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光と影5



「――――クッ」



 しかし、いくら言葉で説明されたところで勝負を諦める愛菜ではなかった。 

 愛菜は《変態》により、悠斗の姿を維持したまま攻撃を繰り返していく。



(……迂闊でした。たしかにお兄さまの動きは先程までのものとは桁違いです)



 決着を付けようと思えば、幾らでも付け入る隙はあったのだろう。


 けれども。

 悠斗は《空気投げ》以外の技を頑なに使用しようとしなかった。



(――逆転の目はあります。ここで更に《変態》を使って『現在』のお兄さまの姿をコピーすれば良いのです)



 相手の技のコピーして上方修正をするというループが発生すれば、ランニングコストの低い《近衛流體術》の方に分があるだろう。

 チャンスがあるとしたら――悠斗が自身の勝利を確信して油断している今この瞬間だけである。



(どうして……)



 だがしかし。

 一秒でも早く《変態》を完成させなけばならない状況下に置かれているにも拘わらず――。


 愛菜は全くその攻略の糸口を掴めずにいた。


 何故ならば――。

 心葬流の奥義である《変態》は、相手のことを注意深く『観察』して『理解』することで初めて成り立つものだからである。



(分からない……。お兄さまの気持ちが全然分からないっ!?)



 愛菜はトライワイドに召喚されてからの悠斗のことを全く知らない。

 相手を理解できなければ《心葬流》による《変態》は成り立たないのである。


 

「……もう気が済んだか? お前にはもう……俺の姿をコピーすることは出来ないだろう?」



 プツリ、と。

 愛菜の中で何かが弾け飛んだ感覚がした。


 自分の狙い――更にそれが不可能であるまで見透かされてしまっては勝ち目は残っていない。


 もともと思い込みの力によって自らの能力以上の力を引き出す《心葬流》は、《近衛流體術》以上に体力の消耗が激しい武術であった。


 自身の限界を迎えた愛菜は、フラフラの足取りのままジワリと目に涙を浮かべる。



「どうして……どうして愛菜のことだけを見てくれないんですか!?」



 血の繋がった兄妹だからという理由だけではない。

 そんな程度で冷めるほど悠斗の中の『美少女に対する愛』は軽いものではなかったのである。 



「好きなんですっ! 愛菜には……お兄さまがいなければダメなんです! お兄さまいつもそうっ! どうして愛菜の『好き』を受け入れてくれないんですか」



 吐き出された感情は決壊したダムのように流れ始める。

 愛菜は叫ぶことを辞めることができなかった。



「――その理由は、他でもないお前が誰よりも知っているはずだろ?」



 悠斗の言葉を受けた愛菜は、ジワリと涙を滲ませる。


 心葬流は対象の性質をくまなく理解することで初めて効果を発揮するものである。

 だから愛菜は悠斗の気持ちが決して自分1人に向くことはないと、心の底では理解していた。



「神さまってやつは残酷だよな。俺たちはたぶん光と影のように『対』の関係になるように生まれてきたんだ。だから一緒になることは出来ないんだよ」



 恋愛観を1つ取ってもそうである。



 1度に複数の女性を同時に愛することに幸せを感じる悠斗。

 1人の男性だけをひたすらに愛することに幸せを感じる愛菜。



 結ばれたところで絶対に両方が幸せになれる選択肢など存在しない。



「こいつは俺からお前に送るせめてもの弔いだ……。愛菜。暫く目を閉じていてくれないか?」



 愛菜の固有能力《完全無敵の搾精》は、視界に入った対象の固有能力を無効化する力である。


 悠斗は戦闘の最中に愛菜の能力とその発動条件に気付いていたのであった。

 親指の先を噛み切ると、悠斗は愛菜の手の甲に自らの血液を滲ませるようにそれを押し付ける。



 隷属契約@レア度 ☆☆☆

(手の甲に血液を垂らすことで対象を『奴隷』にする能力。奴隷になった者は、主人の命令に逆らうことが出来なくなる。契約を結んだ者同士は、互いの位置を把握することが可能になる)



 その直後。

 愛菜の手の甲は眩い光に包まれて、やがてそこには幾何学的な模様の《呪印》が浮かび上がる。


 トライワイドに召喚されてから隷属契約のスキルを使用するのは、スピカ・シルフィア・リリナ・サーニャに続き5人目のことであった。



「俺から出す命令は1つだけ。【俺のことは忘れて幸せに生きてくれ】」


「お兄さま……それはどういう……?」



 愛菜が質問を返した頃には、既に彼女の体は次元の裂け目の中に落ちていた。



 帰還の魔石@レア度 詳細不明

(異世界から召喚された人間を元の世界に戻すアイテム。魔力を込めることで次元の扉が開かれる。このアイテムで元の世界に戻ることができる人間は1人まで)



 考えてみると、このアイテムは異世界での生活を決意した悠斗には既に必要のないものである。

 故に悠斗は愛菜と戦いを始める前から、《帰還の魔石》は彼女のために使おうと決めていた。



「これで……これで良かったんだよな……」



 自分の選択を後悔するつもりはないが、その後の愛菜の人生を考えると心を痛めずにはいられない。


 ただ1つ確実に前進したと言えることは――。

 愛菜と決別を果たしたことにより、悠斗の中の元の世界に対する未練は完全に消失していたということだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「多くを愛する」と「たった1人を愛する」は共生できる “想いに見返りを求めない”事を「愛」だとするなら、「自分はただ1人を愛するけれど、相手にも同じ愛を求めない」と言うところまで辿り着ければ…
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