5.レディ・ドグファイト
「Five, Engageddefensive.(5番機、防衛態勢に移行)」
ノーティス15機が接近。
肉眼では、まだ黒い点にしか見えない。
陣は中央から裂け、二手に分かれてノーティスを迎撃する態勢に入った。
銀のノーティス_グラン国がルノー戦争以前から前線で使っている古株だ。垂直に伸びる二枚の尾翼がスマートな印象を抱かせる機であり、身軽な機動を得意とする。
まあ、と俺は思った。エスモはさらに旧式の機だ。当然性能差においてかなりの部分劣っている。それをノーティスにぶつけるなぞ、死ねといっているようなものだろう。それでも俺たちはやるしかないのだ。
ここが、居場所だから。
ここにしか、居場所がないから。
「健闘を祈るぞ、諸君」
どこからか長官の声が聞こえた気がした。
もう、何もない。
来た。
ノーティス1機。上空からだ。
「five, Tally bandit four o'clock.(5番機、四時方向に敵を目視確認)」
やつは一撃離離脱型か。
ひゅん、ひゅんとノーティスの20mm機関砲が火を吹き、主翼と平べったいカナードに風穴が開いた。
そのまま急降下、逃げようとするノーティスに喰らい付いた。
操縦桿を横に引いた。螺旋を描いてバレルロール。
ノーティスがループ。
俺もすかさず宙返りした。スティックを握り締め、引いた。180度ロール、インメルマンターン。
水平飛行に戻した。
やつは前方。空のあちこちで追いかけっこが始まっていた。
乱れ飛ぶ戦闘機たちが視界にちらつく。
皆、死を目前にして踊っているのだ。
ノーティスがブレイク、急旋回。
右ロール。後ろをとられた。
「Lead, check five(先導機、背後に敵機)」
きつい円を描いて垂直にロール。
さらに逆方向に旋回。
捨て鉢のジンキングだったが、うまくいった。
6時の方向、距離が外れる。
一気に急降下。
振り切った。
エルロン・ロール。
休む間もなく、RWSの早期警戒レーダーが鳴り響いた。
VSDには反対方向から直進してくる別機のノーティスが表示されていた。
俺のエスモは既に手傷を負っている。ヘッドオンに持ち込むのは諦め、機体を垂直に上昇させた。
ピッチ角、60度。
ラダーペダルを強く踏みこんだ。
180度旋回、機体を回転させて急降下。
後ろに回り込んだ。俗にいうハンマーヘッド機動というやつだ。
震える手でスロットルレバーに手を伸ばし、撃った。
MPCD火器管制パネルの機関砲残弾数が減った。
相手は急上昇、ウイング・オーバーで回避。
背面飛行でターンするノーティスが上空に垣間見えた。フロント部分のガラスにこびりついた細かな埃が、太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。
テールスライド。
エンジンを絞り、ぐんぐんと機体を上昇させていく。
頂点で速度が0になった。
俺は右に軽く旋回し、垂直に降下した。
キャノピから除く、深い青の空。
点々と浮かび上がっている黒い煙は、機が撃墜された痕だろう。ちょうど今も、1機のエスモが発射したAIM-9がノーティスに命中したところだった。
柄にもなく、あいつは腕がいいと思った。
1機目と交戦した時にも視界にちらついていたが、相手のノーティス2機をうまく翻弄していた。なんの気なしに、カレキナならああはいかないだろうな、と嫌みを呟いた。
降下しながら、複雑な螺旋模様を描いてローリング・シザースに入った。
ラダーを踏み締め、機首を下に向けながらロール。
競い合うように、交差しながら飛んだ。
振り向きざま、照準を合わせて機関砲を撃ち込んだが当たらなかった。
ノーティスは敗色を悟ったのか、俺と距離をとると180度ロールした。
背面飛行のまま逆ループ、機首を水平に戻して低い高度を飛び続けている。
俺とてみすみす逃がす気はない。
宙返りし、相手をロックオン。
エスモの腹部をすり抜けるようにしてAIM-120C中距離空対空ミサイルが発射された。