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異世界支配のスキルテイカー  作者: 柑橘ゆすら
幕間 ~ ???編 ~
156/328

最凶の刺客



 悠斗には今年で中学3年生になる妹がいた。

 

 彼女の名前は近衛愛菜。

 容姿端麗。成績優秀。

 

 おまけに自らの才能を鼻にかけない謙虚さを持ち合わせていたのでクラスの男子たちは、『天使』と称して愛菜のことを崇めたたえていた。



『私、大きくなったらお兄さまのお嫁さんになりたいです!』


 

 優しくて頭の良い妹の唯一の欠点――。

 それは日常生活に支障をきたすほどの重度のブラコンであった。



 悠斗は『大きくなったらお兄様のお嫁さんになりたい』という台詞を子供の戯言だと笑って聞き流していたのだが――。


 彼女の想いは日を重ねるごとに増幅していくばかりで立ち消える気配がない。

 血の繋がった妹から好意を向けられる日々に対して悠斗は、辟易とした毎日を送っていたのである。



「どうしたら私をお兄さまのお嫁さんにして頂けますか?」 


「実は俺……自分より強い女の子しか好きになれないんだ。だから愛菜が俺よりも強くなったら結婚してあげるよ」



 もちろん嘘である。

 妹の想いが絶対に成就するものでないと知っていた悠斗は、愛菜に対して無理な条件を出して諦めさせようと試みたのである。



「分かりました! それでは不肖、近衛愛菜……。お兄さま好みの女性となるため……絶対に強くなってみせますね!」



 こうして愛菜が武道を始めるようになったのは小学3年生の頃である。

 嘘を吐いたのは、妹に真っ当な人生を送って欲しいという悠斗の優しさであったのだが――。


 数年後。

 まさか妹が現代日本に残る最強の武術《心葬流》を極めて、自分を脅かすほどの力を手に入れるとは――。


 当時の悠斗は夢にも思っていなかった。



 ~~~~~~~~~~~~



 ここは東京都大田区に建てられたとあるアパートの一室である。

 そのアパートの302号室に近所でも評判の良い気立ての良い1人の少女が住んでいた。 

 

 悠斗が異世界に召喚されてからというもの愛菜を取り巻く環境は一変することになる。

 

 今現在。

 愛菜は誰もが振り返るような愛くるしい容姿を完全に失っていた。


 彼女の体は不気味なほどにやせ細り、クリクリとした大きな目玉が顔の中から今にも飛び出しそうになっている。

 飲まず食わずで垂れ流しにしていた結果、下半身は糞尿にまみれ、ボサボサに伸びきった髪の毛には大量のシラミが湧いていた。



「お兄さま……何処いずこに……」



 愛菜が今のような状態になってしまった原因は、偏に兄である悠斗の失踪にあった。

 物心がついた頃より愛菜は、血の繋がった実の兄に対し偏執的とも呼べる恋愛感情を抱いていた。

 

 愛菜にとって悠斗の存在は、自らの『世界』そのもの。

 悠斗を失うことは愛菜にとって世界の消滅と同義であった。



「お兄さま……お兄さま……会いたい……会いたい……」



 愛菜は呆然自失の状態でアパートの壁に飾った悠斗の写真を見つめていた。

 アパートの中には、写真の他に、悠斗の姿を模した人形、悠斗の体毛で編んだマフラー、悠斗の部屋のゴミ箱からくすねたティッシュペーパー……などなど彼女の宝物が並べられている。



「もう死のう……。お兄さまのいない『世界』なんて生きていても仕方がない……」



 生まれながらにして常軌を逸した勘が鋭さを持っていた愛菜は、この世界に悠斗がいないことを薄々と理解していた。

 

 兄がいないならばこれ以上、生きていても仕方がない。

 

 強くなるために体を鍛えたところで意味がない。

 愛する人間を失った世界は愛菜にとっては、ただただ虚しいだけのものであった。



(ああ。ついに迎えが来たのかしら……)



 突如として目の前に眩い光が差し込んだ。

 考えてみれば自分は既に1カ月以上、飲まず食わずの状態を続けていた。


 どんなに武術を極めても飢餓には勝てないということなのだろうか?

 愛菜は虚ろな眼差しで、光の中に誘われるようにして入っていく。

 


 

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異世界支配のスキルテイカー 

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