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転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!  作者: 木風


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第11話「初めての乗馬は、王子の腕の中で」

楽団が奏で始めた弦の音色が空気を満たす。

華やかな旋律に包まれ、私は半ば引きずられるようにステップを踏んだ。

コルセットは容赦なく胃を締め付けるし、ドレスは裾が重くて足が上がらない。

くるくる回されるたびに視界がぐるぐる回って、頭の中までクラリと揺れる。


「もう一歩。大丈夫だ、私が支える」


王子の腕は確かにしっかりしていて、少しでもバランスを崩すとすぐに引き寄せられる。

けれど……近い、近い、近すぎるって!

29年間喪女だったんだぞ!?

ちょっとは遠慮して!この距離感、心臓に悪すぎるんですけど!!


私の悲鳴とは裏腹に、その光景を見守る侍女や執事たちは目を潤ませていた。


「まぁ。なんてお似合いの……」


感極まったように頷いてる場合じゃないから!

似合うかどうかなんて今はどうでもいい……私は必死に生き残るので精一杯なんだよ!!!


それでも、さすがアリエルというか……身体って本当に覚えてるもんなんだな。

頭にはダンスの理屈なんて一切ないのに、アリエルの記憶に頼るように足が勝手に動く。

ステップを踏むたび、見知らぬはずの動作が自然に馴染んでいく。不思議すぎる。


……でも、覚えてようが疲れるもんは疲れる。

午前のダンス練習を終える頃には、もうヘロヘロ。


私を待っていたのは、優雅すぎる昼食の席だった。

長いテーブルの上には、絵画のように色鮮やかな料理が次々と並べられていく。

白い湯気を立てるスープ、黄金色に焼かれたパン。肉料理も魚料理も、果物やスイーツまで彩り豊かに揃えられている。


椅子を引かれて座らされると、真正面には王子。

……王子と向かい合って食事とか、これ胃に悪いに決まってるんですけど!?


「まずは前菜から。ナイフとフォークの角度に気をつけて」


執事の声が鋭く飛んでくる。私はこくりと頷き、慎重に手を動かす。

……まぁ、ここは大丈夫。アリエルの身体に染みついたテーブルマナーのおかげで、自然と形になってる。

大丈夫、大丈夫……と思いたい。


けど。


スープを一口飲み、フォークに肉を刺したところで……胸の奥がチクリとした。

……そうだ。残さなきゃいけないんだよね、これ。

この世界に来てから何度か経験しているけど、未だに慣れない。

全部食べ切るのは下品。余裕を示すために、少し残す。


頭では理解してる。

でも、日本で育った私からしたら「残す=もったいない」なんだよ!!

ご飯残すなんて、罪悪感がすごいんだよ!!


特に、昨今の物価を思い出すとさ……

米なんてめっちゃ高いし、卵だってここ数年で三倍近く値上がりしたし。

『このくらいなら2,000円で済むかな』って思ってレジ行ったら、会計3,500円で『え?間違えた?』ってレシート何度も見直す現象。

あれ、なんだっけ……あ、そうそう、『買い物かご効果』だ!


そんな現代日本の記憶に引きずられていると……


「どうした?」


王子がふと、じっとこちらを見てきた。鋭い氷青色の瞳に捕らわれて、思わず背筋が伸びる。


「……いえ。いつも美味し過ぎて、全部食べそうになってしまい……」


言葉を選んだつもりが、正直すぎたかもしれない。


「ふ」


彼は小さく笑った。


「君らしいな」


ちょっと、なにそれ。

馬鹿にされたの?それとも褒められたの?どっち!?

心臓の音が、料理の香りよりもはっきり聞こえる気がした。


食事を終えると、再び部屋に戻り、侍女の手でドレスを脱がされる。

……え、いちいち着替えるの?もちろんネグリジェに戻るわけじゃないんだよね?


ということは、これ……まだ何回か着替えがあるパターンでは……?


