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怪奇な鳥の妖精、いざ食わん

私たちは鈴蘭台駅に降り立った。駅前は小綺麗だった。橋本は案の定変な踊りをしている。

「大分急な坂やない?」

音雨さんが言った。梅雨上がりのいよいよ始まった夏本番の暑さに長い急斜面は体に応えるものがあった。

「ここやな。」

奥村さんが言った。目の前にはわっさわっさと生い茂った蔦と苔に覆われた廃墟のような建物があった。申し訳程度に点いている「カラオケ」の看板が、辛うじてここが営業していることを示していた。

「ヘィィいらっしゃいぃぃ‼︎」

おおよそカラオケ店員とは思えないような厳つい男が声をかけてきた。

「客やぞ‼︎」

橋本が負けじと言い返した。私は本能的に「マズい」と思った。そしてその予感は当たった。

「なんだァ?テメェ。」

男は橋本の耳元で声を低く言い放った。

「まあまあ子供なんだ、手を出してやんな。」

何処からともなく現れた気さくに「見える」小柄な壮年の男が厳つい店員の背中をぱんぱんと叩きながら言った。その時にチラッと見えた脇には和彫の刺青が入っていた。やっぱりここマズい店では?と思った。いやまあ実際にマズい店であることは分かって来たのだが。

「さあさあ、こちらへどうぞ。ごゆっくりお楽しみください。」

赤い蛍光灯のついた暗い廊下を歩いて行った。コンビニ程しかない建物だったが、その割にやけに広いように思えた。少し下り坂になっているし、地下にでも広がっているのだろうか。

「こちらのお部屋です。ドリンクバーは向こうにございます。」

と、男は廊下のさらに奥の、暗くなっているところを指さして言った。初夏らしからぬひんやりした風が駆け抜けた。

 「怖かったぁ・・・橋本は何してんの?」

音雨さんが言った。

「え、なんか悪いことした?」

と橋本。

「アホかあんた、殴られるとこやったで。」

と音雨さんは返した。

「まあええやん歌っていいんちゃう、することないし。」

元山さんが言った。

「じゃあええんやない?」

と奥村さん。

「唐揚げえええええええにマヨネーズううううううううぶっかけええええええええ‼︎」

と光輝さんは叫んだ。

「・・・カラオケと唐揚げ一緒にしてんちゃうで?」

音雨さんがぼそっと言った。

そして私たちは一時間くらい歌っていた。なんで来たのかも既に忘れていた。だんだん眠く、そして眠く・・・私たちは寝てしまった。

 どれだけ寝ただろうか・・・起きるとカビ臭い暗所にいた。全く光はない。

「みんなどこですか‼︎」

私は叫んだ。返事はなかった。

「なんすかここ‼︎」

私は泣きそうになりながら叫んだ。当然返事はない。私は半泣きになりながら手探りで動き出した。冷静に考えれば、何があるのか、形状がどうなってるか分からないのに動き回るべきでは無かったんだろうが、そんなこと考える余力は無かった。

 五分くらい動き回ると、大きい柔らかい物体に突き当たった。

「んあああ・・・唐揚げ・・・唐揚げ‼︎」

物体は大きく叫んだ。間違いない、光輝さんである。

「光輝さん‼︎」

私は抱きついた。

「唐揚げ・・・唐揚げが匂うぞぉぉぉおおお‼︎」

光輝さんが私の手を一応握って走り出した。

「え、ちょっと唐揚げの匂いなんかしないですよ⁉︎待って、待ってください‼︎」

私はそう言ったが光輝さんの耳には届かないようだった。

「うぐっ‼︎」

ドン‼︎という鈍い音とともに光輝さんがうめいた。しかしこの攻撃は有効だったようで光輝さんのぶつかった恐らく壁と思われるものがぽろぽろ崩れ出した。

「脱出できますね‼︎」

私たちは次の部屋に踏み出した。早速希望が溢れてきた。しかしその希望はすぐに踏み躙られた。異様な高温が押し寄せたのだ。

「ふぐぶぅぅうう‼︎」

暗がりの向こうからおおよそ人のものとは思えない叫び声が聞きこえてきた。

「唐揚げだあああああ‼︎」

「唐揚げが喋るわけないじゃ無いですか・・・」

光輝さんはどんどん加速していった。そして通路の最奥部にある禍々しい扉に突き当たった。扉はあからさまに熱そうだったが光輝さんはもろともせずに打ち壊した。

「うぅっ・・・‼︎」

扉の中は通路とは段違いに暑かった。百度あるのでは無いだろうか。今までに入ったどのサウナよりも暑かった。そして赤と黒の禍々しいまだらの光も目に入った。マグマ溜まりだ。

「コケ?コケ・・・コッケー‼︎」

マグマ溜まりの対岸には鶏の被り物を被った人のようなものが十数名ほどいた。何故人のようなものと言ったかというと、声があからさまに鶏のものであったか

らだ。それに百度くらいありそうなこの空間に於いてあり得ない程の厚着もしていた。

「見つけたぞぉおぉお‼︎唐揚げだあぁあぁ‼︎」

光輝さんは私を担ぎ上げ殆ど速度を落とさず進んでいった。この見境なく突き進む巨漢でもマグマに突っ込めば流石に死ぬと思ったが、なんと上手いこと熱くなっていない足場のみを選んで踏んでいったようで、全くの無傷でマグマ溜まりを渡り切った。人らしきものも想定していなかったようで、なす術もなく光輝さんに蹂躙された。

「あっっちゃああああ‼︎」

光輝さんは人らしきものが着ていた防弾チョッキらしきものを引き裂いた。すると中には本当に唐揚げが大量に入っていた。

「嗚呼・・・ジューシー‼︎」

光輝さんは見るや否やがっつきだした。

「ちょっと・・・それ大丈夫なやつですか?」

「大丈夫ぅ。僕は毒も食べ慣れてるから分かるんだ。これは大丈夫な奴‼︎」

「ほんとですかぁ?」

私は疑心暗鬼ながら一応その防弾チョッキを持っていくことにした。

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