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夜の営みをしてみよう

 


 隷属契約を用いて悠斗の奴隷として生きる覚悟を決めたスピカは、「冒険に備えて荷物の整理をしてきますね!」と言い残して以前の職場である《宵闇の根城》に足を運んでいた。


 節約のため常に必要最低限の所持品しか持っていなかったスピカの荷物は、手提げバッグ1つに収納できてしまうほど少なかった。


「ご主人さま。よろしければ今後の生活の資金に充てて下さい」 


 宿から出てきたスピカは、悠斗の掌に銀貨を3枚握らせる。


「えーっと。これは?」


「退職金として女将さんから頂いた3000リアです。えへへ。4年も働いていた割には大した額にはなりませんでしたが」


「おいおい。……そんな大切なもの受け取れないよ」


「いいえ。そんなことを言わず。貰って下さい。私は御主人さまの奴隷です。これからは私の全てはご主人様のものになるのですから」


 美少女が自分のことを慕ってくれるシチュエーションというのは、悠斗とて悪い気はしない。


(ぬう……。可愛いやつめ)


 ここで銀貨を突き返したとしても、彼女の心を傷つけてしまうだけで何もメリットはない。

 この資金はスピカの借金の返済に充てた費用として、有難く使わせてもらうことにしよう。

 銀貨を3枚掌に握り締めながらも悠斗は、そう心に誓うのであった。



 ~~~~~~~~~~~~



 その日の晩はスピカがオススメする宿屋で一晩を過ごすことにした。

 蛇の道はヘビとは、良く言ったものだろう。

 4年間の女中生活により、この街の宿屋事情に精通していたスピカがオススメする宿屋は1泊朝夜の食事付きの値段が600リアというリーズナブルな価格であった。


 部屋のクオリティも現代日本のホテルと比較しても遜色がないくらいに贅を尽くした作りになっている。


 スピカ曰く。

 本来であればこの部屋は一泊の価格が1500リア以上するのだが、幽霊が出るという根も葉もない噂が立っていることにより格安で泊まれることになっているらしい。


(異世界にも訳あり物件っていうのはあるのだな……)


 更に驚いたことにこの部屋には、シャワールームまで備え付けられていた。

 悠斗は2日振りに浴びるシャワーに感涙を流さずにはいられなかった。


 水道という概念が存在しないにも関わらず、蛇口を捻ると水が出るのは《ブルースライムの核》を素材にして作られた《水の魔石》というアイテムの恩恵であるらしい。


(おそらく……この水の一滴一滴が冒険者たちの苦労の結晶なのだろうなぁ)


 悠斗はそんなことを考えながらも、着替えてシャワー室を出る。



 ~~~~~~~~~~~~



「……ご、ご主人さま」


 ベッドの前には先にシャワーを浴びて部屋の備品であるセクシーなネグリジェに身を包んだスピカがいた。

 巷で言う『着痩せするタイプ』というやつなのだろう。

 ネグリジェ越しに見るとスピカの胸は意外に大きいことが判明した。



「申し訳ありません。私……こういう時にどうしたら良いのか分からなくて。ご主人さま。もしよければ……私に対して好きに『命令』をして頂けませんか?」



 悠斗はゴクリと固唾を飲む。

 正直に言えば……欲望の赴くままにスピカのことを押し倒してしまいたい。


(……いや。ダメだ)


 だがしかし。

 悠斗は鉄の理性で以て己を律することにした。

 何故ならば悠斗は、万が一のことが起きてしまった場合に責任を取れる立場ではないからである。


 悠斗とて健全な男子高校生。

 薄々とこうなる事態は期待していた。


 そこで恥を承知で宿屋の店員に「すいません。避妊具を置いている店って近くにありませんか?」と確認を取ったのだが、そこで返ってきたのは「……はて。ヒニング? とは一体何のことでしょうか?」という衝撃的な回答であった。



 悠斗は愕然とした。



 トライワイドには『避妊具』という概念が浸透していないため。

 宿屋の店員は、悠斗の言葉を理解することが出来なかったのである。

 

 悠斗は遊びたい盛りの16歳。

 欲望の赴くままに行動したいという気持ちはある反面、若くして父親になる覚悟などあるはずもなかった。


「スピカ。こっちにおいで」


 悠斗はベッドで横になり、手招きをする。


「……はい。ご主人さま」


 スピカは頬を赤らめて悠斗の傍に近づいた。

 悠斗はそこでスピカの小さくて柔らかい体を抱き締めた。


「大丈夫。これ以上は何もしないよ。今日はもう疲れた。だから暫くこの状態のまま……寝かせてくれ」


 スピカは残念なようなホッとしたような複雑な笑みを浮かべる。


「……分かりました。ご主人さま」


 女の子特有の甘い香りが悠斗の鼻孔をくすぐった。

 なんとなく手持ち無沙汰になった悠斗は、スピカの体を抱き寄せたまま彼女の犬耳に触れることにした。



「はう……」



 スピカの口から悩ましい吐息が漏れる。

 スピカの犬耳はプニプニとして非常に触り心地が良い。

 何ならこのまま一生、犬耳を撫でまわしていたいくらいであった。


 けれども。

 流石に何時までもスピカの体に触れているわけにもいかない。



(うーん。これは慣れるまで寝付けそうにないなぁ)



 悠斗は人生で初となる『女の子と同じベッドで眠る』という一大イベントを噛みしめながらも、瞼を閉じて強引に眠りに入ることにする。



 ~~~~~~~~~~~~



 ところで。

 トライワイドには避妊具という概念が存在しない代わりに――。

 高位の呪属性魔法の中に一定時間、対象の生殖機能を停止させる『避妊魔法』というものがあった。

 悠斗がそのことに気付いてショックを受けるのは、随分と後のことになる。



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