第二話
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「存在が……消えた?」
太一は呆然としながらシエルの言葉を復唱する。
「そう。私は地球の神様なんだけど、そんな私よりも上位の神様がいるのよ。その神様の家族が今回の事故の犯人なの」
「それって一体誰なんですか?」
「最高神様の孫。彼女がこの地球に来た時にヘマしちゃって……それが原因で貴方は今ここにいるのよ」
シエルはヘマした光景を思い出しているのか苦い表情をしながら顔に手を当て、はぁと溜息を吐く。
「消した神が私以下の神だったら私が何とかするんだけど……。 あんな子でも最高神様と同等の位の方だから私は疎か最高神様にも手が出せなくて……せめて、と思って最高神様が貴方をここに呼び寄せたのよ」
シエルは太一がここに来るまでの経緯を語り終え、それと同時にゆっくりと太一に向かって頭を下げた。
「だから本当にごめんなさい。存在が消えてしまったからあなたは地球には戻れないけど、それ以外なら可能な限り貴方の要望を叶えるわ」
頭を下げたシエルの姿を黙って見ていた太一は暫くの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「頭を上げてください。 ……つまり今回俺の存在が消えたのは事故だったって事ですよね?」
「ええ。 そうなるわ」
「――二つだけ気掛かりなことがあるんです。それについて教えてください。それが俺の要望です」
「なにかしら?」
「家族は……俺のことを覚えていたりしますか? 覚えてないならこの事故については許すつもりですけど……」
太一は此処に来てからずっと気がかりだった自分の家族の現状についてシエルに問いかける。
「そんなこと? それなら覚えてないわよ。存在が消えてしまったから家族どころか地球上で貴方を覚えているのなんて虫一匹いないわよ」
どんな質問が来るのかと身構えていたシエルだったが、その内容が余りにも簡単なものだったので拍子抜けしながらその質問に答える。
「素直に喜べない回答をどうも……あともう少し言い方、何とか出来たりしません?」
気がかりだったことが解決したものの、一瞬で調子を取り戻したシエルの身も蓋もない回答にどうにも腑に落ちないものを覚えながら太一は苦笑いを浮かべた。
「ならない。しかし、家族の心配とはね。もし、覚えていたとしたらどうするつもりだったのかしら?」
自分のことよりも先に家族の心配をした太一に、もしそうでなかったらどう反応を示すのかと思ったシエルは試すような眼差しを向ける。
「その時はシエルさんかその孫さんに頼んで消してもらうように頼みますね」
太一は軽く笑みを浮かべながらシエルの質問に応じる。
(本音は別のようね……)
太一は軽い笑みを浮かべながら喋っていたが、シエルは目が笑ってないこと、そして丁寧な口調の裏に含まれた黒い雰囲気に気付く。だが、シエルはそれを指摘せずに話を続ける。
「もしもの話は忘れるとして、最終確認をするわ。……この事故について貴方は許してくれた。それでいいわね?」
シエルからの確認の言葉に太一はしっかりと頷く。そこで太一はふとある事が気になり、辺りを見渡しながらシエルに尋ねる。
「今更になって聞きますけど、俺の存在が消える原因になったその張本人は? 此処にいませんね?」
喋っている最中も太一は視線を様々な方向に向け探し続けるが幾ら見渡しても自分達以外には見つけることが出来なかった。
「当の本人は絶賛引き籠もり中よ。自分のミスに泣いてばっかで……全く、迷惑かけたんだからせめて顔を見せて謝るぐらいはするのが責務でしょうに」
シエルも本人がこの場にいないことに不満を覚えているらしく、溜息を一つ吐くと呆れた声で太一の問いかけに応じる。
「なら後で出てきたら出来るだけキツいのを一発、お願いできますか? ここに来なかったって理由で」
目の前に出てきて謝るのなら可能な限り軽い罰で済まそうと思っていた太一だったが、こうしてシエルと話している間も出てこないような主犯には遠慮は必要ないし、更に罰を与えれば少しは気持ちも軽くなるだろと思った太一は自分には手が出せない主犯への対処をシエルに任せることにした。
「任せておきなさい。 考えられる限りで最高の罰を与えてあげるわ」
太一の意図を察したシエルは悪い笑みを浮かべる。その笑みに神様なのにいいのか、と一瞬思ってしまった太一だが、再犯防止の為、ひいては彼女の為なのだからという理由を頭の中で作り出し、これ以上考えないことにした。
「さて。 一つ終わったし、次に移りましょうか」
