脱獄ー迎えたエンドロール
私が目を覚ますとそこは小さなグラウンドだった。周辺の雑木林からはビームが天に向かって出ていたが、程なくして止んだ。夜空には満天の星が煌めいていた。
「どこやここ。」
元山さんが言った。
「ああ、ここは現世みたいだな。じゃあな。」
女性はそう言うとさっさと動きだした。
「ちょっと、結局あなた誰なんですか‼︎」
音雨さんが言った。
「さぁな。知らない方がいいと思うぞ。」
女性の後ろ姿は既に小さくなっていた。
「あー行っちゃった・・・みんなおる?」
奥村さんが言った。
「あいつおらんくね?」
橋本が言った。あいつとは恐らく光輝さんのことだろう。確かにいない。
「じゃあ探そっか。」
音雨さんが言った。私たちはしばらく光輝さんを探すことにした。
「おらんみたいやな・・・一旦帰るしかしょうがないんかな?」
元山さんが言った。私も納得するしかしょうがなかった。何故なら私達が降り立った場所は箕谷城跡公園という小さな公園であり、幾ら探してももう見つかる見込みは無かったからだ。
「にしても変な公園やな・・・箕谷城なんて聞いたことないし城跡っぽくもない。」
奥村さんが言った。
「とりあえず帰ろう。明日野田くんの家行ったらなんか分かるかもしれんし。」
音雨さんが言った。夜はもう白み始めていた。私達は急いで帰った。
家に帰ると当然のことではあったがとんでもなく叱られた。目が見えなくなるほど殴られた。そして夏休みが終わるまで自室からさえもほぼ出してもらえなかった。しかし光輝くんはどうしているのかという思いが心を巡り想いは強くな
っていった。光輝くんに近づけるように食べる量も更に増えた。
そして夏休みが終わった。学校に行く途中、たまたま音雨さんと鉢合わせた。音雨さんに光輝くんのことをきくと衝撃の事実を知らされた。
「野田くんは存在を消された。」
どういうことか意味が分からなかった。私は半泣きになりながら尋ねた。音雨さんは
「綾ちゃん落ち着いて。」
と言いながら詳しく説明を始めた。
「あの日は警察の人も来ていて親には今まで見たことのないような形相で怒られた。野田くんのことを必死に訴えても『信じられない』の一言で掻き消された。このままやと夏休みが終わるまで何もできないと思って、野田くんのマンションへ親や警察の抑止を無視して走った。みんなも同じやったようでマンションに着
くとみんな揃っとった。そしてインターフォンを押すと中から優しそうなお姉さんが出てきた。マンションの建物も階数も号数も間違えてない。四人もおるのに間違える訳ないし。でも最初からそこに野田くんは住んでいなかったように若い家族が暮らしとった。浦島太郎みたいに何年も経ってるってことはなくて、ちゃんと三日しか経ってなかった。それやのに五年もそこに住んでるって言っとった。それ聞いてもう存在がないんやなって思った。決定的な証拠がある訳やないけどそうやと思った。うちら何しろんやろ‼︎」
私は頭の中が真っ白になった。あの光輝くんが世界に拒まれた・・・?そんな訳ないと思った。光輝くんが存在しなかった訳ないやんか‼︎
「早くクラスに行って席探しましょう‼︎」
私は言った。音雨さんも頷き私達は学校へ走った。
下級生が上級生のクラスに入ることもできず、私は教室の外で待った。
「ダメや座席も無い。他の子に聞いても誰とか言っとる。」
音雨さんが息を切らしながら言った。本当に光輝くんは存在を消されてしまったのか?
放課後、私は一人で武庫川の河川敷に行った。ただただ呆然としていた。光輝くんは本当は居なかったのか?そんなことはない、光輝さんに会う前はゆるゆるだったスカートがパツパツになっていて、更にお腹がむっちり乗っている。光輝くんが居ない世界でこんな急に太ることはあり得ないし光輝くんが作ったものだ。
「ふっ。」
私は何故か笑った。とても悲しい筈だ。でも笑いが込み上げてくる。ぷよぷよになったお腹はまるで光輝くんに見え、微笑んでるように見えた。
「私も立ち止まっていられないよね。」
私は呟いた。脂肪は確かに幸福をくれた。残暑が続いていたが夕方六時はもう暗かった。流れる武庫川はかつてのサラダ油に見えた。
「おーいお前もデブになるか?」
私は武庫川に向かって叫んだ。頬は熱いものが流れるが、笑いは止まらなかった。私の腹は止まっちゃいけない。だってそうしないと光輝くんに笑われちゃうもんね。
〜〜〜〜〜完〜〜〜〜〜