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シルフィアの願い



 途中に夕食を挟みながらも夢中になって《魔力圧縮》の検証作業を重ねていると、すっかり日が沈んでいた。


 その日の夜空には満月が浮かんでいた。



「……すまない。主君。少し時間をくれないだろうか?」



 声のした方に目をやると、そこにいたのはシルフィアであった。


 その表情は何時にも増して真剣であり――。

 瞳の奥からは、覚悟の色が垣間見えた。



「どうしたんだよ。改まって」


「主君は明日、マモンの元に向かうのだろう?」


「ああ。そのつもりだよ」


「足手纏いであることは分かっている。しかし、一生のお願いだ! 私のことを連れていってくれまいか?」


「…………」



 悠斗としては明日の決戦では誰1人として仲間を連れていく予定はなかった。


 これまでの戦いで《七つの大罪》に属する魔族が、それぞれ強力な力を持っているのは理解している。


 明日のマモンとの戦いは、間違いなく過酷なものになるだろう。

 悠斗としてはそんな危険な場所に仲間たちを連れていきたくはないと考えていたのであった。



「お前の気持ちは分かったよ。理由を聞かせてくれないか?」



 尋ねると、シルフィアは悲痛な面持ちで口を開く。



「主君には以前話をしただろう? マモンという魔族が私の故郷であるルーメルの王と接触していたことを……」


「ああ。聞いていたな」



 シルフィアの故郷であるルーメルは戦に敗れて、現在はロードランドの属国となっている。


 マモンは戦争が起こる直前にルーメルの王に接触して《召喚の魔石》を売り付けようとしたことがあったのだった。



「実を言うとルーメルとロードランドが、どうして戦争をしなくてはならなかったのか……その原因は未だに謎に包まれている部分が多い。

 私はどうしても……その真相を確認したいのだ。我が国と関わりのあったマモンなら何か知っている可能性がある。だから私はどうしてもマモンと会って話をしなくてはならないのだ!」


「…………」



 シルフィアの言葉を聞いた悠斗は頭を悩ませていた。


 仲間の安全を考えるならば断わっておくのが、間違いなく最善の選択と言えるだろう。


 だがしかし。

 シルフィアの真剣な眼差しを目にした悠斗は、自らの考えを改める。



「よし分かった。けれど、マモンの所に行くなら1つだけ約束をしてくれ」


「……本当か!? ああ。何でも言ってくれ!」


「自分のことを足手纏いなんて卑下するのは辞めろよ。俺にとってシルフィアは隣にいてくれるだけで勝利の女神なんだ。だからお前は難しいことは考えないで……ずっと俺の傍にいてくれるだけでいいんだよ」



 その言葉は悠斗にとって嘘偽りのない本心であった。

 今日のグレータデーモンとの戦闘でも悠斗が勝利できたのは、シルフィアの声援があってこそである。



「…………」



 悠斗の言葉を聞いたシルフィアは感動していた。


 何故ならば――。

 シルフィアは「自分のような弱者が主人の隣にいて良いのか?」と、ずっと不安に思っていいたからである。


 自身の存在を肯定されたシルフィアはジワリと目に涙を溜めることになる。



「……主君っ!」



 勢いよく悠斗の体に抱き着いて胸に顔を埋めるシルフィアは、普段とは違って何処か子供っぽい雰囲気があった。



「……ったく。シルフィアは仕方のないやつだな」


「うぅ……。なんて勿体のない言葉……! 主君のような人間に仕えることができた私は果報者だ……。この恩は一生忘れない! 忘れないからなっ!」



 シルフィアの慟哭は夜空に響き渡る。


 その日のシルフィアとの夜の営みは、何時も以上に激しさを増すのであった。



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