面倒事が片付いたとばかりにシエルは肩を軽く叩く。その様子を見た太一は一瞬だけオバサン臭いなと思ったが、直後殺気の籠った視線が飛んできたので、すぐさま頭を振ってその考えを追い出す。
「つ、次?」
事故についての謝罪だけで終わると思っていた太一は先程の視線もあり恐る恐るといった様子でシエルに尋ねる。
「事故とは言え貴方の存在の居場所を奪ってしまったから別の場所に移さないといけないのよ。つまりは異世界トリップよ」
「行かないでこのまま消えるって手は?」
別の場所に行けるとしても地球以上に条件がいい場所があるとは思えない太一はお互いに楽できる方法を提案する。しかし、シエルの次の言葉を聞いた瞬間その案はあっさりと白紙に戻る。
「心臓にナイフ突き刺してその激痛に5時間近く耐え続けられたら叶うけど?」
「遠慮しときます」
思わず想像した太一は振り切れるのではないかと思うほどの勢いで首を左右に振る。
「よろしい。 さて、これから異世界について話すわ。 といっても教えるのは必要最低限だけど」
「なんでまた?」
「そっちの方が楽しめるでしょ?」
太一の疑問の声にシエルはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべることで応えた。
「なんか今から伝えられることが全て胡散臭く聞こえそうですよ……」
「このまま何も教えずに飛ばすこいうことも可能だけど?」
「是非ご教授願います」
このままでは手に入れることも出来る情報も手に入れられないと思った太一は素早く頭を下げる。その躊躇いの無さと実行するまでの速さにシエルは心の底から呆れた声を出す。
「貴方本当にプライドとかないのね……」
「いや、備えあれば憂いなしとも言いますし……それに俺を騙しても面白い以外にそちらにメリット無さそうですし……」
「……はぁ、冗談なのに真面目に返されるとこうも虚しくなるのね」
シエルは大きくため息を吐くと太一に向き直る。
「さて、これから貴方の行く異世界について説明を始めるわ」
「よろしくお願いします」
「まず貴方が行ってもらう異世界の名前は『ゼルトザーム』。そこには魔法が存在しているわ」
「なんかゲームっぽい世界ですね」
「大体その解釈で合ってるわね。 ……続けるわよ」
*******
「とまぁ、こんな所かしらね」
大体の説明を終えたシエルはいつの間に出したのか白いティーカップを傾けて喉を潤していた。
「必要最低限って言っておきながら随分詳しいことまで教えてくれましたね」
簡単なものを一つか二つ言われる程度だと思っていた太一は思ったよりも多かった情報に素直に驚いていた。
「そりゃそうよ。 すぐ死なれても困るし、何より楽しんでもらいたいって気持ちもあるもの」
今までの態度が態度だけに相手の反応が予測できていたシエルは太一の言葉に肩を僅かに肩を竦めながら応える。
「じゃあ、今まで聞いたことを纏めると――
【ゼルトザームの一年は日本と同じ365日。閏年は無い】
【ゼルトザームでの最大の脅威は魔物。魔物は各地に存在している】
【ゼルトザームには幾つかの大陸が存在し、未開の大陸も存在する】
【ゼルトザームには人族の他に獣人族や魔族といった様々な種族が存在する】
【ゼルトザームにおいて言語は全種族で共通】
【ゼルトザームでの貨幣は白金貨・金貨・銀貨・銅貨があり、上から順に日本円に直すと1000万・10万・1000円・10円の価値を持つ】
【貨幣には1枚で10枚分の価値を持つ『大○○』が存在する】
――こんな感じですかね?」
「大体はそんな感じね。 ……あ、一つ言い忘れていたわ。 ゼルトザームではステータスが存在するのよ」
「ステータス? ゲームでよくある、あれですか?」
「言葉で説明するよりも実際に見てもらったほうが早いでしょうね。 はい。これ 」
そう言ってシエルが差し出してきた手には何も書かれていない真っ白のカードに似た何かが握られていた。
「なんです、これ?」
太一は差し出された手に握られているカードを見つめながらシエルに問いかける。
「ステータスカード。 これで自分のステータスを知ることが出来るわ。 早く受け取りなさい」
そう言われカードを右手で受け取る太一。すると受け取った瞬間からカードは太一の手へと飲み込まれていく。
「ッ!?」
自分の手にカードが沈んでいく光景を至近距離で目の当たりにした太一はカードを払おうと慌てて手を振る。だが、カードは取れることなく完全に太一の手に沈み込んでしまった。
「なんて物渡すんですか!?」
カードが飲み込まれた自分の手を心配そうに見つめた太一は素早くシエルに振り返ると同時に大声を上げる。シエルは大きかった太一の声に人差し指で耳を抑えていた。
