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信頼関係



 階段の下に降りると、待ち受けていた武装兵たちが行く手を塞いでいた。

 最初に待ち構えていた敵の数は10人。


 3人対10人という状況下ではあるが、相手はスキルによって操作された一般人である。


 普通に戦えばまず遅れを取ることはないはずだろう

 少なくともこの時、悠斗たちはそんな風に考えていた。



「たぁぁぁ!」



 先手を打ったのはシルフィアであった。

 シルフィアは足元に風魔法の力を込めて加速すると、手にしたミスリル製の剣を大きく振るう。


 敵とは言っても相手は何の罪もない一般人である。

 峰打ちによるダメージを与えることによって、意識だけを奪うのがシルフィアの狙いだった。

 


 ズゴンッ!



 狙いすました一撃が洗脳兵の頭部に直撃する。

 

 けれども、次の瞬間。

 シルフィアにとって予想外のことが起きた。



「ウガァァァアアア!」


「――――ッ!?」



 ダメージを与えたはずの洗脳兵は、全く怯むことなくシルフィアに突撃してきたのである。



「クッ……! なんなのだ!? この者たちは!?」



 思い切り首を跳ね落とせば敵の動きを止めることもできるかもしれないが、罪のない兵士たちを殺めることはシルフィアにとっては存在しない選択肢であった。



「ウガァァァアアア!」


「しまっ――!?」



 善戦するシルフィアであったが、前方に注意を取られるあまり、背後より忍び寄る敵影に気付くことができなかった。

 不意を突かれたシルフィアは、そのまま洗脳兵の1人に体を拘束されてしまう。



「バ、バカな……! なんという力だ……!」



 背後から両腕を掴まれたシルフィアは驚愕していた。


 単なる一般人だと思って侮っていた。

 純粋な腕力だけで比較をするならば、1人1人が優にシルフィアの数倍のパワーを秘めていたのである。



「クッ……!」


 

 凄まじい力によって、両腕を締め上げられたシルフィアは苦悶の声を漏らす。


 どうして単なる一般人に過ぎない洗脳兵が、驚異的なパワーを発揮することができるのか?


 その理由はグレゴリーのスキルの効果にあった。

 他人の精神を操作するスキルを保有するグレゴリーは、意図的に洗脳兵たちの『生存本能』というリミッターを解除している。


 つまりは洗脳兵の1人1人が、近衛流體術における《鬼拳》を使用したような状態だったのである

 


「おらよっ!」



 仲間のピンチにいち早く気付いた悠斗は、シルフィアの両腕を掴んでいる洗脳兵を殴り倒す。

 

 その際に手心を加えておくことも忘れない。

 生まれついての極悪人ならともかくとして、悠斗としても無用な殺人は可能な限り避けておきたいことだったのである。



「ウゴゴ……。ウガガ……!」


「おお~。あの攻撃を受けても立ち上がるのかよ」



 手加減したとは言っても、数時間は起き上がることはないように力を込めていたはずであった。


 単に腕力が強いというだけではない。

 グレゴリーのスキルによって痛覚を遮断された洗脳兵たちは、1人1人が驚異的な『タフネス』をも身に着けていたのである。



「……コノエ・ユート。これは厄介なことになりましたよ」



 洗脳兵を相手に苦戦をしていたのは、悠斗、シルフィアだけではなかった。

 痺れ薬を塗った暗器による戦闘を得意とするサクラにとっても相性の悪い相手だった。


 仕込み刃を体に刺された洗脳兵たちは、ビクビクと地に体を這わせながらゾンビのようにサクラ向かって集まっていた。



「諦めて降伏しなさい! なに……。恐怖を感じるのは最初だけですよ……! 貴方たちも直ぐにグレゴリー様の素晴らしさに気付くことになるのですから!」



 階段の上から戦況を観察していたセバスは、歪んだ笑みを浮かべていた。


 とても正気の言葉とは思えない。

 洗脳兵たちに指示を送っているセバスもまた、グレゴリーによって洗脳されていることは明らかだった。



(……仕方がない。手段を選んでいられる状況じゃないよな)



 何時の間にか洗脳兵たちは数を増して、悠斗たちの周囲を取り囲んでいた。


 敵の数は既に30人を超えているだろう。

 まともに戦っていては、悪戯に体力を削られてしまうことは明白だった。



「シルフィア! サクラ! 暫くジッとしていてくれよ!」


「なっ……!?」「えっ……!?」



 強引に2人の美少女の体を抱きかかえた悠斗は、地面を強く蹴って、2種類の魔法を同時に発動する。

 対象の重量を下げる効果のある呪属性の《ラクト》と強風を起こすことのできる風属性の《ウィンド》を織り交ぜて作った《飛行魔法》は、悠斗が開発したオリジナル魔法の1つである。



(う~ん。この状況だとやはり扱いが難しいな……)



 ただでさえ2人を抱えてとなると魔法のコントロールが難しくなるのに、この狭い地下通路の中である。


 今回は不意を突くことができたので、ギリギリのところで包囲網を突破することができたが、次回以降も同じ方法で逃げるのは難しいと考えた方が良いだろう。



「信じられません。たしかに今、宙に浮いて……!?」



 初めて《飛行魔法》を目の当たりにしたサクラは、戸惑いの感情を抱いていた。

 これまで職業柄、様々な分野の達人に出会ってきたサクラであったが、『空を飛ぶ』などという奇跡を起こせる人物は噂にすらも聞いたことすらもなかった。



「流石は主君だ……! 恩に着るぞ……!」


「先を急ごう。このままだと直ぐに追いつかれるぞ」



 なんとか巻くことができたが敵集団との距離を大きく稼げたわけではない。

 飛行魔法を解除した悠斗&シルフィアは、素早く地下通路の奥にダッシュする。 

 

 2人の間には長きに渡って苦楽を共にした人間同士にしか出せない、信頼関係が滲み出ているかのようだった。



(……なるほど。そういうことだったのですね)



 初めて悠斗に出会った時から疑問を抱いていた。

 厳格でいて警戒心の強いシルフィアが男に対して、心を許すとは考えにくい。

 

 サクラは当初、悠斗が何かしらの違法な手段でシルフィアの心を支配しているのだと決めつけていた。


 けれども、実際は違った。

 おそらく悠斗は過去にも同じような状況下で何度も、不可能を可能にする奇跡を起こして見せたのだろう。



(コノエ・ユート。この男は本当に何処までも……)



 今回の一件を通じてサクラは、どうしてシルフィアが悠斗に対して絶対的な信頼を置いているのか? その理由の一端が垣間見たような気がした。


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