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6.星のかけら

 撃ったと思ったら、消えてなくなったんだ。

ほんとだよ。



 爆撃が始まった。

真紅の炎がグラン国の前線基地を焼き尽くす様に、俺はしばし見惚れていた。ノーティスにミサイルを撃ち込んでから、夢の中にいるようなぼんやりとした状態が続いていた。まるで白い霧が常に薄らとかかっているような、そんな感じだった。

みんな黙っていた。

残ったのは、たったの17機。あとはみんな撃墜され、空に散った。ティムがいない、それに減らず口のモーリィも、プライド馬鹿のエリクもいない。みんな、みんな空で散った。空に散った。


 ミハイルも流石に疲労が溜まっているのか、帰投途中一言も喋らなかった。

ただ、機械と上からの通信命令だけが空虚なコクピット内に響き続けた。


 なぁイーセルト。

何でみんな神妙にしてるんだろうかな。

 俺は脇の16番機を見やった。今回の戦闘の立役者が、ダウン症患者のような暗い無表情で真っ直ぐ前を見つめている。

 あいつのことは知っていた。

訓練の時からその実力は知れ渡っていたが、当の本人は常に焦点の定まらない瞳でどこか遠くの方を見ているような、そんな気味の悪い奴だった。小柄で痩せた体格、聞き取りづらいぼそぼそ声。やっぱり、心のどこかで俺は彼を敬遠していたし、皆もそうだったのだろう。

 彼はどこかおかしい、変だ。

言葉では言い表せないが、ぱっ、と見た時にわかる。あ、こいつは頭が変なのだと、要するに白痴、知恵おくれなのだと。


 彼のような外れものには、通常居場所などない。

誰からも求められず誰からも愛されずその辺でひっそりと死にゆく_本来ならそんな運命のはずなのだ。

 しかし彼には才能があった。

だから選ばれた、ただそれだけだ。










「前の件だけど、承諾してくれたと思っていいんだよな?」

「ああ。」

「配当は倍出すよ。」

「ああ。」

「どうした。お前らしくもないぞ。」

 イーセルトは訝しんでいる様子だった。

「空を飛んだんだ。ノーティスの尻にミサイルを叩き込んでやった。」

「何も感じなかった、そうだろ?」イーセルトはにやにやしながらいった。

「それよりも聞かせてくれよ、イーセルト。俺が銃を売って、それでどうなるってんだ。」

「おれたちよりも更に上の輩に引き渡す。」

 イーセルトの目がぎらりと光った、気がした。

「軍も承知の上?」

「そうだ。最も持ちかけてきたのはあっちの方だがな。」イーセルトはいい、アルデとペイズリーに葉巻を投げてよこしてやった。「お前が内通者になったのは偶然だ。まったくのな。」

「イーセルト、俺の分もだ。」

「ほらよ。」

「ああ、ありがとう。」

「リュトー、俺はこの国の王になるぞ。」

 イーセルトは胸を張ってそういった。

「何をいきなり……」

「本当だよ。既に国はずたぼろなんだ。もうすぐ、もうすぐだ。破滅が訪れる。溜まりに溜まった不満が噴出する。袋がびりりと破け、溢れ出す。もう止められない。」

「気でも狂ったのかよ、道化野郎。」

「俺は金と銃、それに薬を持ち逃げするつもりだ。それがあれば制圧できる。」

「……本気か?」

「ああ、もちろん。」イーセルトは微笑んだ。「協力してくれるか?」












 10時過ぎに帰ってきた。

皆、俺を怪しむような目つきで見ていた。カレキナの寮を訪ねると、外に涼みにいったという。俺が後を追うと、色男、とはやし立てられた。気にも留めなかった。


 カレキナは木に体をもたれかけて、星を見ていた。

長い黒髪がだらりと垂れ下がっている。


「リュトー。」

「おお。」


 俺は近付いた。

隣に腰をおろすと、夜空を見上げた。地上にはこんなものありゃしない。


「生きててよかった。心からそう思ってる。」

「死んだ奴らの前でそれがいえるかよ。」俺はそういい放ち、イーセルトの砦で貰ったコニャックの瓶を一飲みした。


「そう、たくさん死んだね。」

「俺たちだけじゃない、グラン国の若者15人の尊い命も失われた。」

 カレキナはやたらに色っぽく見えた。

疲弊しきった顔には、死の織りなす美しさが現れているようにも思えた。


「カレキナは何のために生きる?」

「わたし?」

「ああ。」


 カレキナはしばし考え込むようなそぶりを見せたのち、いった。

「いつか、いつか死ぬ時にいい人生だったって思えるように、思えるように、なるために」

「優等生の答えだな、はは。」

「うるさい」

 頭をはたかれた。

俺は寝転がり、顔を横にやった。


 カレキナの靴があった。

「リュトーは何で生きてるのかわからないんでしょ?」

「何でそう思うんだよ。」

「まだ探してる最中なんだよ、きっとあんたは。」


 カレキナは掠れた低い声でそういうと、空の一点を指差していった。

「あの星はジェニファーだ。」

「ああ、なら隣のあれはモートンだな。」


 もう何をする気も起きなかった。

この草原がどこまでも沈んでいけばいいのにと思った。


 どこまでも 

 どこまでも 深く。


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