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プロローグ

この作品は自作「魔王育成プログラム~黄麻大地のダンジョン攻略録・ハーレムはどこだ!~」を下敷きとして書いております。

魔王育成プログラムの執筆において、作者自信が諸々の違和感のようなものを感じ初めて筆が進まなくなり、設定を変えて1から書き直したのですが、そちらも途中で筆が止まり投稿前からエタる等という大惨事となりました。この作品はそれら前二作にてストーリーを進めた先でやろうとしていた物を書いているため、前作のキャラクターも性格の差異が多少ありますが登場する予定です。

こんな作品ではありますが、どうかよろしくお願いします。

投稿ペースとしては5の倍数の日、5日、10日、15日、20日、25日、30日を予定しています

 目の前に迫る白銀の刃を自身の持つ細身の刃受け流し、体勢の崩れた敵の頭部を掴む。


「くっ!」


 格子状の覆いの向こうから漏れるくぐもった声を鼻で笑い、彼は掴んだ冑へ向けて『力』を集中させる。


「『グレムリン・エフェクト』」


 掴んだ手と冑の間から甲高い共鳴音が響き、その中心から冑全体へと瞬く間に皸が広がってゆく。


 そして次の瞬間弾けるようにして魔力を帯びて通常よりも硬度を増していたはずの魔鋼製の冑が砕け散り、その下から驚愕に歪む男の顔が現れた。


「レイゼン!」


 男の仲間が悲鳴じみた叫び声を上げて斬りかかり、それを横目で確認した彼は鱗に覆われた皮膜状の翼を自身と斧との間に割り込ませる。固いものどおしが擦れる音を立てながら傾斜をつけて構えた翼の上を滑り地面に斧が突き刺さる。


 割り込まれた翼ごと叩き斬るつもりだったのかその結果に驚愕し動きを止めた戦士風の男の上に、冑を砕いたまま改めて顔を鷲掴みにしていた男を力任せに振り上げ叩きつける。


「ぐっはぁっ……………………!」


「ぐぅっ!?」


「ほらほら、休んでる暇は無いぞ」


 苦痛に呻く二人の男から視線を外し向けられたのは二人の女。神官衣に身を包んだ女とドレス風の革鎧と杖を持つ女だ。


「ギュリアの聖女と、ファーマイスの皇女だったか……………………」


「邪悪な魔王よ、神の威光の前に平伏しなさい!」


「レイゼンから離れなさい!!」


 そんな二人から放たれる聖属性の光の槍に巨大な焔の獅子。どちらも聖と炎の属性の超高位魔術だ。


「人の身で対した威力だ。人の身ではな……………………」


 迫る二つの超状の技を前に彼は落ち着いた様子で対処する。何気なくと言った様子で鳴らされる指の音。光の槍の発する甲高い音と焔の獅子の咆哮が響く中で不思議と掻き消されることなくその場にいる全員の耳に届いた小さな音。

 そんな小さな音、そんな小さな音の後にもたらされた結果は、彼以外のその場にいた者達にとって衝撃的な物だった。


 まず最初の変化は彼の周囲を舞始めた無数の火の粉だった。パチパチと爆ぜる音を立てて粉雪のように周囲を舞う火の粉の中に飛び込むことになった焔の獅子は、苦悶の声を上げ悶えながら消滅していった。


「そんな!?」


 そして光の槍の前に出現する魔法陣。魔方陣の中心に尖端が接触すると、光の槍は触れる直前よりも倍近い太さと長さになって放たれた軌跡を逆にたどるように、つまり跳ね返されて術者である神官衣の女へと襲いかかった。


「っ!?」


 よほどその術に自信があったのだろう。思わぬ事態に驚愕し動きを止めてしまった彼女へ、跳ね返された光の槍は見るからに威力を増してその身を貫かんとして……………………。その直前に同じく自身の魔術を破られていた革鎧の女が咄嗟に飛び付き地面に引きずり倒したことで、今まで頭のあった場所を突き抜け彼女たちの背後の地面を吹き飛ばした。