次に通されたのは、陽光が柔らかく差し込むサロンのような部屋だった。

壁際には立派なピアノが鎮座し、その横には譜面台。窓辺には磨き込まれたバイオリンやフルートまで並んでいて、空気にすでに音楽の気配が漂っている。


……あ、なるほど。ここで芸術チェックね。


「アリエル嬢。まずはピアノから」

「は、はい……」


侍女に背中を押されて椅子に腰を下ろし、黒光りする鍵盤を見つめる。

えーっと、小さい頃にピアノ教室でちょっと習ってたから、ドレミファソラシドくらいは……


恐る恐る指を置いて、ポロンと鍵盤を押す。

すると不思議なことに、指が自然と動き、旋律を紡ぎ始めた。


おいおい、凄いな。アリエルの身体、ピアノまでしっかり覚えてるのかよ。

何の曲か全然わからないけど、流れるように音が重なっていく。


「では続けて、歌を」


……歌!?

ちょ、待って。人前で歌なんてカラオケくらいしか経験ないんですけど!?

しかもこの荘厳な空間で!?公開処刑以外の何物でもないだろ!!


「あー、あー、あー……」


恐る恐る声を出す。すると、思っていた以上に響いた。

……あれ?なんかやたらと声が残響するんですけど?このサロン、音響効果良すぎない?


「殿下。お嬢様、すでに舞踏会で披露しても差し支えないのでは?」


横で聞いていた音楽教師が、目を丸くしている。


確かに、アリエルの声って可愛いんだよな。

聞き取りやすくて、しっかり通るのに、どこか控えめで甘さもある。

それがこの広い部屋に響いて、まるで歌劇場みたいに残るから余計に印象的だ。


ふと視線を感じて顔を上げると、王子がじっとこちらを見ていて……思わず赤面する。


「君は、思った以上に器用だな」


低い声でそう言われると、褒められてるのか、それとも観察されてるのか、余計に心臓に悪い。


「やっぱり、また着替えかよーーー!!!」


芸術チェックを終えた私に、今度は乗馬だと告げられる。

着替えの山はさらに積み重なり、ドレスから乗馬服へ。


きゅっとした上着に、脚にぴったり沿うズボンを履かされ……


……ん?あれ?


「ズボン、めっちゃ楽なんですけど!!もっと早く教えてよこれ!!」


思わず声が出た。裾の重たいドレスに比べたら、もう天国。

動きやすさが桁違いすぎて、感動で泣きそうだ。

侍女が苦笑しながらブーツを履かせてくれる。


厩舎に入ると、黒光りする立派な馬が待っていた。

近づくだけで蹄の音が響き、空気がぴりりと張り詰める。


でかい。こわい。動物園で見た馬と迫力が違う。

むしろ二回りは大きく見える。いや、これ絶対初心者用じゃないよね!?


「……ど、動物の方はあまり馴染みがなくて……」


娘の方なら多少……!多少ね!!ほんのちょっとだけ知識はあるけどね!!

オグリキャップにいくら注ぎ込んだことか……!


「一人で乗るのは危ういな」


隣に立った王子が淡々と告げ、すらりと馬に跨る。

その姿だけでもう絵画。様になりすぎてて反則。


次の瞬間には、すっとこちらに手を差し出してきた。


「私と一緒に」

「えっ、ちょ、待っ……」


返事をする暇もなく、がっちりと腕を掴まれてぐいっと引き上げられる。

気がつけば私は鞍の前に座らされ、背後から王子が片腕を回して手綱を握っていた。


……え、これ、抱きかかえられてる図じゃん!?!?


周囲の騎士や侍女たちが一瞬ざわつき、しかし揃って一斉に視線を逸らす。

な、なんでみんなそっぽ向いてるの!?

私の人生初乗馬なんだよ!?もっとちゃんと見守ってよ!!命かかってるんだから!!


ガチガチに固まる私をよそに、王子が軽く手綱を引く。

馬がとことこと歩き出した瞬間……


「動いたぁぁぁぁ!!歩くなんて聞いてないです!!!」

「落ち着け。常歩だ、ゆっくり歩いているだけだ」


背後から響く低い声が、耳元に近すぎて心臓がばくばく跳ねる。

思わず身体が揺れた瞬間、王子の腕にぐっと支えられた。


「バランスを崩したら危ない。そう、胸を張って、視線を前に」

「……っ、はい」


しがみつくように座っていたけれど、数分も経つと揺れに少しずつ慣れてきた。

風が頬を撫で、普段より高い目線で景色がゆるやかに流れていく。


……あれ?意外と、気持ちいい……?


背後から伝わる王子の体温が、不思議と恐怖心を薄めていく。

代わりにほんの少しだけ、背筋が自然と伸びた気がした。

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