不可解な警鐘
それから。
フォレスティ姉妹の熱量につられた、悠斗たち一向は、素手で海の中の小イカを捕まえる遊びに興じていた。
「それっ! これで8匹目だ!」
「ふにゅ~! サーニャも5匹目、ゲットなのです!」
だがしかし。
人間離れした身のこなしで、着々と子イカを捕獲していく猫耳姉妹とは対照的に他メンバーの釣果は冴えないものであった。
「うーん。これ、思ったよりも難しいですね」
嗅覚に優れた種族であるがライカンであるが、その効力が発揮されるのは地上に限定されるらしい。
スピカの嗅覚レーダーは、海中の生物を探すのには役立たなかったのだ。
「クッ……! 光が反射して、海の中がよく見えないぞ……!」
純粋な人間種であるシルフィアにとっても難しいミッションであった。
リリナ&サーニャが簡単に海中の生物を捉えることができるのは、ケットシーという種族の本能に根差しているものなのだろう。
(ほほう。これはこれは。なかなか良い眺めですなぁ)
一方の悠斗は、真面目にイカを探すこと素振りをしつつも、女の子の水着姿を鑑賞していた。
無論、悠斗は四人の女の子たちの体は、隅々まで知り尽くしている。
だがしかし。
女体というものは、たとえそれが見慣れたものであっても、少しシュチュエーションが変われば、また違った新鮮な輝きを放つものなのである。
(さてと。そろそろ鑑賞の時間は終わりにしようかな)
実のところ、悠斗が長い時間をかけて山を越えてきたのは、単に『キレイな海が見られるから』という健全なものではなかった。
このビーチには悠斗たちを除いて、他に人の姿はない。
つまりは他人の視線を気にすることなく、公然と卑猥な行為ができると踏んでいたのである。
「……イカさんたち。何処にいるのでしょうか」
最初に悠斗が目をつけたのは、近くで探索をしていたスピカであった。
なんとなくスピカであれば『どんな悪戯をしても怒られないのではないか?』という謎の安心感があったのだった。
「ひゃっ!」
悠斗の魔の手により犠牲となったスピカは、艶やかな声を漏らす。
「ご、ご主人さま……! な、何をしているんですか……!?」
「ふふふ。上手に見つけられないスピカには、お仕置きが必要だと思ってな」
「こ、こんなところで……!?」
スピカは困惑していた。
下半身が海に浸かり、周囲からは見えづらくなってはいるものの――。
すぐ傍には海で遊んでいる他の女子メンバーがいるのだ。
「むっ。どうしたのだ。スピカ殿」
「い、いえ! なんでもありませんよ! シルフィアさん!」
言えない。
今まさに水面下で、悠斗の手によって卑猥なことをされている最中だということは言えるはずがない。
「~~~~っ!」
更にそこでスピカにとって驚くことが起こった。
何を思ったのか悠斗は、スピカの水着の紐を解いてパンツの部分を脱がしてしまったのである。
(ご、ご主人さま! 何をしているんですか!?)
(ふふふ。罰として、これは暫く没収だな)
(ううう~! 困ります! か、返して下さい!)
水着パンツを取られることになったスピカは、身悶えしそうなほどの羞恥心を抱くことになる。
これだけ澄んだキレイな海の中である。
下半身の丸出しの状態を長く隠し通すことは難しそうであった。
『恐れ入ったぞ………! スピカ殿は、白昼堂々と下半身を露出する変態だったのだな……!』
『ふにゅ~! スピカお姉ちゃん、パナイのです~!』
目を閉じれば、軽蔑の視線を向ける仲間たちの姿が瞼の裏に浮かぶようであった。
(うーん。思ったよりも困っているみたいだな。返してやることにするか)
異変が起きたのは、良心の呵責に苛まれた悠斗が、スピカに水着を返そうとした直後のことであった。
ビー。
ビー。ビー。ビー。ビー。
悠斗の脳内に聞き覚えのある電子音が響き渡る。
警鐘@レア度 ☆☆☆☆☆
(命の危機が迫った時にスキルホルダーにのみ聞こえる音を鳴らすスキル。危険度に応じて音のボリュームは上昇する)
音の正体が警鐘のスキルであるの効果であることは直ぐに分かった。
だが、府に落ちないことがある。
悠斗の周辺には、魔物の気配はまるでなく、生命の危機に陥るような要素は何処にも見当たらなかったのだ。
スキルの誤作動が起こったのだろうか?
流石にこんな浅場で死に至るような事故は起こらない気がする。
悠斗がそんなことを考えていた直後であった。
水平線の彼方より、目視できるくらいの小さな白波が押し寄せてくる。
ザバァッ!
ザババババァバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァン!
波はやがて勢いを増して、こちらに近づいて来ているようであった。
「むっ! なんなのだ! アレは?!
「波が! 波がこっちに向かっています!」
遅れて他のメンバーたちも異変に気付いたらしい。
ハッキリと波の存在を確認できるようになった時には、それがとんでもない高さにまで成長していることが分かった。
「逃げるぞ! みんな! 高台に避難だ!」
悠斗の号令によって、それぞれ女子メンバーたちは、一目散に浜辺に向かって避難を開始する。
「ぬおっ!? スピカ殿! 一体どうしたというのだ! その姿は!?」
「シルフィアさん! 今はそんなことを気にしている場合じゃありませんよ!」
生命の危機に瀕した状態に陥ると、不思議と羞恥心も消え失せるものなのだろう。
お尻を丸出しにして砂浜を駆けるスピカの姿は、端的に言ってシュールなものがあった。
「ふにゅっ~! パナいのです~!」
「ダメだ! 間に合わねえよ!」
「まずいです! こちらに来るまでもう10秒もありませんよ!」
世の中に自然災害の勝る恐ろしいものは存在していない。
発生直後の津波は時速700キロを超えるとも言われており、避難のために使える時間は、ごくごく限られたものであったのだ。
「みんな! 俺の傍に来てくれ!」
スピカ、シルフィア、リリナ、サーニャ、サクラの5人は、悠斗の言葉を信じて近くに駆け寄ってくる。
(ウォーターストーム!)
そこで悠斗が使用したのは、水属性上級魔法であるウォーターストームであった。
高台に間に合わないのならば、高台を作ってしまう方が手っ取り早い。
そう考えた悠斗は、足元に氷の塔を作ることによって窮地を乗り切ろうと考えたのである。
時間にすると1秒の猶予もないギリギリのタイミングであった。
悠斗の作った氷の塔は、間一髪のところで女の子たちを守ることに成功する。
(これは……水魔法……! コノエ・ユート。まったく、どこまでも末恐ろしい男です……!)
サクラが驚くのも無理はない。
異世界トライワイドに召喚されたからというもの、絶え間なく魔法の訓練を行ってきた悠斗の力量は、既に超一流の魔術師たちと比べても劣らないものに成長していたのだ。
「ふう。これで一安心かな」
「びえええ! ご主人さま~! ありがとうございました~!」
「ふにゅ~! お兄ちゃんのおかげで助かったのです!」
ギリギリのところでピンチを脱した5人は、ホッと肩を撫で下ろす。
だがしかし。
高台に避難してから間もないところで、次なる脅威が悠斗たちを襲った。
「びえええええええええええええ!?」
「ふにゅうううううううううううう!?」
どういうわけか作ったばかりの氷の塔がグラグラと大きく揺れ始めたのである。
(まずい……! 水圧か……!?)
地面の奥深くに差した立てた氷の塔であるが、津波の勢いによって砂地が流されて、不安定な状態に陥ってしまったのである。
「主君! このままでは塔が倒れてしまうぞ!」
悩んでいられる時間はない。
このまま氷の高台にとどまれば、海の中に飲まれてしまうことは明白であった。
「みんな、俺に掴まれええええええええええ!」
悠斗にとって残された最後の選択肢は、『空』に向かって避難することであった。
5人の女の子たちを抱えた悠斗は、そのまま空に向かって跳躍する
呪魔法と風魔法を合成して作り出した《飛行魔法》は、悠斗が編み出したオリジナル魔法であった。
「し、信じられねえ! 空を飛んでいるぜ!」
初めて悠斗の《飛行魔法》を目の前にしたリリナは、悠斗の右腕にしがみつきながら感嘆の声を漏らす。
(お、重い……! 流石に5人を乗せての飛行魔法は、全身に来るぜ……!)
最高出力で魔法を使っても、高度を維持するのがやっとで、とても移動はできそうにない。
だがしかし。
女の子たちがそれぞれ藁にも縋る想いで、しがみついてくる『空中ハーレムプレイ』は、悠斗の中の新しい性癖を開花させるのに十分なものがあった。
「なあ! 見ろよ! アレ!」
ハーレムプレイを満喫して、夢見心地な悠斗の意識は、リリナの一声によって、急激に現実に引き戻されていくことになる。
空が暗い。
太陽の光が『何か』に遮られて、陽の当たり急激に悪化したためだろう。
「な、なんじゃこりゃあああああああああ!」
空の上にある『それ』を見た悠斗は、思わず顎が外れるほどの衝撃を受けることになる。
何故ならば――。
突如として空の上に浮かんだそれは、どう見ても『魔王城』としか形容できない代物だったからである。




