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転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!  作者: 木風


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第17話「路地裏で塞がれた逃げ場と、唇に触れた指先」

歩き疲れた頃には、両手は完全に空っぽなのに、周囲には山のような荷物を抱えた護衛が無言でついてくる。

すごい。完璧に自然で、まるで最初から荷物が無かったかのよう。


「……これ、私たち、完全に王族の買い物デートじゃない?」


思わず小声で呟いたけれど、エドは涼しい顔で『市政調査だ』と言い張るだけ。

……絶対に嘘だろ。


胸の奥がくすぐったく、顔はほんのり熱い。

楽しくて、呆れて、でもやっぱり楽しい……そんな市場巡りになった。


市場の喧噪の中で、ひときわ大きな人だかりができている屋台が目に入った。

香ばしい肉の匂いや果物の甘い香りが渦巻く中、そこだけ空気が張りつめている。


「なにあれ。サイコロ?」


木の台に布が敷かれ、胴元らしき男が器にサイコロを入れて振っている。

カラン、と乾いた音が響くたび、周りの男たちは真剣な顔で金貨や銅貨を置き、歓声や怒号が飛び交った。


「面白そう!やってみたい!」

「……当たるはずがない。胴元が必ず勝つようにできている」

「いいから!外れてもいいんだって!一回だけ!」


エドの制止を振り切り、銅貨を一枚置く。

同元に囃し立てられながら木の器にサイコロを振ると、コロコロと心地よい音が響いて……ぴたりと6で止まった。


「おぉーー!」


小さなどよめき。

胸が高鳴る。いやいや、まぐれだ、まぐれ。


「次も同じの出すよ!!!」


……まぁ、一回くらいなら1/6で16%ちょい…!

2個目のサイコロも無造作に投げ入れると、ぴたりと6で止まる。


「またか!」

「嘘だろ!?」


さっきより大きなどよめき。背後でエドが額を押さえる気配がした。


「……お嬢ちゃん、もう1回やるかい?」

「もちろん!!見てなよ!!?」


三個目。

11/36…確率2.78%…!来い!!!理屈では当たりにくいはずなのに、またもや6。

歓声が爆発し、男衆が身を乗り出す。


「次もやれやれ!!!」

「いけぇぇ!!!」


熱気に押され、4個目を投げ込む。

転がるサイコロに、視線が集まる。

器の中で跳ねたサイコロが、ころんと転がって……

木の器の中には奇麗に6が揃った4個のサイコロ


「うそだろ!?」

「うぉぉぉぉおおお!!!!」


……いやいやいやいや。さすがにこれはおかしいでしょ。

確率は1/216…0.46%…を引くって…

クローバー家は強運の家系って、聞いてたけど……そんなの検証できない迷信だと思ってた。

……もしかして、まじなの?


「イカサマだろう!!」

「なにか細工してるぞ!」

「え!?してないしてない!!」


ざわざわと人垣が迫ってきて、胴元の顔が真っ赤に染まる。

息が詰まるほどの熱気と視線。やば、これ本気で危ない雰囲気じゃん!?


「……走るぞ」

「え、えっ!?ほんとに!?」


次の瞬間、エドに手を掴まれ、人混みをかき分けて走り出す。

石畳を蹴る音が響き、怒声と足音が背後から迫る。


「ははっ……ほんとに追いかけてきてる!」

「君が当てすぎるからだ」

「だから勝手に出るんだってば!!」


角を曲がり、狭い路地へ。

次の瞬間、壁際に押し込まれる。

片方の手はまだ握られたまま、もう片方が壁に支えられ、逃げ場を塞がれる。


「っ……!」


顔を上げた瞬間、すぐ目の前にエドの顔。

吐息がかすかに触れる距離。


足音と影が通り過ぎる。

指先が私の唇に触れ、低い声が落ちる。


「……静かに」


鼓動が耳の奥で爆音を立て、息が詰まる。

すぐ隣で彼の胸が上下しているのも伝わって、心臓が跳ねる。


やがて足音が遠ざかる。

なのに、彼はすぐには離れない。

目が合って、数秒の沈黙。


ふ、と目尻が緩む。

こらえきれずに、私も小さくクスクス笑ってしまう。


「……君は、こうしてる方が大人しいな」

「なっ……!?」


耳まで真っ赤になるのが分かる。

ちょ、ちょっと待って!絶対わざとでしょ!!


