うるさいうるさいお勉強しといてよ
翌日、私は初めて自由に外へ赴くことができた。というのは、今まで1人だけでの外出の自由を奪われていたから外に自由に出歩くこともなかったのである。勉強をすることと、門限は6時であることを条件に光輝さんの家へと行かせてもらえた。
「おお綾ちゃん‼︎いらっしゃい、鳥山さんの地獄へ〜‼︎」
光輝さんがいつもの如くゆっくりと出迎えてくれた。
「ちょっと地獄ってどういうことよ‼︎あ、綾ちゃんいらっしゃい‼︎」
「お邪魔しまーす」
これだけ言い光輝さんの家に入ると、光輝さんと音雨さん、あともう一人私より少しだけ背丈が高いくらいの小柄な眼鏡をかけた男がいた。
「初めまして。二宮さん、だよね?ボクは奥村湊人だよ。一緒に勉強頑張ろう、よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
音雨ちゃんがよって来て続けた。
「奥村くん賢いんだよ〜優しいし教えてもらいなよね‼︎」
「まあでも橋本の方がもっと点数高いんだけどね。なんであいつ寝てばっかなのにあんな点取れるんだろうね?」
「そういえば橋本・・・さんは来ないんですか?」
橋本に敬称をつけて呼ぶのに抵抗があまりにもあったのか、少し詰まってしまった。
「橋本はねぇ、いっつも遅いんだよぉ〜。僕より遅いくせにどうしてあいつはガリガリなんだぁ⁉︎」
「まあいいや、あいつはほっときゃくるでしょ。さっさとやりましょう!」
それから一時間半ほど静かにみんな集中して静かに勉強して、疲れ出して来た頃、光輝さんが「疲れたぁ‼︎やすもぉ?」と言い出した。
「もうしょうがないね・・・せっかくならこの辺散歩しない?これからの季節だと暑くて歩けなくなるよー?」
光輝さんは「んえぇ・・・」と何色を示したが、奥村さんも
「そうやな。元山くんもいるかもしれないしな。」
と乗り気であった。
「わかったよぉ・・・でも帰ったらご飯ね?」
渋々光輝さんも認め、散歩に出向いた。
歩いてる途中、小さな市民公園で音雨さんが「きゃっ‼︎」と短く叫んだ。公園を見るとムキムキの男が上裸で懸垂をしていた。
「よぉ!お前らこんなとこまで来れたんやな!」
かなり強面でムキムキなのと対極に物凄くのんびりした口調で話しかけて来た。なんだこれ。
「いいから早く服を着ろ‼︎この筋肉バカ‼︎」
「暑いねん・・・けど分かったわ冷房あるとこ行こう?」
そう言いその男は渋々服を着た。そして私の方を見て尋ねた。
「君ぃ、誰?」
「初めまして、二宮綾です。よろしくお願いします。」
「すごい律儀やな!ええ子や。そういや野田が言ってたような。」
「ちょっとおぉ。忘れないでよぉ。」
「ごめんごめん。じゃあ行こうぜ。」
そう言い男は走り出そうとした。けどすぐに立ち止まり私に話しかけた。
「あ、いうの忘れてたな。俺は元山悠人や。よろしくな。」
そして言い放った後元山さんは走り出していった。すると、奥村さんも後をつけるように走っていった。
「ちょおっとおぉお‼︎待ってよぉおぉ‼︎」
「いいよいいよ。うちらは歩いていきましょう。」
そう言ってこっちもゆっくり歩き始めた。そして音雨さんが私に話しかけた。
「ねーねー綾ちゃん。大人になったら何になりたい?」
「何になりたい、ですか・・・」
「ごめんごめんごめん!ちょっと難しいこと聞いたね。」
「いや大丈夫です!ただ考えたこともなくて・・・」
私は何がしたいんだろう。何になりたいんだろう。考えたこともなかった。親の暴力を避け、学内のいじめを避け、生き残ることしか考えていなかった。仲間が
いたことも無いし、将来の夢どころか進学のことさえ考えもしなかった。一体何になりたいんだろう。
「こんなこと言ってなんだけど、私も将来の夢はないんだ。なんなら進学先も決めていない。酷いでしょう?」
