地獄への転落
次に目を覚ました時、悠斗の目の前にあったのは、やたらとデコボコとした赤黒い地面であった。
(ん……。何処だ……。ここ……?)
気付くと知らない『何処か別の世界』に呼び出されている感覚は、悠斗にとって随分と懐かしく思えるものであった。
喩えるなら、そう。
初めて現代日本から異世界トライワイドに召喚された時に近いものがあった。
「な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああ!?」
グルリと周囲を見回した悠斗は、思わず、驚きの声を叫んでしまう。
針のように鋭利な物体が突き刺さった山。
グツグツ煮えたぎると赤い池。
ところどころ地面からは炎が噴き出して、周囲に熱風を引き起こしている。
目が覚ました悠斗の前に待ち受けていたのは、どこからどう見ても地獄としか思えない光景であった。
(なんということだ。天国に行くどころか、まさか地獄に召喚されることになるなんて!)
果たしてここは、一体何処なのか。
どうして唐突に地獄のような場所に呼び出されてしまったというのか?
悠斗はその理由は探すために周囲の探索を行うことにした。
センティピーター 脅威LV312
固有能力:武器精製 武器強化 能力付与
武器精製@レア度 ☆☆☆☆
(物質から武器を精製する力)
武器強化@レア度 ☆☆☆☆☆☆
(武器を強化する力)
能力付与@レア度 ☆☆☆☆☆☆☆☆
(武器に特別な能力を付与する力)
異変が起こったのは、悠斗が探索を始めてから5分もしない時のことである。
ザヴァッ!
ザヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
血の池から体長10メートルに迫るサイズの巨大なムカデのモンスターが現れる。
(脅威LV312……!? インフレってレベルじゃねーぞ!)
悠斗が今まで遭遇してきたモンスターは、せいぜい30レベルくらいが最高であった。
つまり、目の前のモンスターは過去に出会ってきた難敵たちよりも、単純計算で10倍近い戦闘能力を誇っているということになる。
(どうする……! 今の俺に勝てるのか……?)
今までは《警鐘》のスキルを使用して敵の実力を測ることができていたのだが、今回ばかりは、まったく役に立ちそうにない。
何故ならば――。
この場所に召喚された以来、警鐘のスキルの音量は、常にボリュームMAXで何の変化も感じられなかったからである。
「グギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!」
センティピーターの攻撃。
おそらく《武器精製》のスキルを使って攻撃してきているのだろう。
巨大なムカデの形をしたセンティピーターは、血の池から水の槍を作って、悠斗の頭上に振らせにかかる。
「うおっと」
危険を察知した悠斗は、咄嗟に大きく後ろに飛んで攻撃を避けることにした。
ザシュッ!
スパパパパパパパパパパパッ!
不吉な予感を抱いて目を凝らすと、槍が刺さった地面がドロドロに溶けて、見るも無残な姿に形を変えていた。
「おいおい……! マジかよ……!」
悠斗は戦慄していた。
攻撃を避けられたのは、ほとんど偶然と呼んでも差し支えのないものであった。
次に飛んでくる攻撃を避けられるかは、五分五分と言ったところだろう。
現代日本で生まれ育った悠斗は、今のような状況について、端的に表現する言葉について心当たりがあった。
理不尽に強いモンスターに遭遇して、理不尽な目に合わされる。
つまりこれはゲームの世界で言うところの『強制負けイベント』というやつだろう。
「おもしれえ……。殺れるものなら、殺ってみろよ。虫野郎……!」
理不尽過ぎる状況が、何より『負けること』が大嫌いな悠斗の闘争本能に火をつけた。
悠斗はこういった『強制負けイベント』が嫌いだった。
どれくらい嫌いかというと負けイベントに遭遇した時点で、プレイを中断して、ゲームを中古屋に売りに行くこともあるレベルに嫌悪していたのだった。
「ユートさま! こっちです!」
不意に懐かしい女の子の声が聞こえてくる。
戦闘モードに移行していた悠斗の精神状態は、急激に冷静さを取り戻して行くことになる。
何故ならば――。
そこにいたのは久しぶりに再会を果たすことになる魔族の少女、ベルゼバブの姿だったからである。




