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一目惚れ・プロポーズ(笑)

「よっと」


 健司が転移にて訪れたのはどことも知れぬ山の中だった。


 木々が生い茂るその姿はつい今までいた小屋の周囲となんの違いもなく、彼が斬り倒した木々の有無が無ければ転移の失敗を疑ったことだろう。


「一先ず転移は成功したけど……………………、検索の条件が大雑把過ぎたかな。

 『俺の助けを必要とする人』で検索したから、少なくともそういう人が近くにいるはずなんだけど……………………」


 頭をカリカリ掻きながら周囲を見回すがそれらしき人影はない。探しにいくべきだろうがこんな山の中で闇雲に探しても道に迷うのが関の山だろう。どうしたものかと腕を組み思案していると離れた場所から落雷でもあったかのごとき轟音が響き渡る。


「うぉ、っと。なんだ今のは……………………」


 突然の轟音に驚くもそれも一瞬、今のがなにかしら手がかりになるだろうと音のした方に走り出す。刀をいつでも抜けるよう鯉口を切るため鍔に指をかけて木々の間を駆け抜ける。


 念のために身体強化の術をかけて自己強化をしながら山を駈けたおかげか、その場所にはすぐにたどり着くことができた。


 黒い着物を身に纏った少女が、肩に矢を受け斧の柄に側頭部を殴り付けられ吹き飛んでいく現場に。


「っ!?」


 地面を転がされ、木にぶつかってようやく止まった少女に、矢を向ける男の姿が視界の端に映る。


 いったい今どのような状況なのかは理解できないが、彼がこの場にいるのは彼の指定した条件を元にランダムに転移するという魔術の結果である。それを踏まえて考えれば自分の助けを必要とするのは倒れ伏した少女の方だろう、とそう考えが追い付くより速く健司は地面を蹴っていた。


 爆発的な勢いで視界が背後へと流れて行く。


 矢が少女へと放たれるのとほぼ同時にその間に飛び込むことに成功した健司は二人の間に飛び込むと同時に鯉口を切り、飛来した矢に向けて刃を抜き放った。


 なんの抵抗もなく抜刀した刃が空を切り裂く。真っ二つになった矢がそれぞれ地面に突き立つのを確認もせずに、驚愕に表情を歪めた男達を睨み付ける。


(状況からして検索に引っ掛かったのはこの少女の方。術式はアーサ・ヌァザ様から頂いたものだしそこに間違いはないはず。見た目人間みたいだけど、とりあえずそこのところは助けてからだ)


「なんだお前は……………………、邪魔するのか!?」


 剣を持った男が叫ぶのを耳にしながら、彼はそれを気にも止めずに行動に移る。


 少女を守ると決めた健司にとって厄介なのは飛び道具である弓矢だ。先ずはそれをどうにかしなければこの場を離れた直後に少女を狙い打たれる可能性がある。

 そう判断した彼は最初の標的を弓矢の男へと定める。羽織っていたコートを翻しベルトに提げていた革袋の中から幾つものパチンコ玉大の鉄球を掴み出す。

 じゃらじゃらと鳴るそれに魔力を通わせてそれを雷の魔力へと変質させる。あとは先日森の木々を斬り倒したのと原理は一緒だった。違うのは前回は真空を作り出すことで広範囲を切り飛ばしたのに対して、今回は風の力で磁力を発生させ無数の鉄球を放つということだ。


「お、っらぁっ!」


 下投げの形で放たれた弾丸が、帯びた魔力を磁力へと変換され強い反発力の元解き放たれる。


 原理はそのまま電磁砲のそれだ。それがショットガンさながらに射出され、標的とされた弓矢の男は何が起きたのかも分からぬまま、全身に鉄の球をを喰らい蜂の巣となって息絶えることとなった。


