伝説の魔王城
それから。
無事に王都に帰宅した悠斗は、家に帰ってから、海で起こったことについて色々と調べて回ってみることにした。
どうして突然、巨大な津波が発生したのか?
現地にいた時は不思議で仕方がなかったのだが、今になってハッキリと分かった。
海の中から出現した魔王城が一時的に水位を上げた結果なのだろう。
「……分かりました。あそこに見えるのは、太古の昔、この世界に出現したと伝えられている伝説の『魔王城ヴァルハラ』で間違いありません」
そう言ってサクラが開いた本のページには、おどろおどろしい雰囲気の城が描かれていた。
インクが霞んでいて、大雑把な情報しか掴むことができないが、言われてみると、なんとなく海で見たものと似ているような気はする。
「ヴァルハラ? なんだそれは?」
「貴方が知らないのも無理はありません。この世界に伝わる、おとぎ話ですよ」
それからサクラは、魔王城ヴァルハラについて事細かく説明してくれた。
曰く。
太古の昔、この世界は、魔王城ヴァルハラを中心にして、『大いなる闇』に包まれていたという。
闇の時代を生きた人類は、《闇の勢力》によって支配され、虐げられた暮らしを余技なくされていたらしい。
この状況を打破するために立ち上がったのが、《光の勢力》の代表である勇者の一族であった。
光と闇の戦いは、数百年、数千年にも続くことになる。
やがて、勇者の活躍により、闇は晴れて、世界は光に包まれることになった。
つまり、魔王城ヴァルハラとは、この恐ろしい闇の時代の全盛を象徴するものらしい。
(……気のせいかな。そう言えば最近、似たような説明を聞いたような気がするぞ)
その時、悠斗の脳裏に過ったのは、以前にナンバーズのアジトを訪れた際に伝説の英雄、アーク・シュヴァルツから受けた数々の忠告であった。
だがしかし。
腑に落ちないことがある。
アークの話によれば、この世界が闇に飲まれるまでには、まだ50年もの猶予が残されているはずなのだ。
どうして今このタイミングで、魔王城が復活を遂げることになったのか?
専門外の悠斗にとっては、分からないことであった。
「……もしや、貴方。魔王城に行こうと考えているわけではないでしょうね?」
「うんにゃ。全然」
サクラの問いを悠斗は、即座に否定する。
一体、何が悲しくて、自ら進んで危険な場所を訪れなければならないのか。
悠斗は元々、自分の利益にならない行動は、取りたくないと考えていたのである。
「そこまで清々しく否定されると、逆に心配になりますね。世界の窮地かもしれないのですよ?」
「それはそれ。これはこれだ。悪いが俺は、他に優先してやりたいことがあるんだよ」
キリッとした凛々しい顔で悠斗は言った。
(……まあ、俺が出向くまでもなく、他の奴らがなんとかしてくれるだろう)
悠斗の見立てによると、ナンバーズのメンバーの中には自分と互角に戦うことのできる強者たちが数人在籍していた。
世界の命運を握るイザコザについては、可能な限り他力本願のスタンスを貫きたい。
悠斗の中には、そんな思惑が存在していたのである。
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