席替えフィーバー
「きゅあぴゅん」企画参加作品です。
6年生の3学期になって、数日が過ぎ、先生が言った。
「明日席替えするぞー!」
「うおー!」
と盛り上がる男子軍団。そして、ほんの少数の「えー」という声。少数の声はある女子児童の席そばの男子ばかり。それ以外の男子は席替え大歓迎だ。
このクラスにはマナエちゃんという可愛い女子がいる。どの男子もその子のそばに行きたいのだ。
「席替えの方法、考えておいてくれ」
先生は呑気にそんなことを言うので、男子の“席替え心”に火を付けた。
『マナエちゃんの隣になるには、俺が席替えの方法を考える!』
全男子がそう思った。一致団結のクラス。
帰宅後、コウタはいかにしてマナエちゃんのそばに、できれば隣の席になれるかを考えた。
「じゃんけん、はダメだな。俺弱いし。やっぱくじびきかな」
手近にあるノートを5センチ角に切って、ふと考える。
「無理か」
公平ではあるが、コウタがマナエちゃんの隣に行ける可能性は低い。こういう時、どうやったらイカサマできるか考える知恵は小6男子にはないのだ。
「背の順だったら良いな」
コウタは男子の前から3番目。マナエちゃんも女子の前から3番目。
「てか、それで良くな~い!?」
うひひ、とニヤけながらコウタは妄想に突入した。
『あ、早坂ここなの?よろしくな』
なーんて、挨拶してさ。
『コウタ君、卒業まで一緒だね、よろしくね』
とか言ってくれんの。そんで、ハニカミながら
『早坂じゃなくて、マナエって呼んで?』
とか、言ってな。うひ、かわええ~。
なんで早坂ってあんなに可愛いんだろうな。他の女子にも見習ってほしいぜ。可愛いし優しいし、声は高いし、ん~、フランス人形みたいだぜ!
教科書忘れたら、見せてやるんだ。俺が忘れたら、見せてくれるだろうし。良くない?肩とか近くってさ。いー匂いしそう。ぐふ。
『コウタ君、一緒に帰ろう?』
とか言うかもな!家、おんなじ方向だし。雨が降ったら、一緒の傘に入っても良いですかー!!手をつないでも良いですかー!!
コウタよ、コレが小6男子の妄想というものだ。
翌日、学校に行くと、男子諸君は異常にそわそわしていた。緊張しすぎて声が大きくなっていて、マナエちゃんへのアピールが半端ない。
そしていざ、席替えの時間となった。
「じゃあ、どうやって決めようか」
先生がそう言うと、男子がこぞって手を挙げた。
「お、じゃ、小林」
先生は無難に、クラスの秀才君を指した。
「はい、あみだが良いと思います」
「賛成!」
クラスの女子からも賛成が出た。
コウタは分かっていた。小林はあみだで、当たりをゲットする能力の持ち主だと。実際、以前にも、小林はあみだくじで席替えをしたときに、マナエちゃんの隣になったことがあるのだ。そうはいくか。
「お、田中」
「あのですね、せっかく小学校最後なので、誕生日月ごとにグループになってですね、それで班を先生が動かして決めるってのはどうでしょうか」
田中め。マナエちゃんと同じ誕生月だからって、せこいぜ。
「せんせー!背の順!背の順が良い!」
コウタは田中には負けたくなかったので、思わず先生にさされる前に叫んでしまった。
「えー!」
一斉にブーイングを浴びるコウタ。
終わった。
コウタのもくろみは、誰の賛成も得られずに終わった。
男子は自分たちが考えに考えた方法を提案したが、なかなかいい方法はなかった。今のところ小林が提案したあみだくじが最強だった。男子諸君はそれだけは嫌だった。公平なんてクソ食らえだ。
「仲良し同士で3,4人のグループを組んで、くじ引きをするのが良いと思います」
そこへ出た案が、女子らしいものだった。
先生も納得した表情を浮かべている。
「小学校生活最後だからな、仲良し同士のグループは良いだろう。よし、じゃそれで行くか」
「はぁーい」
男子たちの返事はため息と区別がつかないほどに萎れていた。結局、仲良しとは一緒になれるけれど、マナエちゃんと一緒になれるかどうかは、男子にとっては公平に、運が全てということになってしまったからだ。
すぐにグループを組み、それぞれのグループがくじを引いて、席が決まった。机と椅子を持って移動だ。
ガタガタ、ガタガタ。
さすがに小6ともなれば、慣れたものだが、男子はまず女子がどこへ行くかを見極めたかった。マナエちゃんはどこだ!
「マジで―!」
一部男子が頭を抱えてのた打ち回っていた。ちなみにヤツらは、廊下側の一番前らしい。
そして、マナエちゃんはその対角。校庭側の一番後ろだった。マナエちゃんの前と横には女子ががっちり固めている。
しかしどの男子も、少なからずホッとしてはいた。結局男子は誰も、マナエちゃんの隣にはなれなかったからだ。
まあ、良い。
授業中、その笑顔が見られれば。
そして、コウタはそのわりとそばの、中央列の一番後ろだった。
『マナエちゃんのロッカーの前だ。笛舐めちゃおっと』
コウタの妄想はまだまだ広がり続けるのだった。
おしまい