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復興支援



 水着を脱いで着替えが終わった頃には、すっかり周囲は暗くなっていた。

 過疎化の進んだナルビアの街は、民家の明かりのような気の利いたものはなく、明かりなしでは足元すら見えないような悲惨な状況となっていた。



 フラッシュライト

(聖なる光で周囲を照らす魔法)



 悠斗がそこで使用したのは、聖属性魔法の《フラッシュライト》の魔法である。

 使用者の後を追いかける性質の光の玉を具現化する《フラッシュライト》の魔法があれば、どんな暗闇の中であろうとも果敢に探索することが可能だった。



「サクラのやつ……。ちゃんと約束を守ってくれるのかな」



 悠斗にとって不安だったのは、果たしてサクラが勝負の前に交わした約束を守ってくれるかということである。

 約束を反故にするようであれば、悠斗としても厳しい対応を取らざるを得ないところだった。



「主君の心配には及ばない。サクラもルーゲンベルクの家に仕えていた人間だからな。勝負の決め事を破るような不義理はしないだろう」


「そっか。だと良いんだけどな」



 未だに不安の尽きない部分はあるが、今そのことについて考えても仕方がない。

 意識を切り替えた悠斗はステータスを確認することにした。



 近衛悠斗

 固有能力: 能力略奪 隷属契約 魔眼 透過 警鐘 成長促進 魔力精製 魂創造 魔力圧縮 影縫 霊感

 魔法  : 火魔法 LV7(17/70) 水魔法 LV7(30/70)

       風魔法 LV6(30/60)  聖魔法 LV6(37/60)

       呪魔法 LV6(16/60)

 特性  : 火耐性 LV6(26/60) 水耐性 LV3(25/30)

       風耐性 LV7(61/70)



 霊感 レア度@☆☆☆

(目では見えないものを感じ取る力)



 デビルクラーケンを討伐したことによって、ステータス欄には新たに《霊感》という項目が追加されていた。

 このところはスキルを持った相手と戦っていなかったので、久しぶりの新スキルの獲得は嬉しいところである。



「主君! こっちだ! あの灯台のふもとに我々の目的地がある!」



 暫く歩くと、民家の中から小さな明かりが漏れ出しているのが見えてくる。


 釣り対決に勝利した2人が向かった先は、最寄りにある漁港だった。

 

 何故2人は真っすぐに家に帰ろうとしなかったのか?

 それというのも今回の対決で仕留めたデビルクラーケンの処分に困っていたからである。


 堤防に放置しておくわけにはいかないが、食べて美味しい種類の生物だとは思えない。

 地元の漁師たちであれば、デビルクラーケンの有効的な活用法を知っているのではないだろうか?


 悠斗が漁港に足を運んだのにはそんな狙いが存在していたのである。



「えーっと……。誰か地元の人はいないかな……」


 マック・ベルベッド

 種族:ヒューマ

 職業:漁師

 固有能力:なし



 周囲を見渡すと堤防の隅に1人の老人が座っているのを発見する。

 ボロボロの服を身に纏った背中は、いかにも哀愁漂う寂し気な雰囲気を醸し出していた。



「オッチャン。何をやっているんだ?」


「……あん?」



 悠斗の声をかけられた漁師の男は、不審なものを見るような目で眉根を潜めていた。



「何って……? 見て分からねえのか。釣りだよ。釣り」



 仕事に出ることができず、ストレスが溜まりきっていたのだろう。

 漁師の男、マックは聞かれてもいない仕事の愚痴を語り始める。



「まったく。海の悪魔のせいでこちとら商売上がったりだよ。ヤツのせいでロクに船を出すことができねえ。オレにできることは毎日こうやって海と睨めっこすることだけなのさ」



 海の悪魔の存在は、かつて栄華を極めるナルビアの漁港に大きな影を落としていた。

 生活を追われた仕事仲間たちは、1人、また1人と街を去っており、今となっては港に残ったのはマックを含めて、ほんの片手で数えるほどしかいなくなっていた。



「オッチャンの心配も今日までだぜ。海の悪魔なら俺が倒しておいたから」


「はぁ? おい。兄ちゃん。寝言は寝てから言えよ。いいか。海の悪魔っていうのは、こう……とてつもなく大きくて、凶悪な生物なんだぞ。兄ちゃんみたいな若造が……。って、は、はああああああああああああああああああぁぁぁっ!?」



 マックは絶句していた。


 今にも地面の上に顎が落ちてしまいそうであった。

 

 何故ならば――。

 今まさに海の悪魔の死体がマックの前に横たわっていたからである。



(ふぅ……。これで鞄の中も大分スッキリしたな)



 いくら魔法のバッグ(改)の制限重量が4000キロまでとは言っても鞄の中にずっと入れておくわけにはいかない。

 デビルクラーケンの死体は、魔法のバッグ(改)の容量をギリギリまで圧迫していたのである。



「兄ちゃん。こ、こいつを何処で……?」


「ああ。実は俺、隣街から派遣された冒険者なんだ。海の悪魔なら俺が倒しておいたからオッチャンたちは明日から安心して仕事に出てくれよな」



 咄嗟に出たウソにしては上出来だろう。

 本来であれば既に見捨てられた地域であるナルビアの街の漁港に、ギルドが報奨金を出すはずもない。

けれども、悠斗の言葉は地元の漁師を納得させるのには十分な理屈だった。



「ス、スゲー! スゲーよ! 兄ちゃん! これでナルビアの街にも活気が戻ってくるはずだ……!」



 歓喜の感情に酔いしれたマックは、ポロポロと大粒の涙を零す。

 

 海の悪魔が倒された以上、街を去って行った漁師たちが戻ってこない理由は何もない。

 もともとナルビアの海産資源は、他の街とは比較にならないほど豊かなものであったのである。



「で、ものは相談なんだが……。コイツをオッチャンに預けられねえかな?」


「な、なんだって……!?」


「俺が持っていても仕方がないものだし……。何か有効的に使える方法があるのなら、預けておきたいんだが……」



 悠斗の提案を受けたマックは、キラキラと表情を輝かせる。



「ありがてえ! オレが言っても信じねえやつはいそうだからな! 瞬くコイツは見世物として利用させてもらうよ!」



 悠斗からデビルクラーケンを譲り受けてから翌日のこと。

 マックは少しでも日持ちを良くしようと、デビルクラーケンの干物を作成することにした。 


 総重量2000キロを超えるデビルクラーケンを干物にするのは、骨の折れるプロジェクトだったが、同じ志を持った仲間たちが次々と集結した結果、作業は滞りなく完了することになった。



『スゲー! 海の悪魔が仕留められたっていう話は本当だったんだな!』


『恐ろしいな……。干物でこのサイズってことは、元々どんだけ大きかったんだ……?』



 この世のものとは思えないサイズのイカの干物たちを前にした漁師たちは、続々とナルビアの街に戻ることになる。


 事態はそれだけに留まらない。

 話題は話題を呼んで、今となってはデビルクラーケンの干物を一目でも見ようと隣国から見物客が訪れていた。


 悠斗がデビルクラーケンを討伐したことは、ルーメルの復興を2重の意味で促すものとなるのだった。

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