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スラムの王



 此処はエクスペインの中でも一際、治安の悪い《スラム》と呼ばれる地域である。


 ガリガリに痩せ細ったストリートチルドレン。 

 麻薬のトリップにより呆けた表情で、地面で寝転がっている中年男。

 複数の性病を併発させているボロを着た売春婦。


 などなど。

 スラムの中は、奴隷商人たちにもソッポを向かれるような人間たちで溢れかえっていた。


 スラムの中は常に動物の腐った臭い立ち込めている。


 この場所で野垂れ死んだ人間がいたとしてもそれらを片づける者はいない。

 彼らの亡骸は野犬の餌になり、残った骨は土に還るまで放置されることになる。


 そんなスラムの中心部に貴族の屋敷と見紛うほどの豪邸が存在していた。


 その寝室のキングサイズの天蓋ベッドに寝転ぶのは1人の魔族である。


 彼の名はベルフェゴール。

 七つの大罪の中でも《怠惰》を司るベルフェゴールは、仲間内からも自堕落的な性格をしていることで知られていた。


 だらしなく贅肉の付いた体は、とても武闘派とは思えない。


 昼間から好んで酒を飲むベルフェゴールの周囲には、ひょうたんを加工して作った酒入れが散乱していた。


 けれども。

 七つの大罪の1人であり、強力な魔力と固有能力を有する彼はその外見からは想像できないような戦闘能力を秘めていた。


 実際。

 ベルフェゴールは王国の騎士団ですら手を焼くような盗賊団がひしめくスラムをたったの3カ月で統治し《王》として君臨していた。


 更に言えば。

 3カ月という時間を有したのも彼の怠惰な性格に由来する部分が多い。


 本来の力を発揮すれば3日でスラムを統治することも可能だっただろう。



「……ボス。それで要件というのは何でございましょう」



 ベルフェゴールが寝転んでいるベッドの傍で跪く男の名前は、田中和也。


 スラムの盗賊団の中でも最大派閥の一角とされている《緋色の歪》のリーダーを務めている彼は、現在ギルドの探索クエストで指名手配中の人物であった。



「……生憎とベルフェゴール様は御就寝中におられる。その件に関しては、私から話すことにしよう」



 ベルフェゴールに替わって答えたのは、インプと呼ばれる下級魔族であった。


 体長30センチほどの小柄な体躯で空を飛びまわることが可能なインプたちは、ベルフェゴールの手足となり彼の身の回りの世話を行っていた。


「お前に新しい仕事を任せたい」


「……と、言うと何か新しいお宝が見つかったんですかい?」


「宝の定義を『価値のあるもの』と捉えるのであれば、そういうことになるな。ランク6の固有能力『懐柔』のスキルホルダーが見つかった」


「なるほど。つまりは……人攫いということですか」


 和也の問いに対してインプはコクリと首肯する。


「詳しいことは追って連絡しよう。ターゲットの村には、高度な結界が巡らされていてな。侵入するには煩雑な手順を踏む必要がある」


「分かりやした。ちなみにその『懐柔』のスキルホルダーですが……奴隷商に引き渡したときの売却益の分配についてはどうしましょう?」

 

「いつもの通りお前に全額預けよう。その替わり……」


 インプはそう前置きした上で邪悪な笑みを零す。


「邪魔する者は、攫って、犯し、殺し回れ! 人間たちの発する負のエネルギーこそ我々にとって至高の価値がある!」


「はいよ。了解」


 和也は短く頷いた後。

 ベルフェゴールの屋敷から立ち去ることにした。



「全く……この世界はサイッコーだぜ!」



 屋敷の外に出た後。

 和也は自らの胸の内より湧き上がる笑声を堪えることが出来ないでいた。

 

 ベルフェゴールが用いた《召喚の魔石》により、異世界に召喚されてからの和也は現代日本では味わえないようなスリルと快楽に酔いしれていた。


 この世界では、和也が求めていたものが幾らでも手に入った。


 それと言うのもトライワイドに召喚された際に得た固有能力に起因するところが大きい。


 この世界では誰も自分のことを止めることができない。

 邪魔する者は己の力で返り討ちにするだけである。


「……クハッ! クハハハハッ!」

 

 暴力という名の快楽に取りつかれた和也は、魔族ですら怖気が走るほどの歪な笑みを零すのであった。



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