「ちょっと、うるさいわよ。 今渡したのはさっきも言った通りステータスカード。これを渡したのは貴方とゼルトザームの間にズレを生じさせないためよ。 それに少し待っていれば……ほら」
シエルがそう言った途端、カードが飲み込まれた手がほんのりと光り始め、ものの数秒の間にその光は全身を包む。突然の出来事に太一はぎょっとするが5秒も経たないうちにその光は収まる。
「どうやらステータスの記録が終わったみたいね。ステータス確認したいときには『ステータス』って唱えなさい。それで今の自分のステータスを知ることが出来るわよ。 あ、後慣れればイメージだけで確認できるようになるわよ」
太一の様子を見ていたシエルは太一にステータスの確認方法を教える。
「ステータスを確認する前に聞きたいんですけど、体からステータスカードを取り出す方法って存在しますか?」
「ないわね。一度飲み込まれると二度と出てこないわよ。完全に融合しちゃうから」
「……」
「それよりも早くステータス確認しときなさい」
「はぁ。分かりましたよ、やればいいんでしょ。 ……《ステータス》」
急かすようにステータス確認を勧めてくるシエルに半分ヤケ気味に太一は答えると、確認するための言葉を呟く。すると頭の中に白い窓のようなものが現れ、そこに太一の現在のステータスが表示された。
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古嶌 太一 (コジマ タイチ) 【lv1】
人間:男 年齢:19
【筋力】:2
【耐久】:3
【魔力】:1
【魔防】:1
【敏捷】:2
・通常スキル
・固有スキル
〔創造〕
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「……」
自分には大した特技も何もなかったのでステータスは低いだろうと予想していた太一だったが、まさかほとんどが最低値に近い自分のステータスを見て言葉を失い、地面に両手をついた。
「あら、思っていたよりも良い方ね」
「ある程度は予想してましたけど……能力値が最高でも『3』ってのはどういう事なんですか……5はあると思ってたんですけど……」
意外といった感情を正面に出したシエルの感想を聞きながらも、予想よりも酷かった自分のステータス値に太一は視線だけをシエルに向ける。
「日本が平和すぎるのよ。 そこで何もしてなかった貴方が高いステータスなんて持っているわけ無いでしょ?」
シエルは当たり前と言いたげに言い切る。
「それと気になったんですけど、固有スキル欄にある〔創造〕ってスキルはなんですか?」
もう値については受け入れるしかない。と思った太一は次に自分のステータスにポツンと寂しく書かれていた名前だけである程度は予想できるスキルについて尋ねる。
「それは最高神様が詫びだって言って貴方に持たせたものよ。 生物は生み出せないけど材料さえあれば自分のイメージ通りに万物を作り出すことができるスキル。例えば鉄の塊から剣とか。ゼルトザームだと魔物の素材からいろいろなものが作れそうね。 あ、あと制限はあるけど新しいスキルを作り出すことも可能よ」
予想以上に凄かった〔創造〕の内容に太一は言葉を失いただ石像の様に固まっていた。
「……完全にチートスキルじゃないですか」
「あら? あなた、こういうの好きじゃないのかしら?」
「いや、大好きですけど……」
「なら、いいじゃない。 折角最高神様がくれたスキルなんだし、上手く使わないと損よ。損」
何処かしら遠慮が見られる太一の様子に発破を掛ける様にシエルは明るい声を出す。
「で、このスキルについて幾つかやらなきゃいけないことがあるのよ。最高神様、『これでも詫び足りん!』とか言ってて貴方に後幾つかスキルを渡すことになっているのよ。で、はい。これ」
声真似なのか少し低い声で最高神の言葉を口にした後シエルは虚空から何処ぞの有名な辞書並の厚さの本を取り出して太一に手渡す。
「ええと……『スキル辞典』?」
手渡された本をまじまじと眺めたあと表紙を疑問符と共に太一は表紙を読み上げる。
「そう。その本の中にはゼルトザームに存在するすべてのスキルが入っているわ。中には種族が変わるユニークスキルもあるわね。あ、因みに言語の方は行くときに渡してあげるから、選択肢から除外していいわよ」
「へ~種族が変わるのもあるんですか」
びっしりと字が敷き詰められた中身を見て、どんなスキルがあるか気になった太一は早速辞典に目を通し始める。
「一時間待つから……ってもう聞いていないわね」
もうすでに意識を辞典に集中させ、こちらの言葉がもうほとんど耳に入っていない太一を見てシエルは話すのを止め、真剣な表情で本との睨み合いを続ける太一を小さく苦笑を浮かべた。