「おう、邪魔させてもらう」


 今更ながら剣を持った男の問いに返事を返して、そのまま地面を蹴って接近する。接敵しながら刀を示現流でいう蜻蛉に構えさらに魔力を通わせる。


 男がそれを防ごうと剣を掲げるが、健司はそれを意にも解さず刀を降り下ろした。


 降り下ろした刀越しに伝わってくるのは、まるで温めたナイフをバターに突き刺すのにも似た感触だった。抵抗らしい抵抗も感じずに降り下ろされた刃は防御のために掲げられた剣ごと男を真っ二つにしていた。


「キールッ、アルヒッ、くそ、なんなんだてめぇはぁっ!」


 無手の男が叫びながら距離を詰めてくる。無手とはいえその男の腕はまるで丸太のように太く、振るわれる拳をまともに受ければ鉄製の籠手を嵌めていることもあり相応のダメージを覚悟する必要があるだろう。


「けど遅いな」


 呟きながらあえて刀を手放した健司はまっすぐに突き出された拳を腕に手を伸ばしながら潜るように回避すると、そのまま身体を回転させて背を敵に密着させて頭上の腕を抱え込み、相手の腰を自分の腰の上に乗せ足を払いながら突き上げるように腰を持ち上げた。


「な、なぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 勢いよく背中から地面に叩きつけられた男。それは綺麗なまでに見事に決まった一本背負いだった。

 受け身もとれず叩きつけられ、胸の中の空気を強制的に吐き出した男は酸素を求めて苦しみ悶える。


 がその苦しみもすぐに終わる。健司が両腕を顔に巻き付けて一気に首を捻折ったからだ。


 息絶えた男をその場に放棄し、周囲に敵がいないか確認すると特に動く気配は感じられなかった。


 それに満足して先の少女の元へと向かった健司だったが、その少女の疑念と敵意に満ちた視線に迎えられるのだった。


「何者、じゃ」


 額と右肩を押さえた手の合間から血を流した少女は、痛みに歪みそうになる表情をつとめて隠しながら誰何の声が飛ぶ。


「あぁ、俺は君の味方のつもりでいるんだけどそれじゃ納得してくれないかな?

 あ、名前は桜磨 健司って言うんだけど」


「そんな言葉で納得できるとでも?」


「できればしてもらいたいかなぁって……………………」


 当然と言えば当然の返答に苦笑しながら改めて少女の容姿をその目にした健司は、思わず息を飲んだ。


(うわ、かわいい……………………)


 夜闇のごとく黒い髪は腰元まで伸ばされたストレート。吸い込まれるような黒色でありながら独特の光沢を持ち、僅かに反射する光はまるで夜空の星々のようだった。どぉかもとの世界の日本人に近い顔立ちでありながら肌の色は褐色、吊り気味だが凛とした強さを感じさせる蒼い瞳。今は疑心に表情を歪められているが顔立ちが整っているのは間違いなく、健司にとって彼女の容姿は完全にストライクゾーンを貫いていた。


 思わず想像してしまう彼女のあんな姿やこんな姿。激しく動いた直後でもあるゆえに僅かに着物がはだけていることが余計にそんな光景を想像してしまい、さらには二人きりでズキューンやドキューーンなことをしているところまで僅か1秒足らずの時間の中でこれでもかと思い浮かべてしまう。


「ぬぁあっ!貴様はいきなり何を妄想しとるんじゃ!?」


 とたん少女の表情が一転する。右肩を押さえていた手が胸元を隠すように動き、尻餅をついたまま這いずるように後ずさる。表情も疑念と敵意から羞恥や身の危険でも感じたかのようなものに変わり頬も紅く染まっている。


「いや、あまりにも綺麗で可愛かったものでつい……………………、というか俺自身そこまで考えたりしたことなかったしストライクゾーンはとても広いと思ってたんだけど、君みたいな子が特に好みだったみたい。

 うん、一目惚れした。だから俺の女になってください」


「本当にいきなり何を言い出しとるんじゃ!?」


「何をも何も愛の告白です。

 あ、ハーレム作る気は満々だけど正妻は君に決定だから」


「何をわけわからんことを、というか言ってることに最低じゃな貴様!?」


「そんなに誉められても……………………」


「誉めとらんわ!」











・kenji


「誉めとらんわ!」


 身を守るようにしながら顔を真っ赤にして叫ぶ少女の姿に少々嗜虐心が起き上がる。元の世界のSとMの雑誌で見た和服に荒縄な写真の構図、亀甲縛りとか吊るしたりとかエトセトラ……………………。


「あぁあっぁぁぁぁぁっ!!

