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異世界人



 帰り道。

 適当な露店で《皮の靴》を200リアで購入した悠斗は宿屋に戻ることにした。


「ご、ご主人さま!? そのお怪我はどうなされたのですか?」


 血まみれの足を引きずりながら帰ってきた悠斗を見るなりスピカは、目を丸くして取り乱している様子であった。


「いや。別にたいしたものではないよ。ちょっと外に出ている時に擦りむいちまって」


「うぅぅぅ。誰ですか! ご主人さまを傷つけたのは!? 許せません! 地獄の果てまで追い回して成敗してやります!」

 

(俺のため俺を成敗するってどういうことだろう……)


 スピカの言葉を聞いた悠斗は苦笑する。

 この傷が自分の魔法によるダメージであるということは、黙っておくことにしよう。


「とにかく! 今直ぐお怪我の治療を! そこのベッドに腰掛けて足を伸ばして下さい!」


「ん。こうかな……?」


 スピカはすかさず悠斗の足を手に取ってズボンの裾を捲り上げる。


 直後。

 スピカの掌からは淡い光が放たれ、悠斗の傷口を癒していく。



(これは……傷口が塞がっていく……?)



 その魔法の正体が《回復魔法》であることに気付くまでに多くの時間はかからなかった。


「驚いたよ。スピカは魔法が使えたのか」


「魔法……と言ってもそんなに立派なものではありませんよ。《聖属性》魔法の初歩の初歩です。トライワイドの住人なら魔法は誰もが使えるものですし」


「? そうなのか?」


「……ええ。ご主人さまは知らないかもしれませんが、この世界の住人は《火》・《水》・《風》・《聖》・《呪》の5系統の魔法の中から1つを生まれながらに所持しているのです。もっとも……ご主人さまにこの例は当てはまらないのかもしれませんが」


「なるほど。そうだったのか」


 これは有益な情報を手に入れたかもしれない。

 現在のところ悠斗が所持している魔法は《風属性》だけであるが、今後その種類が増えた場合。


 人前で二種以上の魔法を使うのは避けた方が良さそうである。


「それより……いつから気付いていた?」


 尋ねるとスピカは神妙な面持ちで語り始める。


「最初から何処か不自然だなと思っていたのです。ご主人さまはこの世界の常識についてあまりにも知識がなさすぎます。けれども、疑惑が確信に変わったのは先日の討伐クエストのことです。

 ご主人さまの問答無用の『強さ』はハッキリ言って常軌を逸したものでした。それこそ――異世界から召喚された方々が持っているとされるレアリティの高い《固有能力》を所持しているものだと仮定しなければ説明が付かないほどに」


「……そ、そうだったのか」


 スピカの推理はものの見事に的中していた。


 ただ1点。

 訂正しなければならないのは、現時点での悠斗の強さの大半は《固有能力》とは無関係の部分にあるということであるのだが。


 そのことを説明しても余計に話を複雑にしてしまうだけなので悠斗は、黙っておくことにした。


「それならば話は早いな。スピカ。教えてくれ。別に急いでいる訳ではないが……俺は今、元の世界に帰る方法を探している。何か手掛かりになりそうな情報はないか?」


 悠斗の言葉を受けたスピカは表情に影を落とす。


「……さぁ。私もそこまでは。異世界から召喚された人間は1人の例外もなく、何処かの国の王族たちの奴隷にさせられて『戦争のための道具』として使われると聞いたことがあります。

 私のような平民には及びも付かないことですが、一国の権力者たちならば何か知っているかもしれません」


「そうか。ちなみに俺みたいな異世界人がそういう権力者たちとのコネクションを持てる可能性ってあるのか?」



「……1つだけ方法が」



「それはどんな?」


「信頼度の高い冒険者は、王族の方々から直々にクエストを依頼されることがあると聞いたことがあります。つまりは今後……地道にQRを上げて行けば何か手がかりを得るチャンスを掴むことが出来るかもしれません」


「……なるほど」


 悠斗が冒険者という職についたのは、他に仕事がなかったからという消極的な理由であったのだが、図らずともそれは『元の世界に戻る手掛かり』に繋がっていたらしい。


 現在の悠斗のQRは5。


 どの程度のQRがあれば、王族からの依頼が入るのかは定かではないが。

 思った以上に先の長そうな話であった。



(……しかも、スピカの話を聞く限り。俺が異世界から召喚された人間であるということが発覚すれば奴隷にされる危険性もある訳か)



 自分が異世界人であるということを隠しながらも異世界に戻る方法を探すのは、非常に難易度が高そうである。


「ご主人さま。1つだけ私の願いを聞いて頂いても宜しいでしょうか?」


 上目遣いの不安気な眼差しでスピカは尋ねる。


「ああ。どうした急に」


「ご主人さまさえよければ、1つだけ約束して下さい。仮にこの先……ご主人さまが元の世界に戻ることがありましたら……そのときは私も一緒に連れていって頂ける……と」


「……別に構わないが、お前はそれで良いのか? スピカが俺の世界で暮らすとなると……色々と苦労すると思うぞ」


 頭から犬耳が生えた少女が現代日本で生活をする。


 具体的にそれが……どの程度の苦労を背負うことになるのかは定かではないが、様々な面で不自由な目にあわせてしまうことは間違いがないだろう。



「はい。どんな辛い目に遭おうとも構いません。元より……ご主人さまの奴隷になると心に決めたときから覚悟は出来ているつもりです」



 スピカの言葉が決して誇張ではないことは、彼女の真剣な眼差しから推し量ることが出来た。


「ああ。分かったよ。お前がそうしたいなら自由にすれば良い。約束する。元の世界に帰るときはスピカも一緒だ」


 スピカの頭を撫でながらも悠斗は返事をする。

 悠斗の言葉を聞いたスピカは、パァッと花の咲いたような笑みを浮かべる。



「はい! ありがとうございます! 私は何処までもご主人さまにお仕えさせて頂きます!」



 そのとき悠斗の脳裏を過ったのは、現代日本の人里離れた片田舎でスピカと二人暮らしをしている光景であった。


 悠斗は思う。

 トライワイドで大量の金貨を獲得した後――。

 それらを日本に持ち帰ってスローライフ……というのも案外悪いものではないかもしれない。



(……まあ、どっちの世界で暮らすか考えるのは、元の世界に帰るという選択肢を手に入れてからでも遅くはないよな)



 悠斗はそう心に決めた後、深い眠りに入るのであった。



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