表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短いお話したち

席替えフィーバー

作者: marron

「きゅあぴゅん」企画参加作品です。



 6年生の3学期になって、数日が過ぎ、先生が言った。

「明日席替えするぞー!」

「うおー!」

 と盛り上がる男子軍団。そして、ほんの少数の「えー」という声。少数の声はある女子児童の席そばの男子ばかり。それ以外の男子は席替え大歓迎だ。

 このクラスにはマナエちゃんという可愛い女子がいる。どの男子もその子のそばに行きたいのだ。

「席替えの方法、考えておいてくれ」

 先生は呑気にそんなことを言うので、男子の“席替え心”に火を付けた。

『マナエちゃんの隣になるには、俺が席替えの方法を考える!』

 全男子がそう思った。一致団結のクラス。



 帰宅後、コウタはいかにしてマナエちゃんのそばに、できれば隣の席になれるかを考えた。

「じゃんけん、はダメだな。俺弱いし。やっぱくじびきかな」

 手近にあるノートを5センチ角に切って、ふと考える。

「無理か」

 公平ではあるが、コウタがマナエちゃんの隣に行ける可能性は低い。こういう時、どうやったらイカサマできるか考える知恵は小6男子にはないのだ。

「背の順だったら良いな」

 コウタは男子の前から3番目。マナエちゃんも女子の前から3番目。

「てか、それで良くな~い!?」

 うひひ、とニヤけながらコウタは妄想に突入した。



『あ、早坂ここなの?よろしくな』

 なーんて、挨拶してさ。

『コウタ君、卒業まで一緒だね、よろしくね』

 とか言ってくれんの。そんで、ハニカミながら

『早坂じゃなくて、マナエって呼んで?』

 とか、言ってな。うひ、かわええ~。

 なんで早坂ってあんなに可愛いんだろうな。他の女子にも見習ってほしいぜ。可愛いし優しいし、声は高いし、ん~、フランス人形みたいだぜ!

 教科書忘れたら、見せてやるんだ。俺が忘れたら、見せてくれるだろうし。良くない?肩とか近くってさ。いー匂いしそう。ぐふ。

『コウタ君、一緒に帰ろう?』

 とか言うかもな!家、おんなじ方向だし。雨が降ったら、一緒の傘に入っても良いですかー!!手をつないでも良いですかー!!

 コウタよ、コレが小6男子の妄想というものだ。



 翌日、学校に行くと、男子諸君は異常にそわそわしていた。緊張しすぎて声が大きくなっていて、マナエちゃんへのアピールが半端ない。

 そしていざ、席替えの時間となった。

「じゃあ、どうやって決めようか」

 先生がそう言うと、男子がこぞって手を挙げた。

「お、じゃ、小林」

 先生は無難に、クラスの秀才君を指した。

「はい、あみだが良いと思います」

「賛成!」

 クラスの女子からも賛成が出た。

 コウタは分かっていた。小林はあみだで、当たりをゲットする能力の持ち主だと。実際、以前にも、小林はあみだくじで席替えをしたときに、マナエちゃんの隣になったことがあるのだ。そうはいくか。

「お、田中」

「あのですね、せっかく小学校最後なので、誕生日月ごとにグループになってですね、それで班を先生が動かして決めるってのはどうでしょうか」

 田中め。マナエちゃんと同じ誕生月だからって、せこいぜ。

「せんせー!背の順!背の順が良い!」

 コウタは田中には負けたくなかったので、思わず先生にさされる前に叫んでしまった。

「えー!」

 一斉にブーイングを浴びるコウタ。

 終わった。

 コウタのもくろみは、誰の賛成も得られずに終わった。



 男子は自分たちが考えに考えた方法を提案したが、なかなかいい方法はなかった。今のところ小林が提案したあみだくじが最強だった。男子諸君はそれだけは嫌だった。公平なんてクソ食らえだ。

「仲良し同士で3,4人のグループを組んで、くじ引きをするのが良いと思います」

 そこへ出た案が、女子らしいものだった。

 先生も納得した表情を浮かべている。

「小学校生活最後だからな、仲良し同士のグループは良いだろう。よし、じゃそれで行くか」

「はぁーい」

 男子たちの返事はため息と区別がつかないほどに萎れていた。結局、仲良しとは一緒になれるけれど、マナエちゃんと一緒になれるかどうかは、男子にとっては公平に、運が全てということになってしまったからだ。



 すぐにグループを組み、それぞれのグループがくじを引いて、席が決まった。机と椅子を持って移動だ。

 ガタガタ、ガタガタ。

 さすがに小6ともなれば、慣れたものだが、男子はまず女子がどこへ行くかを見極めたかった。マナエちゃんはどこだ!

「マジで―!」

 一部男子が頭を抱えてのた打ち回っていた。ちなみにヤツらは、廊下側の一番前らしい。

 そして、マナエちゃんはその対角。校庭側の一番後ろだった。マナエちゃんの前と横には女子ががっちり固めている。

 しかしどの男子も、少なからずホッとしてはいた。結局男子は誰も、マナエちゃんの隣にはなれなかったからだ。

まあ、良い。

 授業中、その笑顔が見られれば。

 そして、コウタはそのわりとそばの、中央列の一番後ろだった。

『マナエちゃんのロッカーの前だ。笛舐めちゃおっと』

 コウタの妄想はまだまだ広がり続けるのだった。



おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  ははぁ~  なっるふぉどぉ~  私にはmarronさんという方がわからなくなってきましたよ! ……って! いや、これは、私の中でそうとうスタンディングオベーション的な誉め言葉&感動…
[良い点] 妄想好きコウタ君の、きゅあぴゅんでしたね。 まさに、小学生男子の行動がきゅあぴゅなのですね。 楽しい、解釈です! 確かに、小学生にとって、特に男子にとって席替えは一大イベント。この時ほど…
[一言] 私の中でのきゅあぴゅん大トリ(追加がなければ)、拝読させて頂きました。 男子って馬鹿ですよね~。ですが事実こんな生き物です。 最後のセリフ、心臓が止まりそうになりました。 男子ならみんな考…
2016/12/03 18:19 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