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異世界に召喚される

 


 近衛悠斗は極々普通の高校生である。


 唯一、普通の高校生と違う点を挙げるのであれば彼が幼少の頃より、《近衛流體術》という特殊な武芸を身に付けていたところであろう。


 近衛流體術とは『世界各国に存在する全ての武術の長所』を取り入れることで、《最強》を目指すというコンセプトを掲げている異流武術である。


 そのため。

 幼い頃より悠斗は父親に命じられ、世界各国の多様な武術を学んできた。


「いってぇ。あの糞親父が……」


 ベッドの上で横になりながらも恨めしげに悠斗は呟く。

 悠斗としてはどうしてこの平和な日本で、そんな物騒な武術を修める必要があるのか甚だ疑問であった。


 仮にこれから先、魔王が世界を支配し、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする《異世界》にでも召喚されることがあれば、この技術も役に立つかもしれないが、当然そんな予定がある訳もなく――。


 今日も今日とて、激しい修行による筋肉疲労によりその手足を痙攣させていた。

 悠斗の意識はやがて、ベッドの中で深い微睡(まどろみ)の中に落ちて行く。


 

 ~~~~~~~~~~~~

 


 ふと意識が戻ったとき悠斗は異世界に召喚されていた。

 目の前にいたのは、いかにも柄の悪そうな十人を超える男たちであった。

 

 悠斗がこの場所を異世界であると判断した理由――。


 それは目の前にいる男たちが、豚の頭を持ったオークという種族であったからに他ならない。


「……チッ。なんじゃ。男か」


 オークたちの中でも、ひときわ大柄な彼らの『ボス』と思わしき人物は悠斗の顔を見るなり露骨に舌打ちをして続ける。


「どうじゃ。クレイン。そやつの固有能力は? 奴隷としてどれほどの価値が付きそうじゃ?」


 クレインと呼ばれるメガネをかけたオークは深々と溜息を吐く。


「旦那様。残念ながら今回は『ハズレ』にございます。そこにいる男は何一つとして固有能力(ユニークスキル)を持っていない無能力者にございます」


「無能力者じゃと……? 異世界から召喚した人間は強力な固有能力を持っているのではなかったのかっ!?」


 オークのボスは驚きで目を見開く。


「はい。私もこのような経験は初めてで少々驚いています。しかし、私の持つ《魔眼》の固有能力は絶対です。私の《魔眼》の能力で見通せない固有能力など……それこそ御伽噺のような話になりますが、レアリティが詳細不明(アンノウン)のものくらいしかないでしょう」


「クソッ! 詳細不明(アンノウン)……!? そんなもの……実在するかも分からぬ空想の産物じゃろうが!」

 

 オークのボスは地団駄を踏むと、ただでさえ醜悪な顔を更に歪ませた。


「クレインよ。例えばその男が今後何らかの拍子にレアな固有能力を身に付けるという可能性はないのか?」


「それが不可能であることは旦那様もご存知のはずでは? 固有能力とはあくまで……天より選ばれし生物のみに与えられる《先天的》な力ですから」


「……チッ。胸糞悪い。あれだけ大枚を叩いて購入した《召喚の魔石》が何の役にも立たない無能力者を呼び出してしまうとは……話が違うではないか!」


「…………」


 悠斗はこれまでの男たちの会話から、自分の置かれた状況を冷静に分析していた。


 さて。

 どうやら自分は元いた世界とは、別次元に存在する世界に召喚されてしまったらしい。


 悠斗は現実と夢の世界の区別が付かないほど耄碌としているつもりはなかった。


 視覚・嗅覚などの五感から得た情報から総合的に考えるに『異世界に召喚された』と推測するのが最も合理的だろう、と悠斗は判断したのであった。


 運の悪いことに――。


 異世界召喚と言えば、美少女召喚術士によって呼び出されるものだと相場は決まっているのだが、どうやら悠斗を呼び出したのは醜悪な豚男たちであるらしい。


(召喚された先が豚小屋の中っていうのは……あんまりだよな……)


 会話の内容もあまり穏やかなものではない。

 これまでの会話から察するに、自分が平穏にこの場を脱することの出来る確率は限りなく低そうである。


 頭の中で様々な思考を巡らせていると、メガネをかけたオークがボスに向かって進言する。


「……無能力者とは言え、健康な若い男ならば労働力として価値はあるでしょう。一応は、商品として市に流すのが賢明な判断かと」


「ふん。男の奴隷など売っても二束三文だろ。ワシは今、猛烈に怒っておる……どうせ金にならぬなら……今ここで首を刎ねてくれるわ! 殺れ!」


 オークのボスがそう啖呵を切った次の瞬間。

 槍を持ったオークの雑兵たちが悠斗に向かって突進する。



「……ゴヴォ!?」



