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異世界で食材を購入しよう



 「おおぉ! スッゲー! やっぱり王都の市場は規模がスゲーな!」


 それから2時間後。

 悠斗とリリナはエクスペインの市場を訪れていた。


 屋台に並んだ新鮮な食材を目の当たりにして、リリナはその両目を輝かせていた。


「あ! あそこにあるのはフルフル茸じゃないか!」


 目ぼしいものを見つけたのか、リリナは脇目もくれずに屋台に突撃していた。


「オジサン。そこにあるキノコ! 1つ頂けませんか?」


「おっ。嬢ちゃんは可愛いいねー!」


「えー? 私なんて全然そんなことないですよー」


「いやいや。嬢ちゃんほどの可愛い子は、この街では滅多に見られないよ。特別にオジサン、サービスしちゃおうかな」


「わー! 本当ですか? 私とっても嬉しいです」


「へへっ。嬢ちゃんが喜んでくれるならオジサンも嬉しいよ」


 普段の男勝りな態度から一転。

 リリナは借りてきたネコのように大人しい様子であった。


 いつのまにか一人称も『オレ』から『私』に変化している。



「ククク。こんなに安くフルフル茸を買えるなんて今日はラッキーだぜ」



 全てが「計算通り」とばかりに黒い笑みを零すリリナ。


 何時も以上にリリナが女の子らしく見えたのは、あわよくば店の人におまけをしてもらおうという魂胆があったからなのかもしれない。


 家事万能スキルは値引き交渉にも適用されるようであった。


「初めて見るキノコだけど、そんなに美味しいものなのか?」


「ああ。ケットシーの村じゃ、なかなか手に入らない珍味なんだけど、これが絶品なんだよ。ウチのサーニャの大好物なんだ」


「リリナは本当に妹と仲が良いんだな」


「アハハ。まぁ、あんな妹でもオレにとってはたった1人の家族だからな」


 妹の話題を振った途端、リリナは屈託のない笑みを浮かべていた。


「そう言えば、ユートには兄妹っていないのか?」


「俺か? まあ。俺にも……妹が1人だけいるぞ」


 心なしか気まずそうな口調で悠斗は答える。


「本当か!? それで、そのユートの妹はどんなやつなんだ!?」


「一言で言うと滅茶苦茶なやつだな」


「……滅茶苦茶なやつ?」


「あー。うん。やっぱりこの話題は止めにしよう。実を言うと俺にとって妹は、あまり思い出したくない存在なんだ」


「そ、そうか。悪いな。変なことを聞いちまって」


「いや。気にしないでくれ。それより、ほら! あそこに変な肉が置いているみたいだぞ! 見に行こう」


「ああ!」


 露骨に話題を逸らすと、悠斗はリリナをリードするように先を歩く。


 近衛愛菜という妹は、悠斗にとって天敵と呼べる存在であった。


 容姿端麗。成績優秀。

 おまけに優れた武術の才能を有しているため、一見して非の打ちどころのない美少女なのだが、その内面は異質の一言に尽きる。


 彼女の存在は、これまで悠斗に多くのトラウマを植え付けてきた。



(……まあ、幸いなことに此処は異世界。俺が日本に戻らない限り、アイツとは二度と会うことはないだろう)



 悠斗はそう結論付けると、ひとまずはリリナと買い物を楽しもうと決意するのであった。



 ~~~~~~~~~~~~



 暫く市場を歩き回って、判明したことがある。

 それは現代日本とエクスペインの物価の違いであった。


 エクスペインでは、野菜・果物・穀物などは安く売られているが、肉類は総じて高価な食材として扱われていた。


 リリナ曰く。

 トライワイドでは牛肉や豚肉と言った食材は、一般市民にはなかなか手が出ない高級品ということらしい。

 

 それというのも肉を1キロ生成するには、その何倍もの穀物が必要となってくるからである。


 日本と比較して、文明のレベルが低いトライワイドでは、まだまだ肉は嗜好品という認識が強いらしい。


「なあ、リリナ。肉が高いのは分かったんだけど、それにも増して魚が高いのはどうしてなんだ?」


「ああ。それはエクスペインが港町から離れた場所にあるからじゃないか? 新鮮な魚を街に運んだりするのが大変なんだ。途中で魔物に襲われたりする事件が後を絶たないしな」


「……なるほど。そういう事情があったのか」


 日本では1尾100円以下で買うことの出来たアジやイワシと言った大衆魚も、トライワイドでは優に10倍を超える値段で売られていた。


「それなら魚は諦めるしかないかな」


「いや。そうでもねーぜ。たしかに海の魚は高級品だが、川の魚は普通に安く買うことが出来るだろ?」


「あー。でも川の魚は……」


 たしかに川魚ならば輸送コストを削減できる分、安く手に入れることはできるだろう。


 けれども。

 以前に何度か宿屋で食べたことがあったが、この世界の川魚は人間の食物ではないというのが悠斗の中の認識であった。


 泥の味と魚特有の生臭さが合わさって、食べている途中に何度か戻しそうになったくらいである。


「まあ、川魚は苦手っていう人も多いけどさ。そこは料理人のオレに任せてくれよ。工夫次第では苦手な人でも美味しく食べれるようになるからさ」


「そうか。リリナがそう言うのなら期待してみようかな」


「おう! 大船に乗ったつもりでいてくれよ!」


 こうして悠斗たちは肉、魚、野菜、果物、各種調味料、と。

 大量の食材を手に入れることになる。



(食事の時間がこんなにも待ち遠しく感じるのは何時以来だろうな……)



 トライワイドに召喚されてからというもの何かと慌ただしい日々を送っていたからだろう。

 悠斗はこれまで自身の食事に拘っている余裕がなかった。

 

 けれども。

 せっかく異世界に召喚されたのである。


 これからはもう少しゆっくりと異世界の食文化を楽しんでも良いのかもしれない。


 行きかう人々の活気と食物の匂い満ち溢れた市場の中。

 悠斗はそんなことを考えるのであった。





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