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レジェンドブラッド



 一方、同時刻。

 暴食の魔王ベルゼバブは既にローナス平原に出現したダンジョンの地下6Fにまで歩みを進めていた。


「う~ん。ダンジョン探索ってもっと面白いモノだと思っていたんだけど、意外と退屈だったのね……」


 彼女の周囲には先程、悠斗が倒したものより更に1回り大きなサラマンダーの死骸があった。

 

 どんなワガママでも叶えることが出来る《悪食》の固有能力を以てすれば、ダンジョンの中に潜んでいる魔物やトラップを突破することは容易であった。


「ラヴ。そいつのことを食べたら先に進むからねー」


「…………」


 悪食の能力によって生み出された魔神ラヴは、凄まじいスピードでサラマンダーの死骸を捕食していた。


 ラヴがワガママを叶えるためには1つだけ条件があった。

 それは魔力を保有する生物を食べて、体内にその魔力を保存しなければならないということである。


 そのワガママが実現困難なものであるほど消費する魔力が増える。

 ラヴの得意分野は『破壊』と『創造』であり、それ以外のワガママになると燃費効率が悪くなるという傾向があった。


 ベルゼバブとしては、てっとり早く最下層に到着したいところであったのだが――。


 一気にダンジョンを攻略するためのワガママを叶えることが出来るだけの魔力がラヴの体内には保存されていなかったらしい。


 それ故。

 こうして魔力を補給しながらの地道な攻略作業を余儀なくされていたという訳である。


「あーあー。退屈だなぁ。早くユート様に会いたい。とにかくこんな辛気臭いダンジョンなんて、さっさと攻略しちゃおうー」


 ラヴが食事を終えたのを見計らって、ベルゼバブが次の部屋に移動しようとした、そのときであった。


 ベルゼバブの前に全身黒装束の1人の男が立っていた。


 相手の《魔眼》スキルを無効化するレアアイテム『黒宝の首飾り』を身に付けたこの男は、冒険者ギルドで悠斗が見かけた男と同一人物であった。


 悠斗をして「只者ではない」という評価を受けた男はフードの下で不敵な笑みを浮かべる。



「……待ちくたびれたぜ。暴食の魔王」



「あはは。もしかして、お兄さんってストーカーさんですか? こんな狭苦しい部屋の中でアタシのこと待っていてくれたとかー?」


「…………」


 男は無言のまま黒のフードを外して、研ぎ澄まされたナイフのように鋭い視線をベルゼバブに向ける。


 彼の持つ、金色に輝く髪と燃えるように赤い眼は、トライワイドにおける大英雄の1人を彷彿とさせるものであった。


 男の名は、ミカエル・アーカルド。

 今から500年以上も昔、《アーク・シュヴァルツ》と共に魔族によって支配されていた世界から人類を救った勇者の子孫である。


 かつて大英雄、アーク・シュヴァルツは、魔術師・賢者・武闘家という構成から成る3人の仲間を引き連れて魔王討伐の偉業を成し遂げたとされていた。


 伝説的な活躍を遂げた4人の英雄の子孫たちは《レジェンドブラッド》と呼ばれ、世界の中枢を担う重要なポストに就いている。



「あれ……? 貴方の顔、何処かで見覚えがあるような……」



 ミカエルは金髪赤目という特徴的な外見をしていた。

 世界各国に絵画・彫刻などが飾られる史上最強の魔術師の容姿は、ミカエルに色濃く引き継がれていていたのである。


 この特徴的な外見は魔術師としての最強の血統の証でもあり――。

 下級の魔族などは金髪赤目の人間を見るだけで逃げ出すほどのものであった。



「惜しいな。魔族でさえなければ結構、好みの顔をしているのに」



 レジェンドブラッド随一の優男であるミカエルは、ベルゼバブの肢体を舐めるように眺め回す。


「何ですか? ナンパですか? 止めて下さい。ごめんなさい。アタシには既に心に決めた人がいるんです」


「ハハッ。ナンパだって? 冗談を言うなよ。オレはキミを殺すために遠路はるばる派遣されてきたんだぜ?」


 男は懐の中から大きな宝石が嵌め込まれた杖を取り出すと、ベルゼバブに対してそれを向ける。



「そんじゃま。残念だけど、世界の平和のためにキミには此処で死んでもらう」



 ベルゼバブはミカエルの動きに呼応するようにして悪食の固有能力を使用し、魔神ラヴを召喚する。


「……残念なのはそっちでしょ。何処の誰かかは知らないけど、アタシにちょっかいを出したのが運の尽きでしたね」


 暴食の魔王の地位に就く少女と、かつて人類を救った大魔術師の子孫。


 悠斗の預かり知らぬところで今――。

 500年前の戦いが再現されようとしていた。





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