一番しっかりしてる音雨さんでもそうなんだ・・・
「料理人になろうよぉ。」
光輝さんがぼそっと呟いた。音雨さんはふふっと笑って
「そうね。」
とだけ言った。
「おーいお前ら遅いぞー‼︎」先にマンションの入り口に着いた元山さんたちが大声で呼んだ。元山さんはケロッとしている様だが、奥村さんは今にも倒れそうに見えた。
「もーあんたら待ちなさいよ・・・まあいいや、ご飯にしましょう。」
「僕が作るよお。」
「・・・量考えてね。」
「大丈夫だってぇ。僕が食うし悠人も食うんだからぁ。」
音雨さんと光輝さんがそう言い合った後、エレベーターに乗って光輝さんちに戻ろうとした。エレベーターから降りて光輝さんちに向かうと、扉の前に何かが座っていた。そして近づくとそれが橋本であることがわかった。
「どこ行ってたん?客やぞ。」
橋本がそう言うと音雨さんは橋本の頭をぱしんとしばき
「あほ、あんたが遅いんやろ。」
と言って鍵を開けて家に入った。そして光輝さんは料理を作り私達はそれを待った。
「できたよぉ‼︎」
そう言い光輝さんは水瓶のような巨大な皿に乗った炒飯を持ってきた。
「ちょっと・・・この量は食えんわ!」
音雨さんは悲鳴を上げた。
「え、こんくらい行けるやろ。野田もおるし。」
と、もう食べだしていた元山さんが言った。
「えぇ・・・まあいいわいただきます。」
そう言って音雨さんも食べ始めたので私も食べだすことにした。やっぱり間違いない。うまい。どんどん入る。半分くらい食べた時に橋本が近づいてきた。思わず私は睨んだ。
「なんですか?」
「え、太るんやろ?じゃあ豚バラ牛乳。」
思わず一瞬手が出そうにはなったが心を頑張って落ち着かせた。だってデブになりたいとか言ってしまった私が悪い。やるせなくなって私は白バラ牛乳をがぶ飲みした。光輝さんはニコニコして
「ぐぉおん、綾ちゃんいい食べっぷりだねぇえ‼︎」
と喜んだ。ついでに橋本もニヤニヤしていた。たいへん情け無い。
そうして昼休憩が終わり後半戦が始まる・・・はずだった。光輝さんが寝だしたのだ。ただ単に昼寝しているだけなら全く問題ないのだがいびきが本当にうるさい。轟いている。橋本は相変わらずスマホで漫画読んでるし他の人もまだあまり勉強に乗り気ではなかったが、この轟音は流石に参るので元山さんが
「おい野田、うるさい起きろ!」
と何回か叩いても起きなかったのでやむを得ずそのまま動かすことにした。しかし光輝さんの体は相当重いようでいつも筋トレをしていて背丈もある体だったが
かなり苦労をしているようだった。そうして光輝さんをなんとかトイレへ動かして、勉強を始めた。分からない問題がいっぱいあったのでその度に奥村さんに教えてもらったりしていた。こうしていつもの自習より習得することができた。
かなりの時間勉強をし、私はふと時計を見て
「もう六時ですか。」
とぼそっと呟いた。するといつのまに勉強を始めていたのであろう、光輝さんが「もうそろそろ帰るのぉ?」
と聞いてきた。
「そうですね、もういい時間ですし。」
「悠人ー帰ろー。」
そう言った橋本はもう既に片付けて鞄をさげていた。
「お前家の方面逆やんけ。」
元山さんが半ば呆れて言った。
「橋本はあんなマイペースな癖に帰る時は絶対誰かが一緒じゃ無いと嫌な寂しがりやなのねー。」
音雨さんはぼそっと私に言った。そしてみんなが帰路につこうとしたその時だ。
「ヴー!ヴー!ヴー!」
光輝さんのスマホの通知がけたたましく鳴った。光輝さんがスマホの通知を見るといつもニコニコしている顔から笑顔が消え、怒りと恐怖で引き攣ったような顔をして震えた。
「何これ・・・」
音雨さんもその通知を見て言葉を失った。その通知を見ると・・・




