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奥の手



「あれ……。お前って……そんな顔だったっけ?」



 以前に会った時とは顔が違っているから全く気付かなかった。

 かつてのギリィはグルグル巻きにした包帯が特徴的な目元が涼しい美男子であった。



「いや~。これは新しく手に入れたオイラの『顔』の1つでさぁ。初対面の人間とパーティーを組む時は、これくらい特徴のある顔の方が親しみを持たれやすいんスよね」



 過去に触れたものの姿に成り代わる《変身》のスキルを持ったギリィは、8000を超える変身先のレパートリーを有している。


 ――冒険者の中には誰1人として本当のギリィの姿を知るものはいない。


 そのことがギルドが《百面相》の二つ名をギリィに与えた理由だったのである。 

 


「ところで、そのアニキ、っていうのはなんだよ?」


「ヘヘッ。聞いて下さいよ。オイラ、もう悪事を働くことは辞めにしました。心を入れ替えて真面目に働くことにしたんでさぁ」



 照れくさそうに鼻の下を書きながらもギリィは言った。


『――これは俺の持論であり信念でもある。女の尻が好きなやつに悪いやつはいねぇ。お前は最低のゲス野郎だが、何かきっかけがあれば変われると信じているよ』



 悠斗の予測通りギリィは根っからの悪人、というわけではなかった。

 

 変身のスキルを悪用したり、他の冒険者を蹴落としてまで成り上がろうとするのは、『とある事情』から由来するものであり――。

 心を入れ替えようと決意した現在は善良な冒険者を目指すことにしたのである。



「そうか。ソイツは良かった。だが、悪いな。今は取り込み中なんだ。話があるなら後にしてくれ」


「ケケッ。分かります。分かっていますって。ズバリ、アニキの悩みは、囲いの女のことなんですよね?」


「…………」



 図星を突かれた悠斗は言葉を詰まらせる。


 

「スピカちゃん、でしたっけ? いや~。実に健康的な良い尻でたまらんって感じッスわ」



 尻から生えた尻尾がパンツが見えるギリギリのラインまでスカートを押し上げている。

 全体的に小振りではあるが、水を弾くかのような瑞々しい肌は10代の少女の特権であった。



「――ギリィ。どうやらお前はやはり俺に殺されたいみたいだな」


「じ、冗談ですって!?」



 女性関係の話題で冗談を言うと本気で悠斗に殺されかねない。

 そう判断したギリィは本題を切り出すことにした。



「コホンッ。えー。オイラがアニキに話しかけたのは、オイラの能力があればアニキの悩みを解決できるかもしれないっていうことですわ」


「……どういうことだ?」


「色々と不便な条件はつくんですが、実を言うとオイラの《変身》の能力は他人に対しても使うことが出来るんスよね。だからオイラのスキルがあれば柱の影にコソコソ隠れなくても堂々と尾行ができるというわけですわ」


「……マジかよ。そんなことができるのか!?」


 

 普通に接近してしまうと自立を目指すスピカの決断に泥を塗ることになるが、かと言ってこのまま放っておくとスピカが他の男たちの毒牙にかかりかねない。


 ギリィの提唱する『変装して近づく』というアイデアは、八方塞がりだった現状を打破する可能性を秘めていた。



「で、どうしますか? オイラのスキルを使って行きますかい?」


「ちなみにその、不便な条件って?」


「変身のスキルが持続されるのは、オイラの体に触れている間だけってことッスね。オイラの体からは離れた瞬間、変身が解除されちまいます」


「却下だ」


「ど、どうしてッスか!?」



 何が悲しくて男と2人で密着を続けなければならないのか。

 3度のメシより美少女が好きな悠斗にとって、男と2人で手を繋いで冒険に出掛けるのは拷問に近い行為であった。



「気を使ってくれるのはありがたいが、変装に関しては他にアテがあるんだ」


「ちょっ。アニキ、何処に行くんですか!?」


「15分で戻る! ギリィはスピカの様子見ていてくれ! もしも建物の外に出るようだったら遠慮はいらん。男たちの足を折ってでも止めてくれて構わないからな!」



 ギリィに伝言を託した悠斗は全速力で冒険者ギルドを後にする。

 悠斗が目指したのは、随分と久しぶりに足を運ぶことになるギルド公認商店であった。



 ~~~~~~~~~~



「いらっしゃい。おや! 兄ちゃん、久しぶりじゃねーか!」


 アドルフ・ルドルフ

 種族:ヒューマ

 職業:商人

 固有能力:鑑定


 鑑定@レア度 ☆

(装備やアイテムのレア度を見極めるスキル。魔眼とは下位互換の関係にある)


 店の中に足を踏み入れるなり悠斗のことを出迎えてくれたのは、無精髭を生やした筋骨隆々の中年男――アドルフ・ルドルフであった。


 基本的には駆け出しの冒険者に対する面倒見の良い人なのだが、危険過ぎる性癖を持っているのが球に傷である。



「アドルフさん! 時間がないのでお釣りはいらないです! ここにある装備をもらっていきますね!」



 悠斗は魔法のバッグの中から金貨を2枚取り出すと、適当に見繕った装備と一緒にカウンターの前に置く。



 魔女娘の杖@レア度 ☆☆☆

(先端に魔法石をあしらった杖。消費魔力を軽減する効果がある)


 魔女娘のドレス@レア度 ☆☆

(駆け出しの魔術師が好んで着る服。肌触り滑らか)


 魔女娘のカボチャパンツ@レア度 ☆☆

(駆け出しの魔術師が好んで着る下着。肌触り滑らか)



「んん? これはなんだい? 兄ちゃんはたしか剣士だったはずだが、魔術師に転職でもするっていうのかい? そもそも装備が女用だが?」


「すいません。事情は言えないのですが、とにかく俺に必要なものなんです」



 悠斗は購入したアイテムを乱暴に魔法のバックに詰めていくと、足取りを早くしてギルド公認商店を後にする。



(……嬉しいぜ。まさか兄ちゃんがついにソッチの趣味に目覚めてくれるとはな)



 今度会った時は思い切って同胞たちの集まるパーティーに招待してみることにしよう。

 

 女に目覚めた悠斗の姿を想像したアドルフは、鼻の下を伸ばすのであった。


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