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蝶の紅涙  作者: 佐伯 梓
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彼女は電車に乗る時、必ず左足から乗る。理由なんてないと思う。ただ、そうした方が乗りやすいのだろう。僕はその様子を眺めているだけ。彼女は空いている席にちょこんと座った。僕は電車ではいつも同年代であろうその彼女のことを眺めていた。話しかける勇気もなく、その女の子をコソコソと眺めているだけだ。「一目惚れ」だった。今春、僕が大学生になって、学校に通学のために電車に乗ると彼女を見つけた。同じ大学なのではないか、と淡い期待を抱いたが、僕が降りる駅の3駅手前で降りてしまった。そこは自分が通っている大学よりはるかに、賢い国立大学がある駅だった。学歴コンプ的な者は感じていない。なぜなら愛があればそんなチンケな劣等感などないようなものだ。「次は〜桜南駅〜桜南駅〜」

列車のアナウンスがあると、その駅で降りる人々は忙しなく降りる準備をし始めている。切符を探し始める人や、新聞を畳む人、携帯を閉じる人など、彼女は本に栞を挟んでパタンと本を閉じて、長い黒髪を揺らしながら立ち上がる。その姿はさながら荒野を舞い踊るカラスアゲハ蝶のようだった。僕は彼女が電車から降りるのを確認してから、三駅分の短い眠りに落ちた。



学校に着くと、適当な席に座りスマホを眺めて講義が始まるのを待っていた。ハゲ散らかした教授が教壇につき話し始めると、僕はスマホをポケットに入れ教科書を開き講義を聞く。しばらくすると、ドアがガラガラと開き、申し訳なさそうな顔で友人の北村が入ってくる。教授は北村をチラリと見た後にまた講義をし始めた。北村は僕がどこに座っているかを数秒探して、こちらに歩いてくる。僕は椅子の上に置いていた荷物をどけて北村の席を空けてやる。

「ワリー、ワリー」

口ではそう言っているが顔は笑っている。

「寝坊しちまってさ、出席ないからくるか迷ったわ」

北村は続けてそう言いながら席に着くと、教科書のページがわからなかったのか、

「何ページ?」

と聞いてきた。僕は21ページの真ん中より少し下を指差した。北村は「サンキュ」とでも言いたげな目配せをこちらにしてきた。その後10分ほどで北村は眠ってしまっていた。

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