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戴冠式

掲載日:2018/09/19

 ふんわりとしたパフスリーブ、レースが何層にもなっていて、裾が広がる柔らかいモスリンのドレス。チョーカーはドレスとお揃いの生地で、細かいフリルが付いてるの。大粒の真珠でできたイヤリングは、動く度に耳元で、振り子のようにゆらゆらと揺れ、私の魅力を増してくれる。ティアラは真ん中がハートのモチーフになっていて、ダイヤモンドが無数に散りばめられているの。光の具合でキラキラ輝くそれは、誰もが憧れる、プリンセスの象徴。

 食事はいつだって豪華よ。真っ白で床までつく長いクロスがかかったテーブルには、毎日花が飾ってあるわ。ピンクとか、オレンジとか、私の好きな花ばかりが飾られるの。ふわふわの座り心地のよい椅子に腰かけて、ナイフとフォークでお上品に食べましょう。勿論、パンは一口サイズに千切って食べるし、スープを飲むときは、スプーンで手前から奥へすくって。食器は音がならないように、シルバーで作られたカトラリーをうまく使って食べるの。

 昼間はお城の一番上のテラスで本を読むわ。恋愛小説を読み耽って、素敵な王子様と恋に落ちる未来を想像するの。そして執事が息を切らせてこう言うの、姫様! お勉強の時間ですよ、って。嫌々連れられて、この国の歴史、バイオリン、ピアノ、算数や語学を勉強する。座りながらするお勉強も決して嫌いじゃないけど、外に出て庭の花の名前を覚えたり、フェンシングをする方がきっと好きね。案外私、体を動かすことが好きだから。

 大きな庭は沢山の薔薇が咲き乱れ、誰もが息を飲むわ。シーズンでは真っ赤な絨毯が一面に広がるの。勿論、他にも沢山の花が咲いているけれど、多過ぎて名前が覚えられないのよね。屋敷の近くには噴水があり、小さい頃はそこで水遊びをして、お母様に怒られてしまうの。ま、大人になってもたまに足を浸したりするけれど。少し離れたところには温室があって、そこにはベンチがあるの。お母様と一緒にそこでランチをするのが好き。あと日光がほどよくて、お昼寝に最適!

 勿論、ダンスも嗜むわ。舞踏会では、大きなダンスホールで素敵な殿方とダンスを踊る。天井に咲くシャンデリアの下で、ハイヒールの踵を鳴らしながら、夜の華になるの。真っ赤なドレスは私が動くたびに裾が広がる。庭に咲く薔薇の花に嫉妬されるくらい、美しい花となって、ホールに花開くの。誰もが私の前に跪き、ダンスを申し込むでしょう。バックミュージックは、プロの楽団による生演奏。私達のために、ロマンチックなワルツが奏でられるの。

 1日の終わりには、大きなバスルームで疲れを癒す。浴槽には沢山のバラの花が散りばめられ、乳白色のお湯は甘くていい香りがするの。 肩まで浸かって、沢山汗をかいたあとは、淡いピンクのネグリジェを着て、自分の部屋でハーブティーを飲む。ああ、パックも忘れないで。日々のスキンケアは、王子様とキスするほど近付いても自信を持てるように、抜かりなく。全身に薔薇の香りのクリームを塗って、シルクのごとくすべすべになるように。髪にはスクワランオイルを毛先に塗って、三ツ編みにするの。しっとりした艶のある髪は、指通りが良い上に、とっても健康的に見えるわ。女磨きは、決して怠らないのが、私のポリシーよ。

 天蓋のついた大きなベッドは、いつも真っ白なシーツが敷かれ、優しいハーブの香りがする。毎日いい夢がみられますようにって、星にお願いするの。ふかふかのベッドは寝心地抜群で、すぐに眠ってしまうから、注意が必要よ。ごろごろしてしまうと、途端にベッドから出るのが億劫になっちゃう。

 ……今はどんな生活なのかって?

 服は可愛くないスーツ、装飾品なんて身に付けない。パンプスはかかとが低い真っ黒なものを履いて、走り回っているわ。踵はもうかなり擦りきれているからカツカツと音がする。足の親指は外反して、爪先は三角形になってしまった。

 食事は外食か、スーパーで買った惣菜が多いかしら。あとエナジードリンクは必須。一人で食べていると、味なんてどれも同じね。栄養すら考えるのが面倒。お陰で肌はぼろぼろになった。

 朝から晩まで働いて、へとへとになって帰ってきたと思えばすぐに朝が来る。上司やお局様に小言を言われながら、減らない仕事をひたすら片付ける毎日。

 うちに帰れば浴槽に湯をためるのも面倒で、化粧を落としたらシャワーで済ませてしまう。湯船に浸かることはほとんど無いわね。たまに新調する石鹸が唯一の楽しみかしら。お風呂あがりは化粧水を叩き込んでおしまい。ボディークリームはベタベタするから好きじゃないの。スキンケアなんてそんなものよ。

 くたびれた部屋着を着て、軋むシングルベッドで眠る。明日も朝が来ないように願いながらね。

 せいぜいこんなものよ。昔は夢を見ていたけれど、もうそんなものは捨ててしまった。だからね、リリア、貴方はきっと素敵なプリンセスになれるわ。そうありたいと願い、そうあろうと行動するならばね。


 リリアと呼ばれた年端も満たぬ少女は、お気に入りのドレスを身にまとい、小さな頭にちょこんとティアラをのせていた。どこにでもありそうなプラスチック製のそれを、彼女はひどく気に入っている。

「リリア、きっとすてきなプリンセスになる」

 そういってスカートの裾をつまみながら、たどたどしく跪礼した。

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