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VS 彗星世代3



 鬼拳を発動させてからも悠斗の苦戦は続いた。

 

 ギリィ、ドルトル、ジンバー。

 単純な戦闘能力で比較をすると、3人の実力は合計しても以前に戦ったサタンと比較をして、10分の1にも満たないものである。


 だがしかし。

 基本的に正面からの1対1を好んでいる魔族と人間の戦闘スタイルは大きく異なるものである。



 思い返してみれば、最初の天井の落下も毒虫を隠すための布石だったのだろう。



 足りない身体能力を知恵と工夫で補ってくる。

 人間の持っている『強さ』は、魔族とはまた違った種類のものがあった。



「はぁ……。はぁ……。ようやく倒せたか」



 結局、3人を戦闘不能に追い込んだのは、悠斗が《鬼拳》を発動させてから5分後のことであった。



「ぴぎぃぃぃ! わ、悪かったよ! オイラが悪かった! ほんの出来心だったんだ! この通りだ。命だけは許してくれよ――!!」



 既に戦意を喪失したギリィは、頭を地面に擦りつけながらも命乞いをしていた。



「喚くなよ。お前には更生の余地があると思っている。だから別に最初から命まで盗ろうなんて思っていねーよ」



 ギリィは動揺していた。

 先程までの鬼神のような戦い振りからは予想していなかった言葉である。



(なんだこいつ? もしかして甘ちゃんだったのか?)



 もしもギリィが逆の立場にあったのならば、躊躇なく悠斗のことを殺していただろう。

 思わぬところで命拾いをしたギリィは僅かに口角を吊り上げる。



「だろ? だろ? こう見えてオイラ、結構優しいところもあるんだぜ?」


「何を勘違いしている? お前は、殺されて当然の反吐が出るようなゲス野郎だろうが」



 悠斗に威圧されたギリィは即座に自らの考えを改める。


 他人を殺す覚悟がないわけではない。

 その気になれば目の前の男は、道端の蟻を踏み潰すかのように他人を殺すだろう。


 覇気迫る悠斗の表情は、ギリィにそう思わせるのに十分なものがあった。



「……な、ならよ。どうしてオイラのことを助けようっていう気になったんだよ!?」



 ギリィは不思議でならなかった。

 一体悠斗が自分のどこに対して『更生の余地』を見出したのか? 純粋に興味が沸いていたのである。



「……尻だ」


「尻?」


「――これは俺の持論であり信念でもある。女の尻が好きなやつに悪いやつはいねぇ。お前は最低のゲス野郎だが、何かきっかけがあれば変われると信じているよ」



 分からない。

 悠斗の思考回路が1ミリたりとも理解できない。


 謎に満ちた悠斗の理論にギリィの思考回路は、今にもショート寸前であった。


 

「ま、待てよ! このまま見逃せばオイラは、絶対にお前の姿を使って悪いことをするぜっ! お前はそれで良いっつーのかよ!?」



 このまま戦終わるのはギリィのプライドが許さなかった。


 ギリィはエクスペインの街のスラムで生まれ育った。


 娼婦の母親には物心が付く前に捨てられ、父親の顔など未だかつて1度も見てことがない。 



 ギリィは生きることに必死だった。



 食物を手に入れるために盗みに入るのは当たり前だったし、マンホールの中の寝床を確保するために他の子供を蹴り出すこともあった。


 スラムから脱出して、冒険者として大成してからもそれは同じである。


 冒険者として成り上がるためには、どんな手段も厭わない。


 そうやって今日まで地獄のような日々を耐え忍んできたのである。


 だがしかし。

 他人に恨まれることが当たり前だったギリィは、唯一『良いやつ』の烙印を押されることだけは耐えきれなかったのである。


 

「――信じているぜ。ギリィ。お前の尻に対する愛はきっと本物だ」



 爽やかな笑顔を浮かべながらも悠斗は踵を返していく。



(……分からねえ。お前は結局、オイラに何が言いたかったんだよ!?)



 ギリィには最後まで悠斗の考えていることは理解できなかった。


 けれども、何故だろう。

 悠斗が残した言葉の一言一句は、ギリィの胸の中に深く突き刺さる。



(ダァ――ッ! クソッ! 何時以来なんだろうな。誰かに信頼されるってことはよぉ――!?)



 ギリィの胸の中から込み上げてきたのは随分と長い間、忘れていた温かい感情だった。

 

 それから。

 悠斗の耳にそれ以上、偽悠斗が出没したという情報は届かなくなるのだった。


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