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決戦の舞台に



 翌日。

 ついにやってきたマモンとの戦いの日。


 朝早く起きた悠斗は、庭に泊めていたエアロバイクを取りに屋敷の外に出る。



「おはようございます。ご主人さま」



 目的の場所にたどり着くと、そこには布でエアロバイクを磨くスピカの姿があった。


 風を動力源にして走るエアロバイクは、車体に泥が付きやすいので定期的にスピカがメンテナンスを行う取り決めになっている。



「あれ。スピカ。もう起きていたのか」


「はい。ご主人さまが大切な戦いに行かれると思うと……居てもたってもいられなくて……」



 直接戦いに参加できない自分が主人のために出来ることは何だろうか?

 悩んだ挙句にスピカが導き出した最善のアイデアは、バイクをピカピカに磨いておくことだったのだ。



「あれ? なんか座席の方が妙に温かい気がするのだが」



 バイクに触れた悠斗は違和感を覚える。

 

 普段であれば庭に出しっぱなしにしておくとバイクの座席がキンキンに冷たくなっているのだが――。

 今日は何故か生暖かった。



「えーっと……。実を言いますと、私が自分の体を使って温めておきました」


「えっ。スピカがか!?」


「はい。……出過ぎた真似だったしょうか? ご主人さまがお体を冷やすといけませんし。そのことが戦いに影響しないとも限らないとも思いましたので」


「…………」


(こいつ……豊臣秀吉みたいなやつだな……)



 スピカの言葉を受けた悠斗は、心の中でツッコミを入れる。



「いや。全然ダメじゃないよ。ありがとな。スピカ」


「はう……」



 感謝の証にスピカの頭を撫でてやる。


 自分に出来ることは全てやった。

 最後に残された仕事は主人の無事を祈ることのみである。



(ご主人さま……どうかお気をつけて……!)



 悠斗の後ろ姿を目に焼き付けながらもスピカは、心の中で切に祈るのであった。



 ~~~~~~~~~~~~



 それから3時間後。 

 ここはローナス平原から東に200キロほど離れた場所に位置する《四獣の塔》と呼ばれる建物の中である。


その最上階、《黄金の間》には優雅に読書を嗜む1人の魔族の姿があった。



「……マモン様! 恐れながらも報告が御座います!」



 マモンの部下である諜報員のインプが黄金の間の扉を叩く。



「この時間は研究で忙しいと言わなかったか? 手短に話せ」


「ハッ! 以前にも話題に上がりましたコノエ・ユートという冒険者と連れの女が現在、我々の領内に侵入している模様です。どうやら奴らは我々のアジトの存在に気付いている様子でした」


「ふーん。それで?」


「……ハッ。どうやら連中は、我々の張った結界に対抗する手段を持っていないようでありました。しかし、用心するに越したことはありません。念のため結界のレベルを引き上げておくのが最善かと思われます」


「…………」



 部下の報告を受けたマモンは思案する。


 悠斗がここにたどり着いたということは、自分が秘密裏に送った刺客であるグレータデーモンは既に倒されているということを意味していた。



(ふむ。どうやらタナトスを倒したのは偶然という訳ではないようだね)



 マモンの中の好奇心が騒ぎ始める。


 只の人間が一体どのようにして魔族を倒したのか?

 純粋に興味が湧いてきたのである。



「逆だな。結界を解除して今すぐ彼をボクの領土に案内しよう」



 主人の提案を受けたインプは自らの耳を疑った。



「はい!? いえ、ですが……それはあまりにもリスクが……」


「ごちゃごちゃと煩いぞ。殺されたいか? お前たちは黙ってボクの言うことを聞いていればいい」


「……承知致しました。全ては主の意のままに」


「…………」



 普段のマモンならば結界を解除して冒険者を中に入れるなどということは、絶対にしないのだが――。


 今回は違った。


 3つの固有能力を自在に操るグレータデーモンという魔族は、マモンの部下の中も序列15位の地位に就く実力者である。


 グレータデーモンを倒した実績からマモンは、悠斗のことを《四獣の塔》に挑戦する資格のある実力者であると判断したのであった。



(久しぶりの挑戦者だ。少しはボクのことを楽しませてくれよ……?)



 塔の最上階から景色を見下ろしながらもマモンは不敵な笑みを零すのであった。




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