「ゼェネアラ、大丈夫?」


 革鎧の女の仲間の身を案じる声を上げ、声をかけられた神官衣の女、ゼェネアラは漸く正気に戻ったのか悔しげに表情を歪めて頷いた。


「大、丈夫、です。少なくとも身体はですが……………………」


 敵を睨み付けながら立ち上がった彼女は首から下げた聖印を握りしめて、今の攻防の隙をついて敵から離れた二人の無事を確認して内心で安堵する。


「強い、わね。『ファイアベール』、炎属性最硬の防御呪文とは言え同属性の術に防がれるなんて……………………」


 悔しげに呟かれた言葉を彼は鼻で笑う。


「今のはファイアベールじゃない。『火雪ほのゆき』だ」


 舞踊る火の粉の中で口端を上げて紡がれた言葉に、対する者たちは一様に目を向いた。とりわけ術を防がれた革鎧の女はその言葉を否定するように頭を振って口を開いていた。


「ふざけないで!火雪なんて火属性魔術の訓練に使われる攻撃力も何もない最下位呪文よ!そんな物に防がれるほど私の魔術は安くない!」


「そうか、ならそう思っていればいい」


 顔を真っ赤にして叫ばれた反論は、しかしそんな素っ気ない言葉で空しく消えていった。羞恥に頬を染めた彼女を物を見るような目で見下ろした彼は担ぐようにした刀の峰で肩を叩きながら、今だ武器を手に自分を睨み付ける4人を見回した。


「クレラ、落ち着きなさい。

 奴の言葉がどれだけふざけたものであろうとも、それだけの力があるのは事実です。本来結界や反射の術式だろうと『貫通』することのできる私の『神槍』すら跳ね返された。悔しいですが、本来有り得ざることすら可能にするほど私達とあの魔王間には術に対する実力に差があるということを認めるしかありません」


 悔しそうに、本当に悔しそうに言い切ったゼェネアラの言葉に革鎧の女、クレラは己が杖を握り潰さんばかりに握りしめた。


「どうやら実力の差ってものが理解できたらしい。

 ならさっさと尻尾を巻いてママのオッパイでもしゃぶりに帰れ。今ならまだ見逃してやるぞ」


「ふ、ふざけるな!」


「ここまで来て、貴様を見逃すことなんかできるものか!」


 眼中にないとばかりにかけられた言葉にレイゼンと戦士の男が吠えた。剣と斧、それぞれの武器を握りしめいつでも飛びかかれるように身構え仲間である術師達に目配せする。


「奴の術の腕が俺達よりも遥か高みにあることなんか百も承知の上だ、ゼェネアラ、クレラ加護と強化を!俺達の刃で、切り伏せる!!」


 レイゼンとクレラが悔しさに歯を食い縛りながらも頼もしい仲間の声に頷いた、それと同時だった。乾いた2つの音がその場に鳴り響いたのは。


 男達が背後に脳漿を撒き散らし、その場に膝をついて倒れ伏す。音の発生源では彼が元居た世界で『FNーFive seveN』と呼ばれていた物に酷似したハンドガンを手に、その銃口にフッと一息吹き付けいた。


「せっかく見逃してやるって言ったのにな。向かってくるならする以外にないだろう。

 で残りの二人はどうするのかって……………………、言うまでもないか」


 呆気なく死んでしまった二人、それを即座に理解し怒りと悲しみに顔を歪めた女たちが先程以上に敵意を剥き出しにして術を構築しようとする、がそれを解き放つよりも早く再び響いた2つの銃声が、彼女たちの命を刈り取りその場に立つのは彼一人となった。


「俺が遊んでやってるうちに帰ればよかったものをよ」


 踵を返して腕を上げると、どこからともなく現れた兵士たちが四人の遺体を片付け始める。

 それから十分と経つことなくその場からは何も居なくなった。命を賭して戦わんとした者達の痕跡すらも残さずに。





















 桜磨さくらま 健司けんじは困惑していた。勤めていたバイト先の店長をぶん殴って辞めてきた彼は、収入が見込めなくなった以上無駄にお金を使ったりせずに次の働き口を探すべきだったはずだ。

 それがなぜ、目の前のボロ服を来たおっさんに安いとは言えコンビニの弁当を奢ったりしているのだろうか?