 人を、勝手に、妄想の、ネタにするでない!今すぐ考えるのを止めんか!今考えたことを即刻忘れろ!」


「俺の頭の中で何を考えようと俺の自由だろ!」


 って、あれ?これって俺の思考読まれてる?読まれてるよね?


 ふと気付いた事実に今まで妄想していたことが吹き飛び、まじまじと少女の姿を眺めると、彼女は顔を真っ赤に染めたまま大きく息を吐いてこちらを睨み付けてきた。


「ふん、貴様も先のやつらと同じか。儂が何かも知らずここに来た口か」


「一部全力で否定したいところもあるけど……………………、確かに君のことは何も知らないな。名前も何もね」


 それにバカなことをしてる場合じゃなかった。先にやるべきことがある。


「っ!?近づくでない!!」


 彼女の言葉を無視して懐の中からハンカチを取り出しながら近づき、尻餅をついたまま後ずさろうとする彼女押さえつけ右肩に突き刺さった矢を掴む。


「つっ……………………!?」


 運がいいのか悪いのか背後から突き刺さって貫通してるな。矢じりは折れてどっかに行ってるか。まずはこの矢を抜くべきか。折れてささくれた部分が抜くさいに体内に残らぬよう、矢を改めて綺麗な断面を残すように切断する。


「ぐ、くっ、さわるぬふぁっ!?」


 文句を言おうと開いた口にハンカチを突っ込み、背中側の矢を掴み、一気に引き抜いた。

 舌を噛みきらないよう突っ込んだハンカチせいでくぐもった悲鳴を聞きながら血まみれた矢の残りを投げ捨てて、彼女の肩辺りまで着物を肌蹴させる。当然彼女から抵抗されるが、そこは風の拘束魔法でもって押さえつけ、殺気さえ込められた視線を向けられなら血を流す傷口に表情を歪める。


「まずは傷を洗う必要があるな。痛いだろうけど我慢してくれ」


 そういって右手傷口に翳しながら魔法を発動。今回は空気中から元素を集めて不純物なしの純水を作り出し、その塊を傷口に押し付ける。


「……………………!!!」


 声にならない悲鳴が上がるが俺は作業を止めることなく、純水を傷口へと注ぎ込み無理矢理傷口を洗って行く。背中側の傷口から血と雑菌等の汚れを閉じ込めた純水が吐き出されたのを確認して懐から取り出した手拭いを押し当てて巻いて行く。一応洗ってから未使用だからまぁ大丈夫ということにしておこう。これ以上清潔な布が他に無いからな。


 さらに適当な紐で手拭いを縛りながら、つい今彼女に心を読まれたことを考える。

 恐らく彼女は地球、いや日本で言うところのサトリのような種族なのだろう。人の心を読む存在、か。そりゃ恐れられるよな。

 先の連中に教われてたのはそれが原因か……………………。


 アーサ・ヌァザ様も言ってたしな人間と変わらぬ姿をしていても、人間と違う力を持つだけで迫害され、ひどい場合は逆神の信徒により討伐の対象と手配までされることまであるって……………………。この子もそうやって狙われてたんだろうな。


「ぐ、く、はぁ、貴様……………………!

