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フラスコの中の少女



 一方、その頃。

 ここはエクスペインの街の地下に作られた《邪神対策本部》である。

 

 将来訪れるであろう《災厄》に備えて作られたこの施設は、異世界トライワイドの技術では絶対に作れないであろうオーバーテクノロジーな電子機材が揃っている。


 邪神の復活に備えて、それぞれが物語の《主人公級》の力を持った《ナンバーズ》が水面下で動き始めていた。

 


「じゃじゃ~ん! 見て見て~! 新しい武器を作ってみたよ~!」



 金属の棒を掲げながらも得意げな表情を浮かべる少女の名前はルーシー・ルゥ。


 組織がルーシーに与えたナンバーは【07】。

 外見だけで判断するならば、元気にポニーテールを揺らす美少女なのだが、前世はブラック企業でシステムエンジニアの仕事をしていた中年のサラリーマンであった。

 

 何の因果か異世界で美少女に転生を遂げたルーシーは、前世の知識を活かして邪神対策本部のシステム部門を担当していた。



「む。なんだ。これは……?」



 ルーシーから金属の棒を受け取った少年の名前は、アーク・シュヴァルツ。

 500年前に伝説的な活躍を以て魔王軍を打ち破った英雄である。


 転生@レア度 詳細不明

(命を落とした時、別の生物に生まれ変わる力。転生後もこのスキルは引き継がれる)


 悠斗と同じように過去に日本から召喚されたアークの固有能力は――《転生》。

 肉体が死んでも魂を別の器に映すことで蘇ることのできるスキルを持ったアークは、実に1000年以上も昔からトライワイドで生活を送っていた。



「へへ~ん。まずは騙されたと思って柄の部分に装着したスイッチを押してみてよ」



 ルーシーのアドバイスに従ったアークは、棒切れの横に備え付けられた突起物に手を伸ばす。


 ブウォンッ。

 その直後、棒切れ先端部分からは肉眼でハッキリと捉えることのできる高密度の光線が出現する。



「で、結局これは何なのだ?」


「あれ? 見て分からないの? ビームサーベルだよ! ビームサーベル!」



 種明かしをするが、いまひとつ反応が薄い。


 何故か? 

 それというのもアークが生活した頃の日本は、武士たちが刀を差して我が物顔で歩いていた時代だったのである。


 同じ元日本人とは言っても、1000年以上も昔から異世界トワイワイドで生活をしているアークとルーシーの間には、埋めようのないカルチャーギャップが存在していた。



「そっかぁ。残念だな。同郷のキミなら男のロマンを感じてくれると思ったんだけど」



 ルーシーはアークからビームサーベルの試作品を取り上げると、電源を落とした後、ゴミ箱に向かって放り投げる。



「ま、このビームサーベルは欠陥品なんだけどね。魔力のエネルギ―返還効率が悪すぎて、刀身の形状を維持3分で限界なんだ」



 前世の経験からもの作りにおいて卓越した技術を有したルーシーは、ナンバーズにとって欠かすことのできない存在となっていた。


 各地に発生したブレイクモンスターを討伐するのに欠かせない《ワープ装置》の制御も彼女が仕事だったのである。



「ちょいと失礼。そこ、通るぜ」



 突如として身長180センチを超える大柄な男が2人の間に割って入る。

 

 男の名前はグレゴリー・スキャナー。


 浅黒い褐色の肌に、黄金のジャケットを羽織ったド派手な外見をした男であった。

 

 組織がグレゴリーに与えたナンバーは【08】。

 替えの効かない特別な固有能力を持ったグレゴリーは、邪神対策本部の中では人材管理部門に所属していた。


 

「グレゴリー。何処にいくつもりだ」


「悪いな。ちょっとした野暮用ができたんだ」


「……何度も言っているだろう。装置の私的な利用は禁じているはずだぞ」



 さもそれが当然のように装置に手を触れるグレゴリーに対して、アークは不快感を露にしていた。



「まぁまぁ。そう堅いこと言うなよ。受けた恩ならキッチリまとめて返してやるつもりだからよ」



 グレゴリーは口元を緩めて黄金の前歯を露にすると、ワープ装置の効果によってアークたちの前から姿を消す。


 

「アーク。気を付けた方がいいよ。最近のアイツ、装置を使う頻度が上がっているんだよねー」


「……何か心当たりがあるのか?」


「さぁねー。興味ないし。知りたくもない。けれども、何か悪巧みをしていることは間違いないと思うよー」



 ルーシーの言い草は、まるで外国の天気について語るかのように無関心なものであった。 


 邪神討伐という大義を元に集まったナンバーズのメンバーであるが、その構造は決して一枚岩ではない。

 それぞれが『主人公級』の力を持ったナンバーズのメンバーは、個人主義を貫く人間が多く、致命的なまでに協調性が欠けていたのである。


 

(まずいな。人格を無視して『力』のみで選んだ代償か……。メンバーのコントロールが効かなくなって来ている……)



 命令違反を犯しているのは、ナンバー【08】グレゴリー・スキャナーに限った話ではない。


 最近では組織の中心にいて他ナンバーを取りまとめなければならないはずのナンバー【01】の男ですらも、アークの命令に背いて単独行動を取ることが常態化していた。



「……本当にこれが貴様の望んだ結末なのか?」



 振り返ったアークの視線にあったのは、巨大なフラスコの中で眠りを続ける1人の少女の姿であった。


 少女の名前はアルテミス。

 邪神と対を成す神族の少女にして、人類にとっての最後の希望とも呼べる存在であった。


 アークが最後に起きている彼女の姿を見たのは、実に100年以上も過去のことだった。


 元を正せば邪神対策本部とは 人類にとっての最後の希望であるアルテミスを守るために建設されたものだったのである。

 

 眠り続ける少女からは、返事を得られるはずがない。

 フラスコの中でブクブクと空気が循環する音だけがその場に響いていた。


 

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