遠いトラウマ
ピコンピコピコ鳴りやまない音
「先生お願いします!」
梓が駆け足で入ってくる。
看護師の叫ぶ声
5歳の男児が処置室のベッドに横になっている。
激しくむせて、涙目になりながら、俺に訴えかけてくる
「先生、今度は僕を救ってくれないの・・・?」
画面は変わって、公園の砂場を見つめる
何度も何度も繰り返し出てくるあの日の光景
「これだから俺もまだまだ弱いな…」
ぼそっとつぶやく。
とあることから自分は人と向き合うのは苦手だと気づいた上野梓38歳は
人と向き合う医者ではなく、植物の医者、いわゆる樹木医になっていた。
「あそこにおっきいのあるなぁ。そこで寝るか。」
ヘルメットを置いて木にもたれる
「あーおじさんが寝てるー」
と子どもの声が聞こえる
「こら、気にしないの」
と、母親の声
子どもが母親のほうを見て梓のほうを振り向くと、すでに梓は消えていた。
「ママ―おじさんがどっか行ったー」
指さすこども
「そんなことより顔にまで泥がついているじゃない。こっち向いて」
子どもの顔をグイっと自分のほうに寄せ、白いハンカチで拭く。
梓がゆっくりと目を開ける
___ そこには一面黄色のつつじのような花が咲いていた。
寝ていた公園の椅子がいつのまにか忽然と消え、梓の背後には
とても大きな木があった
あっけににとられて立ち上がると
自分の後ろにそびえたった樹木を頂点としなだらかに下のほうへ花が咲き誇っているのがわかる
「ここは…」
「あ、起きた!」
次は顔いっぱいに子どもの顔
え?小児科?前に勤めていた病院を思い出す。
「ここは一体どこだ…?」
ふと女の子を見ると
「君、けがをしているじゃないか!」
シトリーの顔や腕は血で汚れていた。
「ううん。これは私のじゃないから。でも羽がボロボロになっちゃった・・・からここに来たの!ここの木は力があるから羽なんかすぐに良くなるんだって!」
「あ!わたしシトリー!あなたは?羽ないのね?」
梓を覗き込んでいたのは、羽の生えた子どものシトリー(妖精)であった
シトリーは悪い魔物に襲われており、羽にけがを負っている…ということらしいが、
いきなり妖精とか!!!ファンタジーすぎるだろ・・・
ついていけない・・・
でもまぁ、人間ではないのなら、いいのか?
俺はとりあえずちいさい体の子が傷ついてるのを見るのが嫌なんだっ!!
「僕は梓人間だから羽はないね…」
「にんげんさん!初めて見たよ、シトリー!」
「えっと、シトリー?ここは一体どこなんだい?君は?」
「わたちは妖精ー!ここは妖精の国!」
「えっとシトリー、君の羽すごく痛そうなんだけど、どうやったら治るのかな?」
どうやらシトリーという要請から聞くに
妖精の羽は魔力のある特定の木の力でしか治せないらしい
魔力ですか・・・これまたファンタジー・・・
「妖精の羽はね魔法の羽なの!木からの魔力でしか治せないの!」
梓が目覚めたときに寄りかかっていた後ろにある木が、力のある木なのだという
まぁファンタジー世界の木も気になるし・・・木を診ていく
その方法にシトリーは興味津々である
それに気づかないふりをしながら聴診器をあてたり、銅棒で軽くたたきながら魔木を診察する
しかし、傷ついた体で木に頼るなんて妖精の世界の理はよくわからんな・・・
「お医者さんはいないのかい?」
「お医者さん?なんかかっこいい名前だね」
「みんな体が悪くなったり、怪我したらどうしているの?」
聞くと妖精の世界には医者というものがおらず、皆木の実や薬草を食べ、治しているのだという
治し方の文献などは一切なく、草が生えているところに近い妖精を探し、聞くのだという
なんとも古典的でめんどくさい方法である
こんどは強めに叩いて音を聞く。するとシトリーは「木を叩くな!」と怒る
幸い空洞が少なく、幹に栄養剤を入れればよくなることが分かり、ホッとする
しかし、木を叩いた梓を敵だと思ってポカポカ殴ってくるシトリー
「わかった、わかった。これだけ打たせて、ね、これ打ち込めば少し時間がいるけど良くなるから」
と言って木の栄養剤を打つと、シトリーは
「時間?そんなのなくても大丈夫だよ。この木は生きているんだから」と言う。
その瞬間、木は精力を取り戻し、周りに咲いていた植物もみるみるうちに息を吹き返す。
シトリーの羽も治る。
そういえば樹木医になってから、ヒトの治る姿を間近で見ておらず、感謝もされなくなっていたことに気づく。
「ありがと、おじさん」
花畑を駆け回るその姿に心を打たれた梓は泣き出してしまう。慌てたシトリーは
「そんなにおうち帰えりたいの?だったら私が手伝ってあげる。」
「え?」
「私はおじさんが元の世界に戻れる方法を探す!」という提案をしてくる。
「でもそれじゃあ君のためにならないじゃないか。そうだな…そうだこうしよう、僕が君たちの病気に効く薬全部つくる!それならどうかな?」
シトリーの治った羽と笑顔を見て梓は提案する。
「私たちのキズ全部治してくれるの?」
「あぁ、そうさ」
「それ、いいね!」喜びとともにぱたぱたと梓の周りを飛ぶシトリー。
重い鞄と軽い羽根、二人の冒険が始まる。
⦁あらすじ
とあることから自分は人と向き合うのは苦手だと気づいた上野梓38歳は人と向き合う医者ではなく、植物の医者、いわゆる樹木医になっていた。公園の木の点検が終わり、休憩中にちょうどいい大木を見つけ、寄りかかって寝ていた。起きるとそこは花が一面に咲く異世界であった。梓を覗き込んでいたのは、羽の生えた子どものシトリー(妖精)であった。シトリーは悪い魔物に襲われており、羽にけがを負っていた。妖精の羽は魔力のある特定の木の力でしか治せないと聞く梓。梓が目覚めたときに寄りかかっていた木が、力のある木なのだという。早速木を診ていく梓、その方法にシトリーは興味津々である。よく聞くと妖精の世界には医者というものがおらず、皆木の実や薬草を食べ、治しているのだという。治し方の文献などは一切なく、草が生えているところに近い妖精を探し、聞くのだという。驚く梓。大木を叩いて音を聞く。シトリーは「木を叩くな!」と怒る。幸い空洞が少なく、幹に栄養剤を入れればよくなることが分かり、ホッとする梓。しかし、木を叩いた梓を敵だと思ってポカポカ殴るシトリー。「わかった、わかった。これだけ打たせて、ね、これ打ち込めば少し時間がいるけど良くなるから」と言って打ち込もうとすると、シトリーは「時間?そんなのなくても大丈夫だよ。この木は生きているんだから」と言う。その瞬間、木は精力を取り戻し、周りに咲いていた植物もみるみるうちに息を吹き返す。シトリーの羽も治る。樹木医になってから、ヒトの治る姿を間近で見ておらず、感謝もされなくなっていた梓は、シトリーの「ありがと、おじさん」という言葉と、花畑を駆け回るその姿に心を打たれた梓は泣き出してしまう。慌てたシトリーは「そんなにおうち帰えりたいの?だったら私が手伝ってあげる。」「え?」「お医者さんが私たちの病気に効く薬全部つくる、私はおじさんが元の世界に戻れる方法を探す」という提案をしてくる。シトリーの治った羽と笑顔を見て「いいだろう、やってみよう!」と受け入れる梓。重い鞄と軽い羽根、二人の冒険が始まる。