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プロローグ

 その日の夜、彼から突然メールが来た。

 本当に突然だから、もう、何が何だかわからなくて。

 いや、突然じゃなかったのかな。何日もメールが途絶(とだ)えてたし…。

 でも、そんなことはよくあることだったから、気にも留めてなかった。

 …ホント、自分勝手な人。…いつもいつも、…すごくわがまま。

 二、三日前に、二人で遊園地に行ったの。

 久しぶりのデートだったから、私は一日中はしゃいでた。

 マスコットキャラクターにあいさつして、いっぱい写真撮って。

 ジェットコースターで大声出して、お化け屋敷は怖くて泣いた(笑)

 …でも、彼は、同じクラスの他の女の子の話とかしてきて、

 …。

 彼とは、もう半年にもなるんだ…。

 私の、初めての彼氏。

 「半年…」

 全然、実感がわかない。

 「私たち、半年の間に何回会ったっけ…?」

 指を折って数えてみる。

 一・二・三……。

 …あはは、両手で足りちゃった。

 いつもデートには私から誘って。

 それでも基本断られるの。

 まれにできるデートは、彼の好きなこと。

 それか、バレンタインとか、誕生日とか、そういうイベントだけ。

 それ以外は断られるか、オーケーしておいて、当日の朝ドタキャン。

 前の日の夜に服決めて、朝早く起きて気合入れて化粧して、

 いざ「出かけるぞ」ってときに携帯を見ると、「メール一件」って表示されてて、

 見てみると、やっぱり彼から。

 「ごめん、今日は行けなくなっちゃった」

 「おばあちゃんが倒れたんだ」

 「今実は病院にいて」

 「…ごめん、どうしても外せない用事なんだよ」

 …嘘ばっかり。

 私に、会いたくないんでしょ?

 …はっきり言ってくれればいいのに。

 だから、彼が私のこと好きじゃないのは知ってた。

 はっきり、「妹みたいにしか思えない」って言われたこともあったっけ。

 それでも「いつかは変われるかも」って言ってたから、待つことにしたんだけどな。

 そんな風になったら、普通気持ちに応えてあげよう、って努力するもんじゃない?

 どうしてもできないなら、ちゃんと

 「あなたの気持ちに応えられない」って。

 それを理由にフッてあげるのが、優しさだと思う。

 でも彼は、いつも自分のことばかり。

 「本当に、…自分勝手な人」

 だから、彼が私のことを好きじゃないことぐらい知ってたから、

 …こんなメールが来ても意外と、冷静だった。

 「別れよう。別に強がりで言ってるわけじゃないんだ。今度は、ホントの本気。…好きな人ができたんだ。だから、別れよう」

 もちろん、気が狂いそうだよ?

 おそろしいほどに一方的なメールじゃん。

 「何これ?」

 って思った。

 本当に自分のことしか考えてないメール。

 サイテー。

 …超、サイテー。

 マジデムカツク!

 でもね、私はこう送ったの。

 『好きな人ができておめでとう。言いたいことはいろいろあるんだけど、頭の中が整理できてないから、少し待って』

 がんばったでしょ?

 えらいでしょ?

 それからね。

 『ああいうメールは、送るほうもつらいよね、ごめんね』って、私送ったんだよ?

 怒鳴(どな)り散らして、憎んで、泣いて、縁切れたらそれで楽なのに、そんなことできない、とも書いた。

 冷静になって、って。

 もっとよく考えて、って。

 私と付き合ってたほうが幸せでしょ?って。

 …そんな感じのことを。

 すっごい長文で送ったの。

 でも、そんなメールに彼は次の日、

 『昨日のメール、うれしいこともあったし、嫌なこともあった。どっちと付き合ってたら将来幸せになれる、とか、そういう計算みたいなことって嫌だな。大事なのは感情じゃん』

 だって。

 あはは。感情だってさ。ホントよく言えるよね。

 そりゃ言いたいことはわからなくもないけど、

 …それって、私の存在、全否定じゃん。

 こんなフリ方しておいてさ。

 フツー縁切るでしょ?返信来なくても不思議じゃない。

 返信が来たとしても、『ごめんね』って、

 たとえどれだけ罵声(ばせい)を浴びせられても、『ごめんね』って、

 …それしか言えないでしょ、普通。

 それを、よくもまあ、…。

 …他人の気持ち、まったくわからないんだね。

 友達に電話で話したら、

 「半年間よくがんばったね。向こうから別れようって言ってきてるんだし、…あくまで客観的に見れば、別れたほうがいいと思う。このまま付き合ってても、優奈がつらいよ?」

 って言ってくれた。

 うん、その通りだね。

 私もホントにそう思う。

 ――でも、

 『まもなくー……、お降りの方は…』

 彼と別れたら、私はどうなってしまうんだろう…。

 それだけが、怖い。

 

 はあ。…足が重いな。

 そう思うのは心の中で、でも階段をしっかりと降りられるのが不思議だ。

 見慣れた駅?

 ――って言うほど、も見慣れてないか…。

 二、三回彼とデートした街。

 学校に行くにも、家に帰るにも、彼にとって都合のいい街。

 私の家からは、遠い。

 その若干見知った階段を、新堂優奈(しんどうゆうな)は降りていく。

 この階段を降りたらすぐに改札。

 それを出て、少し行ったら、…きっと彼が待っている。

 あのあとメールで、最後に会って話したい、って言われたから。

 私は、…あの人に会って何を話すんだろう?

