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異世界支配のスキルテイカー  作者: 柑橘ゆすら
幕間 ~ ???編 ~
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心葬流



「なんだこいつは……? 本当に人間……なのか?」


 次元の裂け目から現れた『それ』を見るなりマモンは怪訝な表情を浮かべる。

 最初は手違いでグールか何かを召喚してしまったのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。


 その生物が纏っている気配は魔物とは異なるものであった。

 何はともあれ用心するに越したことはない。


 そこでマモンが懐の中から取り出したのは、《ジュエルレンズ》というアイテムである。

 装着した人物に《魔眼》のスキルを付与する効果のあるこのアイテムは、世界に二つと存在しない貴重な品であった。



 コノエ・アイナ

 種族:ヒューマ

 職業:無職

 固有能力:なし



 思った通りに目の前の生物は、グールではなく人間ということで間違いがないらしい。

 所持する固有能力は『なし』と表示されているが、希少な魔石を消費して召喚した人間がスキルを持っていないとは考えにくい。


 魔眼のスキルでは見通すことの出来ないレアリティ《詳細不明》の固有能力を保有している可能性が高いだろう。


 だがしかし。

 マモンが最も注目したのは、《詳細不明》の固有能力よりも彼女の名字であった。



「もしかしてこの生物は……コノエ・ユートと縁のある者なのか?」



 マモンが悠斗の名前を口にした次の瞬間。

 これまで微動だにしていなかった愛菜の体がピクリと動く。



「お兄さまのことを知っているのですか?」



 先程までのまるで生気の感じられなかった様子から一転。

 愛菜には活力が宿り、その体内からは底の知れない禍々しいオーラが湧き上がる。



「マモン様! 下がっていて下さい!」



 愛菜の変化に最初に気付いたのは、四獣の中でも最強という評価を受けている《青竜》である。



「この人間の中には……何やら得体の知れない悪魔が潜んでいるようです! マモン様。どうかお気を付けて!」



 青竜は自身の愛刀であるランク8のレア装備《黒迅の魔刀》を鞘から抜いてマモンの前に庇うようにして立つ。



「はぁ? なにビビっているんだよ青竜」



 この異様な状況に不満を呈したのは白虎である。

 魔族としてのプライドの高い白虎にとって、青竜が人間の少女に恐れをなしている状況は我慢のならないものであった。



「寝言は寝て言えよ。こんな汚いガキに俺たちが……」


「貴様に用はないです。静かにしていて下さい」



「ヴォハアアアアアアアアアアアァァァッ!」



 愛菜が呟いた次の瞬間。

 ドゴォォォォン! という轟音と共に青竜の体は地下室の壁に激突する。


 身の丈2メートルを超える青竜の体からは内臓が飛び散り、見るも無残な肉の山を築いていた。



「「「「…………!?」」」」



 周囲にいた残りの四獣たちは、何が起こったのか理解することが出来ずに呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 ただ1つ分かることがあるとすれば、青竜が命を失う直前に少女がブツブツと何事か呟いたということだけである。



「貴様ァァァ! 何をしたァァァ!?」



 白虎の咆哮が地下室の中に響き渡る。

 自らの好敵手である青竜の死は、白虎にとって到底受け入れがたいものであった。



「私は影……。蠢く影……」



 愛菜が何事か呟いた次の瞬間。

 マモンたちの視界から愛菜の気配が消失した。



「「「……消えたっ!?」」」



 自らの体を部屋の中の『影』と同化させた愛菜は、一番近くにいた朱雀の後ろに回り込む。



「私は槍……砥がれた槍」


「……カハッ!」



 次の瞬間。

 後ろから心臓を刺された朱雀は、息を吐く間もなく絶命することになった。



「バカなっ!? 固有能力が発動しないじゃと!」



 四獣最年長の玄武は動揺していた。

 朱雀の保有するレアリティ《詳細不明》の固有能力――《超再生》は現存するスキルの中でも最強と呼んで差支えのないものである。


 この能力を保有する朱雀は、寿命以外の手段で命を落とすことはない。

 通常であれば体がバラバラになろうとも、一秒と経過しない内に元の状態に戻ることが出来るのである。



「気をつけろ! 白虎よ! この娘を倒すには……ワシらが力を合わせないとまずい……!」


「分かっている! ジジイ! ちょいとばかし背中を借りるぜ……」



 目の前の少女の脅威を悟った玄武&白虎は、互いに背中合わせにして相手の出方を窺がっていた。

 二人は姿の見えない敵を相手にするには、死角を無くすことが最優先であると考えていたのであった。



「私は巨人……雲穿つ巨人……」


「なっ。上か……!?」



 相手の殺気に気付いて視線を上げた瞬間、玄武は絶句した。


 何故ならば――。

 そのとき玄武の視界に映ったのは、身長160センチほどの少女の姿ではなく――。

 

 直径5メートルを超えようかという巨大な『足の裏』だったからである。



「アギャバァッ!?」


 

 愛菜に踏みつけられた玄武の体は、トラックに轢かれたカエルのように惨たらしい肉塊に姿を変える。



「うわ……。うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 仲間を失った白虎は戦意を喪失して地上に続く階段を駆け上がっていく。

 それは――長きに渡り魔族の頂点に君臨し続けた四獣のあまりに呆気ない最後であった。


 それぞれ《詳細不明》の固有能力を保有して最強の座を恣にしてきた四獣は、たった一人の少女の手によって敗北を喫することになったのである。



(なんだ……何が起こっている……!?)



 信頼の置ける部下を次々に失ったマモンは、自ら置かれた状況を理解することが出来ずに混乱していた。

 固有能力が発動しない状況もそうだが、何よりマモンが恐れたのは愛菜の取得している得体の知れない武術である。


 それもそのはず――。

 愛菜の取得している《心葬流》という武術は、現代日本において《近衛流體術》と双璧を成すかのように稀有な性質を有するものであった。



 心葬流の性質を一言で表現するのならば――『思い込み』の武術である。



 人間の心というのは未だに科学では解明できない部分が多い。


 たとえばそれはプラシーボ効果と呼ばれるものであったり――。

 たとえばそれはゴーレム効果と呼ばれるものであったり――。


 人間の『想い』というのは、時として物理的な事象に対しても多大な影響を及ぼすものなのである。


 四獣のメンバーが愛菜の存在を視認できなくなったのは、彼女が自分のことを『影』であると思い込んでいたからに他ならない。

 体重30キロにも満たない少女に踏みつけられて玄武が圧死したのは、彼女が自分のことを『巨人』であると思い込んでいたからに他ならない。


 心葬流を極めた愛菜は、この世の物理法則に対して干渉することが出来るのである。



「答えて下さい。貴方がお兄さまについて知っていることについて全て」


「ひぃっ!?」



 邪魔者を排除した愛菜は、マモンに向かって歩みを進める。

 愛菜の放つ圧倒的な邪悪のオーラに胆を抜かれたマモンは、床に尻を突きながらもガタガタと歯を鳴らすことになる。



「き、貴様は一体……何者だ……?」



 マモンは湧き上がる恐怖心に抗いながらも、やっとの思いでそんな言葉を口にする。



「……近衛愛菜。ごくごく普通の女子中学生です」



 思いがけずも先に質問を受けることになった愛菜は、ニコリと笑顔を浮かべて答えるのであった。






●お知らせ


 次話より第5章です。

 書籍版の4巻のおまけ短編は、オリヴィアさんのコスプレ回になっております。


 こちらも宜しくお願いします。

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