「いやぁ、すみません。ここのところずっと飲まず食わずで探し物をしてたものですから……………………」


 彼がそれを見つけたのは理不尽なことを喚き散らす店長をぶん殴って店を出たあとのこと。それなりに一通りの多い道路脇に倒れたこのおっさんに気づいた彼は、何故か道行く人達が彼のことをまるで気づいていないかのように通りすぎていくことにも気づいていた。どう考えても可笑しな状況。君子危うきに近寄らず言わんばかりに面倒ごとを避ける傾向にある日本人とは言え、あからさまに具合悪そうに倒れ伏す人を通りかかるすべての人が無視するような事態などいくらなんでもおかしすぎる。

 面倒ごとをかもしれない、いくらなんでも可笑しな状況。自分も周囲に習うべきか一瞬考えもしたが、彼は気付いたときにはそのおっさんに手を差し出していた。


「それが空腹で倒れていただけだって言うんだからなぁ」


「情けない限りですが、普通なら私のことなど"誰にも見えない"はずなので食べ物を手に入れることすらできず、いや本当に助かりました」


「見えないはず、ね」


 おまけにこのおっさんは見た目はいい年しているはずなのだが、それでもいまだに廚二病が完治できていないらしい。この状況でまだこんなことを言えるのなら、実際はまだまだ余裕があったのではなかろうか?

 助けたのは失敗だったかもしれないと思いながら、軽くなった財布にため息をついた。


(まぁ、情けは人のためならず、って言うしな。これがいい方向にいくことを願うか)


 半分諦めの入った心地でそう思いながら、弁当を食べ終えてお茶を飲むおっさんに視線を戻した健司は、彼が探していたと言うものについて聞いてみることにした。


「で、探し物っていったい何を探してたんだ?」


「あ、はい、これです。これと同じものが近くにあるはずなんですが……………………」


 毒食わば皿まで、の気持ちでそう尋ねると、おっさんは渋るかと思いきや簡単にそれを明かして見せた。

 おっさんが差し出さした手の上に置かれていたのは銀いろの蛇の彫刻の入った台座に嵌め込まれたビー玉大の青い玉だった。祭りの縁日にでも並んでいそうなちゃっちい感じのする代物だ。

 ついでに言えば健司にとって非常に見覚えのある代物だった。


「……………………これか?」


 彼のポケットから取り出された全く同じ形をした青い玉。いつの頃からか彼のポケットにあったものだった。












・kenji


 何がどうしてこうなった。

 道端で倒れていたおっさんを助けたら異世界の神だった。何言ってるか分からないかもしれないが、言ってる俺もよく分かってないから問題、大有りだな。


 とりあえず落ち着こう。


 今俺は真っ白な空間にいる。右も左も真っ白で果てのない、まるでどこぞの竜玉の格闘パワーインフレ漫画に出てくる精神となんとかの部屋のようだ。

 なぜこんなところにいるのかというと、俺の助けたおっさんが探していた物を俺が所持していたことが始まりだった。何となく持っていただけの代物でなんの思い入れもなかったこともありそれを例のおっさんに渡したのだが、おっさんは助けられたことも含め礼をしたいと言い出した。

 曰く自分は低位ではあれ異世界の神であり、ある程度の願いを叶えることができるとかなんとか。そんなことができるならあんなところで倒れてるなと言いたいところだが、何か理由があるらしい。詳しくは聞かなかったが。

 そんなおっさんが何か願いはあるかと聞いてきたので冗談半分で『異世界行ってチートとハーレムがほしい』と言ったのだが……………………、返ってきたのは『さすがにそれは無理』だった。


 本人曰くそこまでの権能は無いとのことらしい。その代わりというわけではないが知り合いの異世界の神で近い条件で受け入れてくれる知り合いを探して紹介することはできると言われこの場所に連れてこられたのだが、うん、ここにいるのは半ば自分のせいだな。


 とは言え普通思わないだろ、おっさんが紹介するといった直後にはこの場所に居たんだぜ?さっきまで座ってた公園のベンチと共に。


 突然のことに呆然んとしている俺におっさんは「じゃぁちょっと行ってくるね」とどこかに消えていき、そこでようやくあのおっさんが少なくとも普通でじゃないことを理解した。


 とりあえず携帯を開いてみるが圏外であり、諦めておっさんを待つこと十分ほど、ボロ服を身に纏ったおっさんと、それ以上にボロボロの服を身に纏いながら、それでもどこかに気品を感じさせる雰囲気を持ったじいさんが俺の目の前に現れた。


