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極めろ! 幻鋼流!

 


 それから翌日のこと。

 ユナに勧められて里の宿屋に部屋を借りた悠斗はさっそく道場に足を運ぶことにした。



「ダメだ……強えぇ……」


「こ、こいつ化物かよ!?」



 ユナからのアドバイスを乾いたスポンジのように吸収して行った悠斗は、益々と幻鋼流に対する理解を深めていくことになる。



「……流石に疲れました。幻鋼流の門下生の方はタフな人ばかりですね」



 結局、その日の悠斗は1日にして幻鋼流の門下生を20人抜きすることになった。


 強者ほど道場を抜けて独立することが多いので、道場で1番になったからと言って最強の証明にはならないが、入門1日目にして門下生20人抜きというのは過去に例のないことであった。



(恐ろしい。私が1週間かかると踏んでいた技術をたったの数時間で……)


 

 ユナは戦慄していた。

 幻鋼流始まって以来の天才と謳われたサリーですらも、現在の悠斗のレベルに到達するのに2年を超える月日を要した。


 

「他の人たちは動けないみたいですよ。次の稽古は、もちろん師匠がつけてくれるんですよね?」



 不敵な笑みを零しながらも悠斗は告げる。


 ユナの下に弟子入りを決めたのは、彼女が単に女性として魅力的だったからという理由だけではない。

 悠斗は1人の武闘家として、ユナという女性に興味を抱いていたのだった。



「生意気なことを言うんじゃない。キミの稽古相手については既に適任を見繕っておいたよ」



 道場の床で寝ころんでいる門下生たちの力では、幾ら束になったところでこれ以上、悠斗という玉を磨くことはできないだろう。


 ユナの合図と同時に道場に入ってきたのは、悠斗にとって意外な人物であった。



「お久しぶりです。ユートさん」


「おひさー! ユートちん」



 レジェンドブラッドのソフィア&サリーは、悠斗にとっても知らない仲ではなかった。


 それぞれ対照的な性格の2人であるが、幼少の頃はユナの下で幻鋼流の修行を積んだ経歴を持っていたのである。



「これからユートくんにはソフィとサリー、2人がかりで実戦形式の稽古を積んでもらう」


「えーっと……。出来れば俺、女性を殴るようなことはしたくないんですけど」


「それに関しては問題ありません。私の聖属性魔法マナ・シールドの効果を以てすれば肉体的なダメージをカットすることができます」



 ソフィアはそう前置きすると、呪文を唱えて自身の体に淡い光を出現させる。

 聖属性魔法マナ・シールドは一定ダメージを受けると消滅するが、それまでの間は攻撃から身を守る効果があった。



「なるほど。お互いに《マナ・シールド》をかければ安全に実戦形式の訓練ができるというわけですね」


「その通り。勝負のルールは簡単だ。自身のシールドが切れる前にソフィとサリーのシールドを消滅させることができればユートくんの勝ち。この課題をクリアーすることができたら次のステップに進むからな」



 それぞれ武術の才能に秀でた美少女との2対1の実践訓練。

 これは想像以上にハードな訓練になりそうであった。



「よーし。そんじゃユートちん。こっちは遠慮なく行かせてもらうで~!」



 サリーは宣言するや否や、ユートに向かって恐ろしくキレのある飛び蹴りを浴びせにかかる。



「ぬおっ!?」



 危なかった。

 幻鋼流の技術によって極限まで身体能力を向上させたサリーの蹴りは、攻撃が来ると分かっていても尚、回避が難しいものであった。



「グッ……」



 悠斗の背中に鈍い痛みが走る。

 振り返ると、悠然と拳を構えるソフィの姿がそこにあった。



「ああ。伝え忘れていましたね。《マナ・シールド》の効果では、肉体的なダメージはカットできても痛覚までは消えることはありませんから」



 恐ろしく早い正拳突き。

 本職が《賢者》ということで戦闘の際は、サポートに回ることが多いソフィアであるが、武術に関する才能には非凡なものがあった。



「旋風キ~~~~~~クッ!」



 そうこうしている内にサリーの蹴りが飛んでくる。



「それなら!」



 全ての格闘技の長所を相乗させることをコンセプトとした《近衛流體術》を習得した悠斗は、《柔道》についても非凡な腕前を誇っていた。

 

 その中でも悠斗が最も得意としていたのは、足腰にはまったく触れずに、体の捌きだけで、相手を投げ飛ばす《空気投げ》と呼ばれる技である。



「わわっと」



 間一髪のところでサリーの体を地面に転がした悠斗は、窮地から逃れることに成功する。



「ピピー! タイムタイム! 1度、訓練を止めて」



 これまでの戦闘を見ていたユナは3人の間に割って入る。 



「ユートくん。今の攻撃は何だ」


「はい。今のは《空気投げ》と言って、俺の故郷の伝統武術《柔道》の技です」


「違う。そういうことを聞いているんじゃない! キミは一体内の道場に何を習いに来たんだ?」


「それは……」



 ユナの指摘を受けた悠斗は言葉を詰まらせる。



「幻鋼流には基本的な打撃技しか存在していない。郷にいては郷に従え。この道場にいる間は、他武術の使用を禁止する」



 理屈は分かるが、釈然としない。


 悠斗の強さは古今東西のあらゆる武術の長所を相乗させることによって生まれる、臨機応変な対応力にあった。


 他武術の技術の引用を禁止されることは、悠斗にとって両手両脚を縛られたのも同然であった。



「ということでユートくんにはペナルティとして、こいつを両腕に付けてもらおうと思う」



 そこでユナが取り出したのは、特殊な金属で作られたリストバンドである。



「なんだこれ!? 重っ!?」


「当然だ。このリストバンドは特別性で1つ10キロはあるからな。これからキミは訓練中ずっとこの装備を付けてもらおうと思う」


「…………」



 全く動けないというわけではないが、身体の自由が利きづらい。


 言われた通りにリストバンドを装備した悠斗は、すっかりと本来の調子を失ってしまった。



「ちょっとちょっと! いくらなんでもそれは、ユートちんに不利過ぎるやん!」


「サリーに同意です。ただでさえ2対1だというのにあんまりだと思います」



 ユナの課したルールに不満を覚えたのはサリー&ユナも同じであった。


 可能であれば悠斗とは対等な状況で戦いたい。

 もともと2対1の実践訓練という状況も、2人にとっては納得のいかないものだったのである。



「いや。これでいいんだ。お願いだ。2人とも。これからは遠慮なくユートくんのことをボコボコにして欲しい」



 そう語るユナの表情は、恍惚としており、ある種の色気すら感じさせるものであった。



「「…………」」



 久しぶりに『ドSモード』のユナの表情を目の当たりにしたソフィ&サリーは、それぞれ嫌な記憶を思い出して身震いしていた。


 長きに渡り道場の外にいたから失念していた。


 相手が伝説の勇者の血を引く子孫だろうと関係ない。


 誰に対しても公平に徹底的なスパルタ教育を施すユナは、周囲から『ドS教官』と呼ばれて、恐れられてきた。


 長きに渡り幻鋼流がトライワイド最強の武術として評価されてきたのは、ユナの性癖に由来するものなのでは?


 と噂されることすらもあったのである。


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