 断りもせず、ビンタする決意があるわけでもなく、のこのこ来てしまった自分が、われながらアホらしい。

 いつもの待ち合わせの場所に彼はいた。

 いつもの、って、変か。

 「ここを待ち合わせ場所にしよう」って決めたけど、結局二回しか使ってない。

 しかも今日がその二回目。

 私のほうが、先に気付いた。

 彼は全然、こっちを見ていない。

 …待ってすら、いてくれないんだ。

 …。このやろう。

 子供が騒ぎながら後ろを通り過ぎ、若いカップルが前を横切り、人がいっぱい流れていく。

 絶対、こっちから声なんかかけてやるもんか。

 何分そうしていただろう。

 やっと彼が、こっちに気付いた。

 なんとも表現できない苦笑いを浮かべて、こっちを見ている。

 ホントムカつく。

 でも仕方ないから、私から喋りかけることにした。

 「……こんにちは」

 「えっと、いろいろ話したいんだけど。ここじゃあれだし、どこか喫茶店に入ろうか」

 ものすごい平然としてやがる。

 そりゃ、アンタは気楽だよね。

 来てくれてありがとう、とか、ごめんね、とか、

 せめてそういう第一声を期待したんだけど。

 …なんで私は、こんな男に告白したのかな…。

 我ながら、意味が分からない。

 半年前の自分がなんかもう、

 ……、バカらしいのか、ムカつくのか、悲しいのか、よくわからないや。

 でも立ち止まっていてもしょうがないから、とりあえずついていくことにした。

 さすがに喫茶店で話して、誰かに聞かれたくはなかったからやめてもらったけど。

 目の前の通りをまっすぐ行った先に、小さな公園があるらしい。

 そこなら、この時間帯はあまり人がいない、って彼は言うから、私たちはそこに向かっている。

 彼は、なんかしきりに話しかけてくる。

 どうしようもない世間話。

 重い空気が嫌なの?自分で作っておいて?

 全部無言で返していたら、そのうち話しかけてこなくなった。

 

 彼はいろいろ喋り出した。

 いろいろ言ってたけど、……なんかもう、とにかくとことん自分勝手。

 その新しく好きになった相手は、彼のこと好きでもなんでもないらしい。完全な片想いなんだって。

 だったら、私とこのまま付き合ってていいよ?って、ここまで最悪なことされておいて、それでも私は言ってあげた。

 他人は私をどう思うだろう?優しいって言ってくれるかな?

 うん、言ってくれる。でも、心の中で、バカな奴、って思うだろうね。

 そんなことは自分でもわかってる。

 それでも私は、そう言った。

 でも結局ね、

 

 別れた。

 

 あ~あ。…終わっちゃった。

 彼は、自分の気持ちに一生懸命になってみたいんだって。

 あはは……。なめとんのか。

 よっぽどね、ビンタしてやろうか、って思ったんだよ?

 でもね。

 ……。

 去っていく彼の後姿を見ている私の心の中は、とても説明が難しい。

 いや単純なのか?

 わからないけれど、とにかく私は最後まで彼にビンタができなかった。

 なんで?

 彼への愛情?

 違う。

 自分がどんなに傷ついても、人に優しくできるような私はそんな素晴らしい人?

 ありえない。

 じゃあ、人に憎悪の感情をぶつけるのが怖い、臆病者?

 それも違う。

 もうビンタにも値しないほどに、憎んだ?

 ……。

 はあ。別れてしまった。

 とうとう、別れてしまった。

 …もう、無理だ。

 私は、

 私はとうとう、自分の心に向き合わないといけなくなってしまったんだ。

 ……。

 …どうしよう。

 私の心の中の半分は、彼への憎しみ。

 でももう半分の部分は、「ごめんね」って言ってて、

 別れたことで、自由になれたような、変な喜び。

 サイテーな恋愛だった。

 彼もサイテー。

 間違いなく、ね。超サイテー。

 …でも私も、

 サイテー。

 携帯の送信済みフォルダを開いてみる。

 彼へのメール。

 バカみたいに「好き好き好き」って。

 「あなたが好き」って、書いてある。

 そんなメールが、いっぱい。

 ごめんね、

 あのメールは、半分は本当で、半分は、嘘。

 

 ごめんね、ごめんなさい。

 あなたのことを、好きになりたかった。

 好きになって、忘れさせてほしかったの。

 …大好きな、あの人を。

 好きって、言葉にして好き好き言ってれば、好きになれるかな、って思って。

 もちろん、本気で好きだったよ?

 友達じゃなくて、恋人として見てた。

 でも、それは半分で、

 もう半分は、

 …ごめんなさい。

 …本当に、

 本当に、お互いに最低な恋愛だった。

 だから、私は、

 あなたに怒れない。

 あなたは私のこと優しい、って言ってくれるけど、

 ホントは全然そんなことない。

 計算高くて、身勝手で、嫌な女。

 今、あなたを失って、

 私の頭の中の半分は、あなたのことを考えている。悲しくて、苦しくて、狂ってる。

 でも、

 もう半分は、あなたがいてくれたおかげでかけられていた私の心のブレーキが、外れてしまった。

 どうしよう、抑えられるのか?…そんなことを心配している。

 好きになってはいけない、でも大好きな、あの人への気持ちを。



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