用
僕はそれ以来、週刊漫画を彼女の働いているコンビニで買うようになった。わざわざ二、三駅離れたコンビニまで行き買っている。なんなら駅のコンビニでも売っているにも関わらず。
ほんの少しのでも彼女を視界にいれることが、僕にとって幸せなのだ。彼女が帰る時間に僕も同じ電車に乗り、同じ駅で降り、同じ帰り道を通り、少し隠れ彼女の後を追ってコンビニに入る。そして、彼女の入り時間までは他の漫画雑誌を立ち読みする。これが僕のルーティーンだ。おかげでいつも買っていない雑誌の大して興味のなかった海賊漫画まで展開が気になってしまった。無論、大学までの行きの電車でも彼女を見ている。時々自分が舐め回すように観てているのがバレているのではないかと、不安になることもあるが、おそらく大丈夫だろう。
※
「合コンまだセッティングできないのか?」
行動が遅い北村に問いかける。
「うーん、都合がつかねぇんだわ。一応話はしてるんだけどな。あんまり友達で都合のいい子がいないらしくて。彼氏がいるとかで」
僕はこの時思い出した。彼女が彼氏がいるのかを把握していないことを。多分いないだろう。そう思いたい。確かに彼氏がいるなら合コンに来ないだろう。
「じゃあわかった。お前の彼女の友達の篠川こずえさんを誘ってくれ」
「え、誰それ、まさかお前が前から言ってる好きな人?」
「そうだ」
「待て、じゃあ何、俺の彼女とお前の好きな人は友達ってこと?」
無言で頷く。
「まじかよ、世界って狭いな。おっけぃ、また伝えとくわ」
「ありがとよ大親友」
※
今日は彼女が見当たらない。いつもなら乗ってくる時間のはずなのに。彼女のSNSを開くと、
「風邪引いた〜学校休む〜」
という投稿があった。僕はいてもいられなくもなって、電車を降りて、ホームの売店で栄養ドリンクと、飲むゼリーを買って一駅分引き返した。改札を抜け、走ってマンションの前へ行くが、ここで僕は我に返った。部屋の中へ入れない。彼女を想う気持ちばかりが先走り訳の分からない行動を取ってしまった。その時一人の男がマンションの中へ入って言った。手にはコンビニで買ったであろう袋を持っていた。若い男。もしや彼氏ではないか。そうだとしても僕には何をすることもできない。トボトボと、ゼリーと栄養ドリンクを飲みながら、遅刻が確定した大学へ向かうことにした。