俺は悪魔だからね。……まぁこの国では小悪魔ガールなんて言葉もあるから、悪魔としては正しいのかな。――お客さん、悪いね。この子が勘違いさせたみたいで」
「オヤジ狩りじゃ……無いのかい?」 おじさまは恐る恐る問いかけます。
「申し遅れたね」
ルシルさんは立ち上がり公爵の様にお辞儀をしました。彼の長い髪と身に付けてる銀のネックレスが揺れます。
「俺はルシル・メア・グッドナイトと言います。そこの天然少女はいちご。俺達は、夢屋という職の者です」
「夢屋……?」
「そう、貴方は、なんとしても見たい夢がありますね? 俺達はそんな貴方の願いを叶える事が出来るんです」
ルシルさんはニコニコと話します。私に向ける笑みとは全く違う、これが俗に言う営業スマイルなんだなぁと妙に感心してしまいました。
「……本当にどんな夢でも見られるのか?」
おじさまはルシルさんの言葉に魅了されたかの様な声を上げます。
「――えぇ。お約束しますよ」
ルシルさんは今度は少しだけ、悪魔らしい笑みを浮かべたのでした。