「アーサ・ヌァザ様、こちらです」


「ふむ、この青年か」


 真っ白になった濃い眉に隠された細い瞳の奥で、力の籠った視線が俺を見たような気がした。


「桜磨さん、この方はとある世界にて天地の創造を行われた父神、所謂創造神アーサ・ヌァザ様です」


「あ、桜磨 健司です」


「アーサ・ヌァザじゃ。ふむ、異世界行ってチートとハーレムが欲しい、じゃったか」


 自分で言っておいてなんだけど、面と向かって口に出されるとものすごく恥ずかしい。冗談半分であんなこといったつい先程の自分をぶん殴りたい。


「半分冗談で言ったんですけどね」


「ぬ、冗談じゃったのか?」


 あっさり白状するとおっさんとアーサ・ヌァザ……………………様は目を丸くしていた。そりゃそうだろう、いきなり願いを叶えようとか言われても普通は冗談か何かだと思うだろう、漫画じゃあるまいし。


「いや、そっちのおっさん、いい年こいて廚二病を拗らせたままの痛い人だと思ってたんで」


 正直に話せば明らかに落ち込んだ様子のおっさん。対してアーサ・ヌァザ様はおかしげに苦笑していた。


「ではどうする?ワシとしては条件はあるが我が世界に召喚してもいいと思っているのだが、此度は止めておくか?」


 と改めて問われて思うが、もし先の願いが叶うなら別に異世界に行っても良いんじゃないかと思う。丁度バイトも辞めたところだし、貯金もないため次のバイトが見つからなければ今月の家賃も払えない。なら心機一転知らぬところに行ってみるのもありなのではないだろうか?

 だからと言っていく先が異世界と言うのもあれな話ではあるが。


 うん、この世界にとくに未練もないしな。両親からは勘当食らってるし恋人もいない、友人も特に仲のいいやつが居るというわけでもない。精々漫画の続きが気になる程度だ。


 チートがもらえるなら異世界でもやっていけるだろうさ。

 あと問題はアーサ・ヌァザ様の言う条件とやらか。


「いえ、先に条件ってのを聞かせてもらっていいですか?」


「ほう、ふむ、そうじゃな。

 ワシからの条件はな、魔王になって欲しいのじゃよ」


「パードゥン」


 は?魔王?


「うむ、魔王になって欲しいのじゃ」


 思わず聞き返した俺にアーサ・ヌァザ様は律儀に条件を繰り返した上でことの説明を始めた。


 長くなるので要約すると、アーサ・ヌァザ様はとある世界の創造神であるが、唯一血を分け半神である息子力を奪われてしまったらしい。おまけにその息子は自身を唯一の神であると謳い、父であり創造神たるアーサ・ヌァザ様を邪神と貶め、数いた他の神たちをその劵属であり邪悪なものとしてそれらを崇める者を異端者であると糾弾し始めたのだと言う。

 そして自身に流れるもう一つの血、母と同じ人間を守護し力を奮ってそれ以外の種族を虐げることで信仰を集め、その他の神々の力を奪っていったのだと言う。これにより力の弱い神は討たれるか精霊へと身を落とし、力ある神も信仰の大半を奪われ弱体化してかの世界はアーサ・ヌァザ様の息子を唯一神とし信仰する人間にその殆どを支配されることとなったらしい。


「つまり、魔王になれっていうのは、人間を打ち倒して唯一神とやらを滅ぼせ、ってことですか?」


「ふむ、必ずしもそうと言うわけではないが……………………。

 お主が魔王になったときワシが望むのは虐げられておる者達を保護して欲しいのじゃ。あのようなことになっていても人間たちとて我が子も同然の存在じゃ。それは今虐げられている者たちも当然そうじゃ。騙されておるからと人間たちを罰することなどワシにはしたくない。じゃがこのままでは他の種族の者達が滅んでしまうやも知れぬ。ワシはどうしてもそれを避けたいのじゃ。

 じゃからお主が我が世界で魔王になったとしても人間たちを滅ぼしたりはしないで欲しい、弱気者達を保護し、その過程で人間たち刃を交えることになった場合は致し方のないことじゃが」


 魔王、といっても世界征服を企むタイプじゃなくて、魔を統べる者としての魔王って訳か。


「ワシは世界においてすでに物事に干渉できるほどの力が残っておらぬゆえ強制することはできぬ。ワシの世界に来られるならばその行動に枷を設けることもせぬ。ただ、保護を求める者手をさしのばして欲しいのじゃ」


 それがアーサ・ヌァザ様の出した条件だった。























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