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蝶の紅涙  作者: 佐伯 梓
6/11

今日は学校の課題のせいで遅くまで残ってしまった。他国の大統領が日本に与える経済の何たら〜のレポートなんて書くこと思いつかない。

この前カラオケに行って帰った時間と同じくらいの時間で辺りは薄暗くなっていた。僕は彼女の乗る駅を待ち遠しく思い、ドアの横に立っていた。駅に着くと、彼女が乗ってくる。珍しくイヤホンをつけている。この数駅ばかりの時間を、刹那に消え、流れ行くこの時がどうか僕のものでありますように。と願うばかりだ。もし僕だけのものなら、今すぐにでも彼女を自分のものにして絶対に離さないのに。美しい姿で座る。いつもの席は空いていなかったので、違う席に座っている。相変わらず美しい。北村からは合コンの連絡は何もない。もし知り合えたなら眺めるだけじゃなく楽しくお喋りなんかして電車の中もハッピーに過ごせるのにな。僕はバレないように視線を向けたりそらしたりを繰り返す。そうこうしている間に時間は無情にも流れて行く。彼女が降りていく。立ち上がり出口に歩いていく。僕はなぜか、なぜか電車を降りていた。


彼女は改札を通る。定期券を改札の機械に通す。僕もそれに続いて、定期を改札の機械に入れる。イヤホンをつけたまま彼女は歩く。僕は彼女に気づかれないように、少し離れて後ろを歩く。僕は何がしたいんだ。こうやってコソコソと後をつけてて、情けないのは分かっている。声をかければ案外普通に仲良くなれるかもしれないのに、というか、大学生なんてそんなもんだろう。僕は声をかけよう声をかけようと思いながらも数十メートル後ろを歩いていた。

女の子一人に声をかけることもできないなんて、そもそもこの葛藤自体が情けない。男は股間でものを考えるなんて言うが、どうにも僕はそうじゃないらしい。僕は探偵が向いてるんじゃないかと駅から十分くらい歩いた頃だろうか、思うくらい気付かれずに後ろをつけていた。彼女がふと、アパートに入っていった。見た感じ五階建くらいの建物だ。僕は物陰に隠れ、ちらりとアパートを見るが、入り口がオートロックになっているらしい。まあ、もちろん侵入するつもりなんてないが。何階に住んでいるのかも分からないし、どうしようもできない。仕方なく僕は引き返すことにした。しかし、彼女の住んでいる場所が分かってしまった。何かの役に立つことはないだろうが、僕はちょっと嬉しかった。

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