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追憶の天使   作者: 小河 太郎
其ノ弐「きずな≒妖精」
21/25

番外編(壱)

高校二年生への進級を控えた好翔と心優莉。

季節は冬、二月十四日。

そんな二人の何気ないお昼休みの一コマ。


「さて、今日は何の日でしょうか!」


「何だよ、唐突に……」


お昼休み。お弁当片手に俺の机までニコニコしながらやって来た心優莉(みゆり)


「誰かの誕生日か?そういえば、お前の妹、二月が誕生日だっただろうし」


「違います!きーちゃんの誕生日は二月であっても、二十八日だよ」


腰に両手を当て、若干ドヤ顔で否定する心優莉。


「ん〜、じゃあ、俺の誕生日?」


好翔(よしと)は、四月十四日でしょ!!っていうか自分の誕生日すら覚えていないの!?」


小ボケだったのだが、思いのほか丁寧且つガッツリ、ツッこまれてしまった。


「因みに、私は七月だよ!」


「十六日だろ。知ってるよ……」


少し嬉しそうな表情すんのやめろ。

そして、いつのまにか誕生日あてゲームになっていた。


「で、今日は何の日でしょうか!」


本題に戻る。


「今日は……」


俺は、黒板の方に記入されている白字の日付をチラッと確認する。

二月十四日、火曜日。

二月十四日は、何かあったっけか。

それとも火曜日ということに意味があるのだろうか。


そういえば、周りを見渡すとやたら男女が色めき立っている。

絵に描いたようなキャッキャウフフだ。


「あ」


「分かった?」


俺は、嫌々その名を口にする。


「バレンタインデー……、か」


「ピンポ〜ン!!」


俺は、深く溜め息をついた。


俺には全くと言っていい程、縁のない行事。

俺の中のカレンダーに、バレンタインデーなる文字列は、一度だって見たことがない。

クリスマスもそのひとつだ。


「で、バレンタインデーがどうしたん……」


俺が尋ね終える前に、俺の目の前には、ピンク色でラッピングされた四角い箱のようなものが差し出された。


「ん?何だよこれ?」


満面の笑みを浮かべる心優莉。

もしやと思ったが、俺はその箱を受け取り、ラッピングを紐解(ほどき)、フタを開けた。


「……チョコだ」


「ハッピーバレンタイン!」


何の恥ずかしげも無く、よくそんな台詞が言えるものだ。彼女の明るさにはいつも尊敬していたりする。

そして、これが俺にとっては初めてのバレンタインチョコのプレゼントだった。


「心優莉が、俺に?」


「うん、そうだよ!」


「本当に?!本気と書いてマジで?!」


「だから、そうだってば!!」


「一度だって俺にチョコなんかくれたことなかったのに??!!」


こんな経験、人生で全くの皆無だった為、何度も、大袈裟に質疑してしまうのだ。


「だって、小学校も中学校もチョコの持ち込みとかってダメだったでしょう?だから代わりに鉛筆とかシャーペン上げたりして」


あの筆記用具達は、全部、バレンタインのプレゼントだったのか……!!


何故、毎年その時期になると筆記用具がプレゼントされるのかとは、少し疑問に思ったこともあったが、全然気にしたことなんかなかった。

因みに俺はこの筆記用具達を「心優莉コレクション」と名付け、今も全て未使用で筆箱に忍び込ませている。


にしても、俺は彼女にお返しを一度もしていない。まさかバレンタインチョコの代わりだなんて思わないから、せいぜい誕生日にじゃがりことかポッキーとか奢ってやるくらいで……。


(って俺、もしかして、とんでもなくクソ野郎なのでは……)


「ありがとな……。その、今年は絶対にお返しするから」


「ふふ、ハナからお返しなんて求めてないよ。私は好翔に渡したくてあげてるだけだから!」


毎度(いつも)ことだが、なんて天使な奴なんだろうか。


本当のところ、彼女は本当に天使なのではないかと、時々思う。そんなわけないのだけれど、そう思ってしまう。


「チョコは、お昼ご飯の後だからね!」


「分かってるよ」


久々に、俺の顔はやわらかな表情を浮かべているような、そんな気がした。


そんなチョコレートの味は、どうだろうか。とても彼女らしいものだった。


バレンタインデー。

悪くはないのかもしれない。



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