話はそれからだ。
短編です
あぁ、降ってきた。予報だと午後からだと言っていたのに、一応傘は持ってきたけど、降り始めはさほどでもないから、とりあえず集合場所へ急ぐ。走れば数分で着く距離だ。立ち止まってカバンを開けるのも面倒だし。
そう思っていた自分を恥じた。
夏の雨は急激に強く降る。案の定僕は、ずぶ濡れになった。
更に雨のせいで滑りやすくなっているマンホールで、華麗に転び、ただ濡れるだけでなく、服に泥汚れまで着いてしまった。
これじゃぁ今日は彼女に会うことはできない。でもいったん帰って着替える時間もない。とりあえず彼女にメッセージを送る。
[ごめん、ちょっとトラブル]
[どうしたの?]
[転んでずぶ濡れで、服が泥で汚れちゃって、一旦帰って着替えてきてもいいかな?]
[そりゃ大変だ!今どこ?]
[駅まであと2~3分くらいのところ]
ここでいったん彼女からの返信が途切れたから、慌ててカバンから傘を出す。カバンの中もずぶ濡れだ。奥底に仕舞っておいた小さな箱も端っこが少し濡れてしまった。一旦帰って、この箱も乾かさないと。せっかく準備を進めて、気合を入れて来たのに。
「はぁ・・・」
ため息をついたって仕方がないが、自分のドジさに少々落ち込む。
「あ、いたいた!」
彼女の声がした。
彼女は折り畳みじゃない、大きな傘をさして走ってきた。
「あぁ~、すごい!本当に泥だらけ!傘もさしてないじゃん!持ってるのにwww」
彼女が自分の傘を僕にさしてくれた。
「あぁ、ごめん!自分の傘さすよ!」
「いいよ、ゆっくりで。一旦お家行こう」
彼女のこういうところが好きなんだ。ドジな僕を責めるでもなく、僕のペースを待ってくれる。傘をさして一安心、一旦僕の家に向かう。
「ごめんね、駅で待っててくれたんでしょ?」
「早めに来て駅周辺散歩するのが好きなの~」
柔らかく笑う彼女の笑顔と優しさに、打ち抜かれる。
ほどなくして駅地下物件の僕の安アパートに到着した。鍵を開けて、彼女を部屋に案内して、僕は風呂場で速やかにTシャツを脱いだ。
「ほんとごめんね、今日買い物一緒に行こうって言ってたのに」
「えぇ~、問題ないよぉ。だって時間制限とかないし、落ち着いたら今日行っても良いし、また別の日でも問題ないよぉ~」
のんびり話す彼女のペースが、僕にはとっても合っている。僕には本当にもったいない彼女だ。
「カバンもびしょ濡れだから中身出しちゃう?」
「あ、ありがとう」
彼女は本当に気が利くし、優しいなぁ。
まてよ?あの箱がバッグに入ってるはず。
「あ、ちょ、まっt・・・」
「ありゃ、この箱も結構濡れちゃってるね、乾かさないと!」
彼女の手には、今日渡すつもりだった指輪の入った箱が握られていた。
「あれ、このブランド・・・」
「あ、そ・・・それは」
僕の様子を見て、彼女も箱の中身が解ったようだった。
妙な沈黙が流れる。どうしよう、これは、何か、何か話さなくては。でも一体何を!?
「・・・・・あ、・・・その・・・」
「・・・」
「その箱・・・ごめん濡れたままで・・・」
彼女がそっと箱を開けた。
今言え、言うんだっ!
「その、僕と・・・・結婚してくれますか?」
——とりあえず、まずは服を着たほうが良いよ——
半裸のプロポーズ