 異変が起きたのは――オークの手にした槍が、悠斗の心臓に突き刺さる寸前であった。

 カエルの潰れたような悲鳴が部屋の中に響き渡る。


 悠斗の人差し指は豚男の喉元に突き刺さり、肉を抉るようにして食い込んでいた。


 貫手。


 さながら自身の腕を一本の《槍》のように見立てて突くこの技は、世界各国の幅広い武術で使用されているものである。


(まさか……こんなところで学んできた武術が役に立つとはな……)


 もっとも……悠斗のように相手の肉体を抉るような威力で貫手を放てるものなどそうはいない。


 オークたちにとっての最大の不幸は――近衛悠斗という少年が世間より千年に一人の逸材と称されるほどの武術の天才であったということである。


 全ての格闘技の長所を相乗させることをコンセプトとした《近衛流體術》を習得するためには欠かせない――『他人の技を盗む技術』にかけて悠斗は、天性の素質を持って生まれていた。


 今現在――。


 悠斗が体得している武術は、レスリング、ボクシング、サバット、合気道、柔道など古今東西で優に60種類を超えている。


 それは長きに渡る近衛家の歴史においても悠斗が、《最強》の素質を持って生まれたことを何よりも証明するものであった。


 悠斗が鋼のように固い指を男の喉から抜いた次の瞬間。

 大量の血飛沫を上げて、オークの一匹は絶命した。


 まさか無能力者から反撃を受けるとは思わなかったのだろう。

 残ったオークたちは何が起きたのか分からずに唖然としていた。


 その隙を悠斗は見逃さない。


 悠斗は襲ってきたオークたちが落とした槍を素早く奪う。


 直後。

 勢いよく助走を付けてオークの槍を敵集団に向かって投擲する。



「「ぎゃわ!?」」



 刹那。

 オークたちは2匹同時に脳天を貫かれていた。


《近衛流體術》とは基本的に武器を持たない戦闘を想定して作られた体術であるが、『敵から奪った武器を利用する』ということすら念頭に入れている愚直なまでに実用性を重視した流派であった。


 そのため。

 悠斗は幼少の頃より、剣術・槍術・弓術などの多種多様な武器の扱いに関して学んでおり、それぞれの分野で達人級の腕前を誇っていた。


 そこから先は――戦闘というよりも一方的な虐殺であった。

 心底楽しそうな笑みを浮かべながらも悠斗は、オークたちを勝手気ままに蹂躙する。


 現存する格闘技の中でも極めて稀な1対多の戦闘を想定して作られたロシアの軍隊格闘術――《システマ》を極めた悠斗であれば、集団戦もお手の物である。


 システマ特有の相手に狙いを定めさせない流麗な足運びは、オークたちを翻弄し続けた。



「ハアアアァァァ!」



 タイの国技にも指定されている《ムエタイ》を極めた悠斗の飛び膝蹴りは、オークたちの頭蓋骨を粉々に砕くのに十分な威力を秘めていた。



「ごぼっ!?」



 人体の中でも『膝』は最も鋭利かつ頑強な部位とされており、そこに体重を乗せた『飛び膝蹴り』という技は、人間が繰り出す技の中でも最大級の威力を誇るとされている。


 悠斗の放つ膝蹴りには、まるで小型のトラックが衝突したかのような破壊力があった。



(やべぇわ……。これは超楽しいな)



 悠斗がそう考えるのも無理のない話であった。

 何故ならば、現代の日本ではいかに武術の鍛練を積んだところでそれを実際の戦闘に活かすチャンスに全く恵まれないからである。


 従って。

 心の何処かで悠斗は、自ら学んだ武道を活かすための『実戦』を渇望していたのだった。


 生き残ったオークのボスに向けて歩みを進める。



「き、貴様何者じゃ……!?」



 オークのボスは恐怖で尻もちをつきながらもそんな言葉を口にする。



「俺の名前は近衛悠斗。何処にでもいる極々普通の男子高校生だ」



 オークのボスが「お前は一体……何を言っているんだ?」という疑問の言葉を口にしようとした時には、既に彼の喉は悠斗の貫手によって潰されていた。


 そしてこの瞬間こそが――。


 後のトライワイドで《魔王》と呼ばれ、後世に恐れられる一人の男が誕生した瞬間であった。




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― 新着の感想 ―
手塩にかけて育てた息子が行方不明になった時、如何ほどのショックを父親は受けるか、寝込まなければ良いですね。
[一言] 日本は本当に危険です、普通高校生は免責で殺人につながる可能性があります
[気になる点] ごくごく普通の高校生はいきなり異世界に召喚されたら取り乱すと思います。 そもそも主人公を厨2っぽくしたいんだなっ感じが見られてゲンナリです。 いきなり召喚されて状況を把握出来ないほど耄…
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