 いや、それよりもだ、父祖神様の御言葉を聞いたことがあると言うのか」


 父祖神?あぁそういえばキゥーラ様もアーサ・ヌァザ様のことを父神とか呼んでたっけ。この世界じゃ創造神じゃなくて父祖神なんて呼ぶのか。


「その父祖神って言うのがアーサ・ヌァザ様のことを指してるならその通りだな。と言うか会ったことあるし、あの人、人?まぁあの神様に召喚されたようなもんだしな。

 というか俺の心が読めるならそこのところもわかるんじゃないのか?」


「……………………儂に読めるのは今何を思い考えているかだけじゃ。他人の記憶までは読めん」


「よし、応急手当だけど一応これで終わり」


 包帯代わりの手拭いを巻き終わり拘束を解除すると、彼女は素早く衿元を直してそのまま胸元を隠しながら距離をとった。


 急いで隠されてももう見ちゃったし。Aだな。


 思った瞬間再度顔を赤くした彼女に石を投げられた。甘んじて受けておく。ちょっと痛いけど。


「はぁ、まぁいい。少なくとも父祖神様の御言葉を聞いたことがあると言うには本当のようじゃ。

 で、貴様は何をしにここへ来たんじゃ」


 立ち上がるのを手伝おうと手を差し出すが、それをスルーして立ち上がる少女に俺は肩をすくめて目的を話した。


「俺はアーサ・ヌァザ様に召喚される形でこの世界に来たんだ。で、召喚された理由は魔王になって逆神の存在で調子に乗った信徒から迫害されたり追い詰められてる種族を護ること。獣人とかエルフとね」


「ちょっと待て、召喚された?異界の者だと言うのか?」


「そ、種族としてはこっちの人間と変わらないけどそんな理由でね、逆神とやらの信徒じゃないよ」


 驚く少女の様子を面白く思いながら脇においていた刀を拾い上げてベルトに差す。


「それで俺が作った転移魔術、条件を設定してその条件に合う場所にランダム転移する魔術なんだけど、それを使ったらここに来たわけ。

 設定した条件は『俺の助けを必要とする人』ね」


「その結果この場所に現れたというわけか」


「タイミングに関しては偶然だったけどな。

 まぁ、そんなものを使った転移をすれば、その先にはそういった人がいるわけで助けて保護するつもりだったって訳」


「保護、か」


 どこか訝しげ、いや疑いの表情を浮かべて隠すように自身の身を抱く少女。


「なんじゃろうな、生命の危険は感じぬが、身の危険は感じるわ」


「いやいや、個人的にそういうのを望んでるってことは否定しないけど無理矢理なんてしないぞ。やるなら合意の上でだ」


「さっきあんなことを妄想しておった癖に納得できるか、このたわけが……………………!」


 ぬぅ、本当のことなんだが。


 まぁいいか。


「それは一先ず置いておいてだ。

 どうする?

 見たところ、すでに君は人間達から手配を受けてるみたいだけど、これからも一人で逃げ回るか、いっそ俺のところに来るか……………………」


 笑みを浮かべて差し出した手を見て、少女は言われた言葉を吟味するかのように目を瞑って顔を俯かせる。


「……………………逃げ回るにしても、儂一人ではすでに限界やも知れぬか。

 良いのか?儂を受け入れると言うことは、貴様と同じ人間を敵に回すことと同義じゃぞ」


「アーサ・ヌァザ様の頼みを聞いた時点でそのつもりだ、俺はな。

 それに家のそれとはいえ元々仏教徒の俺にとって唯一神教って奴は好きになれないんだ。逆神の奴が世界支配しようってこの世界じゃ遅かれ早かれだろう」


「そうか……………………」


 俺の言葉に何を思ったのかまでは分からないが、伏せていた顔を上げてその蒼い瞳を開いた彼女は差し出された手に自身の手を置いた。


「五大軍神が一柱烈火神アーデン・ファンカスに支えし九天二十七宿家が一つ応天宮、応天宮おうてんぐう 桜歌おうかじゃ。

 これから世話になる」


「あぁ、こちらこそ。

 今後沢山の人達を保護し共に生きる場所を作ってゆく、桜歌も手伝ってくれ」


「そのつもりじゃ。世話になりっぱなしになるつもりは無いのでな」


「ハーレムもしっかり作るからその管理も頼む」


「知るかっ!!!」


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