さっきまでのドタバタが嘘みたいに、胸の奥が騒いで止まらなかった。

完全に人の気配がなくなったのを感じた瞬間、二人して笑い転げていた。


「あはははは!ほんとに追いかけられるなんて!」

「……ふふ……君は、やはり……油断ならない」

「いやいや!サイコロが勝手に当たったんだから!」


笑いすぎて涙が滲む。喉がひくひくして、呼吸がやっと整った頃……まだ握られたままの手に気づく。

いつから繋いでたんだろ……


大通りに出た瞬間、波のように人が押し寄せた。

籠を抱えた商人、買い物袋を提げた主婦、子どもたちの笑い声、車輪の軋む音。

ぐらり、と視界が揺れた瞬間……肩ごと、すっぽりとエドに抱き寄せられる。


「わっ!」

「……危ない」


耳元に、低い声。

熱を帯びた息遣いと共に、腕が私の肩をすっぽり包む。


「もう少し、ゆっくり」

「……う、うん」


近っ……近い!今、何センチ?ゼロに近い!

患者さんの体温に触れたことなら数え切れない。なんなら手術で素肌を見慣れていた。

なのに全然違う。理屈じゃ説明できない何かが、体の奥で跳ねている。


顔を上げられずにいると、エドの指がふと襟元を直した。

視線が、そこから胸元に落ちてくるようで心臓が爆発しそうになる。


「手を。はぐれないように」


そう言って繋ぎ直されたのは、さっきまでの掌同士ではなく……指と指を絡める『恋人繋ぎ』。

触れた瞬間、静電気みたいに弾ける。


……っ、な、なにこれ!

胸の鼓動が跳ね上がる。呼吸が浅くなる。

言葉が出なくて、ただ横顔を盗み見る。


ふっと目が合い、柔らかく笑みを浮かべられた瞬間、息が詰まった。

熱くなった顔を慌てて背ける。

でも、指先だけはしっかり絡め取られていて離れない。


なにこれ!私より年下のくせに……!!

なのに、どうしてこんなにドキドキ止まらないの!?


ラノベで何度も読んできた定番展開。

読んでいる時は 『キュン』とか『尊い』で済んだけど、実際にされる側になると……心臓に悪い!


王子って、こんな行動や言葉まで訓練されてんの!?反則でしょ!?


思わず、繋いでいない方の手で顔を仰いで誤魔化す。

けれどエドは涼しい顔で、しれっと歩調を合わせてくる。


市場を抜け、小さな路地を進むと古本屋があった。

軋む扉を押し開けると、ちりんと鈴が鳴る。

中は背の低い棚が並び、革の背表紙がずらりと並ぶ。埃の匂いとインクの匂いが混じり合い、どこか懐かしい。


「珍しい顔だね。目のきれいなお嬢さんだ」


店主は年配で、目尻に皺を寄せて笑う。

私は夢中で背表紙を撫で、ぱらぱらとページをめくる。


「この序文……好き……」


ぽつりと漏れた言葉に、店主がゆっくり頷く。


「それを分かる人は、良い読者だ」


頬が熱くなり、少しはにかむ。

ページを抱きしめる手が小刻みに震えるのを、エドは横からじっと見ていた。



古本屋を出て数冊を抱え、歩き出すと街の空は茜色に染まっていた。

高台へ続く石畳は舗装が甘く、思った以上に足に堪える。

息が切れ、胸が上下する。


「もう少し先の店で夕食にしよう」


そう言われ、ふと後ろを振り返る。

夕陽に染まった街が一望できた。


今日二人で歩いた市場。喧噪と笑い声がまだ耳に残っている。

屋台の煙と香ばしい匂いまで蘇る。

遠くには森に囲まれて白く浮かぶ王宮、反対側には公爵邸の屋根。


以前いた日本と、あまりにも違う景色が広がっていた。

ここには見慣れたはずの高層ビルも、タワーマンションも、電柱すらない。

電線も、車も、信号も。

クラクションの代わりに響くのは、石畳を軋ませる馬車の車輪の音。

窓辺に吊された小さなランプがゆらりと揺れ、街の一角一角を温かく照らしていく。

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