人攫い
強気に「なんとかしてみる」とは言ったものの物凄く不安だ。死体遺棄がバレる可能性は流石に少ないだろうが、それでもパスワードの分からないスマホの解析なんか不自然極まりない。普通に考えれば盗みを働いたと真っ先に思われるであろう。
お姉ちゃんの彼氏のいる研究室の前に着いた。ボクは深呼吸をして部屋に入った。
「失礼します。喜多川さんはいますか?」
「おお、湊人くん。なんかあったん?」
「このスマホの中身解析して欲しいんです。前使ってたスマホなんですけどパスワード忘れちゃって・・・」
その時、廊下から姉ちゃんの友達と談笑する声が聞こえた。まずい。姉ちゃんにスマホを見られたら嘘を着いたことがバレてしまう。
「姉ちゃんには内緒でお願いします‼︎」
「お、おうわかったわかった。」
お姉ちゃんの彼氏は微笑みながら言った。どうやら恥ずかしいものが入ってるのを隠したいと思われてるようだった。まあ実際あながち間違いではなかった。
「それでは失礼します。」
これでボクのミッションは達成された・・・はずだった。
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光輝さんの家で遊んで奥村さんを待っていると、奥村さんが帰ってきた。
「はぁ〜・・・ただいまぁ〜・・・」
そう言うなり奥村さんは倒れ込んでしまった。相当緊張したようだった。
「お疲れ様・・・」
音雨さんが言った。
「ちゃんと行けたはず。まあ内容次第では疑われそうだけど・・・」
「えぇ、そんなんバレちゃうやろ。」
「もうそん時はそん時だぁ〜。」
「とりあえず奥村くん、食べようよよよよ。」
光輝さんが腹を空かせていた。なので全員昼を食べることにした。
そこからしばらくみんなでウルトラミリオカートをして遊んでいると、奥村さんに電話がかかってきた。
「姉ちゃんどうしたん?・・・え?・・・嘘・・・なんで?・・・」
そっと電話を閉じると奥村さんはガタガタ震えだした。
「な、何があったん?」
恐る恐る音雨さんが奥村さんに聞いた。
「姉ちゃんの彼氏が・・・消えた。」
「えーっと、どういうこと・・・?」
「分からない・・・失踪したのかな?もう一度研究室へ向かってみるよ。」
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ボクは研究室へと走り出した。何があったのだろう。この目で見るしかない。
研究室へと着くと衝撃の光景が広がっていた。部屋中のものが散乱していた。
「嘘やん・・・どうすんの・・・」
かなり抵抗したようだ。しかし血痕は付いていない。ボクはスマホを探した。
しかし見当たらない。直感的に「カズキ」を狙う集団のものだと思った。
「うわやべぇ・・・」
複雑な恐怖に襲われた。姉ちゃんの彼氏が拉致されたことそのものの恐怖は勿論、自分のせいで拉致されてしまった罪悪感、既に目の前まで差し迫っていたという恐怖、そしてこれから自分達へも矛先が向くのではないかという恐怖であった。しかも前より遥かに強大な。
「とりあえずみんなに言わなきゃ‼︎」
ボクは走りだした。
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しばらくすると奥村さんが帰ってきた。そして帰るなり崩れて泣きだした。
「ごめん・・・ほんとごめん・・・ボクのせいなんや・・・‼︎」
「待て待て一旦落ち着けや。」
元山さんが言った。
「ぼぐのっ‼︎・・・せいでっっ‼︎・・狙われるっっ‼︎」
過呼吸になりながら奥村さんが言った。
「なんだそんなこと分かりきってるでしょー?別に奥村くん悪くないやん。というかうちら誰も悪くない。」
音雨さんが諭すように言った。
「うぐっ・・・でも・・・」
「まだパソコンにデータ残ってないんけ?俺パソコンわからんけど。」
橋本が言った。するとまずみんな目をまん丸にして橋本を見た。その後音雨さんが
「あの橋本が・・・」
と言った。
「確かにそれは言えてるわ。奥村、場所どこ?」
元山さんが言った。
「えっどね・・・」
そうして私たちは大学へと向かった。
大学の研究室に入ると、接続されていたと思われるパソコンの電源を入れた。かなり古かったようで起動に多くの時間を要した。開くと、ファイルが散乱していた。
「もうちょっと片付けたらいいのに・・・」
音雨さんがぼやいた。デスクトップには無数のアイコンが乱雑に配置されていた。ここからあるかないか分からないデータを探し出さないといけないのだ。
「頑張ってみるわ・・・」
そう言うと奥村さんはキーボードをカタカタ言わせはじめた。
「多分これだと思う。」
そう言って奥村さんは「Kazuki_0826」というファイルをクリックした。
すると、大量の動画や写真フォルダーが出てきた。
「うわ何これ・・・」
音雨さんが悲鳴をあげた。当然だろう、そこには大量の全裸の中年男性や、暴行を受けてる女性の写真や動画が映っていたのだから。思わず私も目を背けた。
「きめぇ・・・けどトーク履歴も確認せんと。」
そう言い奥村さんはチャットのトーク履歴を確認しだしたようだった。
「何、こいつらヤクザなの?テロリスト?この大量のブラックリストは何?」
見てみると赤い不気味なメモ帳のページに黒字で名前が連なっていた。
「ここには『カズキ』の名は無いね・・・まあそらそうか。」
奥村さんがスクロールしながら言った。
「ん?これはなんや・・・?」
奥村さんは地図をクリックした。すると山の中にばつ印があった。近くには「藍那駅」と言う名前の駅があった。
「藍那・・・どこやろ。」
奥村さんは呟いた。
「藍那って神戸らしいで〜。」
元山さんが言った。
「神戸かぁ、今から行くか。」
奥村さんはみんなを見回して言った。みんなは当然頷いた。